バードリサーチニュース

林の鳥が多い東京と開けたところの鳥が多い水戸 土地利用の歴史が鳥類相を決める?

バードリサーチニュース2017年10月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ)・池野進(日本野鳥の会茨城県)

 昨年からはじまった「全国鳥類繁殖分布調査」。1970年代と90年代に調査が行なわれた全国約2300のコースを調査し,全国の鳥の分布図を描こうとしています。ニュースレターでもご紹介しましたが,ここまでに得られた結果から,夏鳥の復活(16年8月号)小型の魚食性鳥類の減少(17年9月号)など,全国的な鳥の変化が見えてきています。でも,全国分布図だけでなく「詳細分布図」もあるといいと思いませんか? そういうものがあれば,環境と鳥の生息状況の関係など細かいこともわかって,上記の増減の理由もわかるかもしれません。そこで,今年から,東京と茨城県水戸市で1kmメッシュでの詳細分布調査を始めました。
 その結果から,現在は東京も水戸もどちらも都市化が進んで似たような環境になってきているにもかかわらず,東京ではより林の鳥が多く,水戸では開けた場所の鳥が多いなど,広域の土地利用が影響していると思われる違いが見えてきました。

林の鳥が少なく,開けた場所の鳥が多い水戸

図1 水戸市のエナガの分布図。市街地をはずれたメッシュで少数が記録されたのみだった。区画は1kmメッシュ。

 今回,比較したのは,東京の山間部を除いた92メッシュ,水戸の100メッシュのデータです。それぞれのメッシュには約1㎞の調査コースが設置され,そこを2017年の繁殖期に2回調査し,見られた鳥の種と数を記録しました。

 「エナガが少ない!」送られてきた水戸のデータを分布図にして,意外に思ったのはそこでした(図1)。東京ではちょっと緑があれば,普通に見られるエナガですが,水戸ではほとんど記録されているメッシュがありません。よく見るとシジュウカラなども,東京ならいて当然の環境で記録されていないのです。その他の林の鳥も同様でした。反面,ヒバリ,キジなど開けたところにいる鳥は多くいます。東京のデータと水戸のデータを,各メッシュの森林率と生息数の関係をもとに比べてみると,ヤマガラやメジロといった林の鳥の個体数は,同じ程度の森林率の場所でも東京の方が多く,ハシボソガラスやハクセキレイといった開けた場所の鳥は逆に水戸の方が多いことがわかりました(図2)。スズメやハシブトガラスといった市街地の鳥は,東京がやや多めであるものの,大きな違いはありませんでした。

図2 東京と水戸で記録された各種鳥類の個体数と森林率の関係。線は回帰直線。樹林性の鳥では青い(東京)丸も線もオレンジの丸や線(水戸)より上にあり,東京の方が同じような環境でも個体数が多いことがわかる。反対に開けた場所の鳥はオレンジが上にあり,水戸の方が多いことがわかる。

 

定着からの時間が生息状況に影響?

図3 コゲラ,シジュウカラ,メジロの出現率の東京と水戸の違い(写真:三木敏史)

 次にいくつかの樹林性の鳥の森林率別の出現率を比べてみました。コゲラは森林率が10-20%のメッシュでは出現率が東京の方がかなり多かったのですが,それ以外の森林率では東京と水戸で大きな差はありませんでした。それに対してシジュウカラは全体的にやや東京の出現率が高く,メジロは東京と水戸の出現率に大きな差がありました。水戸でコゲラが繁殖期にみられるようになったのは1990年代,シジュウカラは2010年代,メジロはごく最近です。こうした定着からの時間が種による違いを生んでいるのかもしれません。もしそうだとすると,シジュウカラはまもなく,そしてメジロも将来には東京との差が小さくなるのでしょうか? それとも樹種の違いや気候の違いなどでその差は縮まらないのでしょうか? 今後の経過を見ていきたいと思います。

土地利用の歴史が鳥類相を決める?

 日本は森の国です。国土の7割が森林に覆われ,日本で繁殖している鳥は樹林性の鳥が多くを占めます。そのため,森林率が高い場所では生息鳥類が多いことが知られています(村井・樋口 1988)。

図4 東京と水戸の森林率と確認種数(水鳥を除く)との関係。東京では森林率が高まるにつれ確認種数も多くなるが,水戸ではそのような関係はない(水鳥を入れても同様の傾向があった)

 東京の水鳥を除いた確認種数と森林率の関係を見ると,これまで知られてきたように,森林率が高くなるにつれてその確認種数も増えていました(図4)。ところが,水戸ではこのような関係がないのです。その理由としては,前述のように東京には生息している樹林性の鳥が水戸では少ないことが考えられます。
 茨城県は農業県で,北海道に次ぐ農業収入を誇り,農地が拡がっています。半面,樹林率は大阪に次いで低いのです。そして関東平野にあるため,樹林性の鳥が多く生息する山との距離が離れていて樹林は孤立しています。住宅地として発展し,公園や緑道が整備されてきた東京とは異なり,樹林の鳥の移入が妨げられ,樹林の鳥が移入/定着しにくいのかもしれません。
 東京と水戸の一対一の比較のため,これが正しいのかどうかはわかりません。違う土地利用の歴史を持つ場所の情報が加われば,それが検証できると思いますし,もっと北の方や南の方の情報があれば,地理的な違いもわかるかもしれません。全国鳥類繁殖分布調査はもちろんですが,「詳細調査」にも参加しませんか? グループである程度まとまった範囲の1㎞メッシュを調査できそうな方がいらっしゃいましたら,ぜひご連絡ください。調査方法等お知らせします。一緒に鳥類相を決める要因を明らかにしましょう!

 最後になりましたが,東京の調査には80名の方に,茨城の調査には17名の方に参加いただきました。これらの皆さんの協力がなければ調査はできませんでした。ありがとうございました。