バードリサーチニュース

絶滅危惧鳥類アカモズはどこに何個体いるのか? 日本全国の調査から明らかになった危機的状況

バードリサーチニュース 2020年11月: 5 【論文紹介】
著者:北沢宗大(北海道大学)

北海道大学大学院生の北沢さんなど若手研究者が自分たちの野外調査の結果に,バードリサーチが中心となって行なっている全国鳥類繁殖分布調査のデータなども合わせて,アカモズが激減している現状を明らかにしました。その論文が Bird Conservation International誌に掲載されました。北沢さんに内容を紹介していただきます。

Kitazawa M, Senzaki M, Matsumiya H, Hara S & Mizumura H (2020) Drastic decline in the endemic brown shrike subspecies Lanius cristatus superciliosus in Japan. Bird Conservation International  doi:10.1017/S0959270920000556

アカモズってどんな鳥?

「あの鳥は昔たくさんいたんだけどなぁ」 野鳥観察をしていると頻繁に耳にするフレーズです。私の研究対象でもある「あの鳥」は,モズの仲間の渡り鳥のアカモズ(図1)です。アカモズは東アジアの広い地域で繁殖しますが,そのうちの1亜種の亜種アカモズ Lanius cristatus superciliosus 以降アカモズ)は,日本とその周辺地域(サハリン南部・千島列島南部)でしか繁殖しません。国内では主に本州や北海道で繁殖するとされ,私の生まれ育った新潟県内でもいくつかの繁殖地が知られていました。図2は新潟市で2005年に見かけた看板ですが,カワラヒワやムクドリに並びアカモズ(図2左上)が紹介されています。かつては,ムクドリやカワラヒワのように,たくさんのアカモズが生息していたのでしょうか。私はアカモズの観察を夢見てこの場所に2005年から2011年にかけて7年間通いましたが,残念ながらアカモズを観察することは叶いませんでした。

図2 新潟市西海岸公園に掲げられていた看板。いちばん左上にアカモズが紹介されています。ムクドリやカワラヒワ,シジュウカラと並んで紹介されていることから,看板が作成された当時(2005年よりずっと昔)にはアカモズが豊富に生息していたと推測されます。

図1 亜種アカモズ。2015年に北海道で観察された個体。この地点では,当時3つがい7個体が確認されていましたが,2018年および2019年には繁殖が確認されなくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それもそのはず,アカモズは1990年代までに日本各地で分布域が大幅に縮小していたのです。1970年代に実施された第1回目の全国鳥類繁殖分布調査では,本種は本州南部から北海道北部にかけての99メッシュで記録されていました。しかし1990年代の繁殖分布調査時に記録メッシュ数は21にまで減少し,この期間に分布域が約80%も縮小したことになります。また分布域だけではなく,個体数の減少もこの頃から報告されるようになります(例, 長野県野辺山: Imanishi 2002; 北海道石狩地方: Takagi 2003; 北海道ウトナイ湖: Tamada et al. 2017)。このような知見の積み重ねにより,アカモズは1998年に環境省レッドリストで準絶滅危惧に選定され,現在では,より絶滅の危険性の高い絶滅危惧IB類に選定されています。

日本全国での個体数調査

図3 1910~2000年代における亜種アカモズの繁殖分布域(a)と,2010年代における繁殖分布域(b)。過去の分布域は,86件の既往研究と4件のデータベースから推定しました。現在の分布域は全国規模の野外調査から算出しました。aの黒く塗りつぶされた地点で本亜種の繁殖あるいは繁殖行動が確認されました。bの楕円で囲まれた地域にて,繁殖あるいは繁殖行動が確認されました(詳細な地点情報は本亜種保全上の観点から非公開)。

 アカモズの劇的な減少が報告されてから,既に20年近くが経過しますが,残念ながら「繁殖地はどこで,どのくらいの個体数がいるのか?」といった基本的な情報さえ,現在もわかっていない状態です。このような情報は,絶滅の危険性を評価する上で欠かせません。アカモズを取り巻く状況は第2回目の全国鳥類繁殖分布調査時よりも更に悪化し,絶滅寸前な状況にある可能性も否定できません。
 このような状況に危機感を覚えた私は,同じように危機感を抱いて全国各地でアカモズの調査を進めていた先輩や同期たちと協働して,日本全国16地域でアカモズの個体数を数える調査を行いました。2010年から2019年にかけて,これらの地域をくまなく探し,個体数の記録と未知の個体群の発見に努めました。また,過去の本亜種の繁殖分布域を地図化するために,86件の既往研究と4件のデータベース(全国鳥類繁殖分布調査・河川水辺の国勢調査河川環境データベース・東京都鳥類繁殖分布調査・山階鳥類研究所標本データベース)を調べました。そして,野外調査で明らかになった現在の本亜種の繁殖分布域の地図と,推定された過去の繁殖分布域の地図を比較することで,繁殖分布域の縮小の度合いを定量化しました。

 その結果,国内における2019年現在の亜種アカモズの繁殖つがい数は149つがい,成鳥の総個体数は332個体と推定されました。国内における本亜種の繁殖分布域は北海道と本州の一部地域に限られ,過去100年間で90.9%縮小したと推定されました(図3)。更に複数年の個体数調査を実施した7地域のうち,調査期間(2010~2019)内では,本州中部の2地域では個体数は安定していたものの,北海道では2地域で個体群が消滅し,1地域で個体数が大幅に減少していました。本亜種の国内における個体数の少なさは,国際自然保護連合(IUCN)が定義するレッドリストカテゴリーのうち,シマフクロウやヤンバルクイナが含まれる「絶滅の危機に瀕している種(EN)」の基準を満たし,ヘラシギやノグチゲラが含まれる「深刻な絶滅の危機にある種(CR)」の基準にも迫っています。

今後の課題:アカモズの保全に向けて

 本研究により亜種アカモズの日本全国規模の個体数と,繁殖分布域,繁殖分布域の現在までの縮小度合いが初めて明らかになりました。世界でも日本周辺でしか繁殖しない,亜種アカモズの存続が非常に危ぶまれる状態です。私たちの研究により亜種アカモズの危機的状況を定量的に評価でき,本亜種の保全の重要性を根拠に基づいて訴えることができるようになりました。本亜種の絶滅を回避するためには,まずは現在残っている数少ない繁殖地を保全すること,アカモズたちが落ち着いて繁殖できるような環境づくりが重要であると考えます。繁殖地には,行政機関が管理する土地も含まれるため,そのような場所では今回の成果に基づき,保全への配慮のお願いできるかもしれません。また,繁殖地やその周辺には立ち入らないなど,私たち観察者・撮影者の配慮も欠かせません。
 本亜種の減少要因については詳しく明らかになっていません。1970年代頃までは,国内には薪炭林のような樹齢の若い森林が豊富に存在していました。このような環境は疎林を選好するアカモズにとって,好適な生息地だったかもしれません。そのため,アカモズの生息地の減少には,樹齢の若い森林の減少が影響した可能性があります(Yamaura et al. 2009)。また亜種アカモズは東南アジアで越冬すると考えられています。そのため,減少の原因は渡りルート上や越冬地に存在する可能性もあります。渡りルートや越冬地を解明することは,本種の危機的減少をもたらしてきた要因の特定につながる可能性があります。

アカモズ観察時のお願い

 アカモズの保全を進める上で,最低限のデータを揃えることができました。そこで,私たちは自分たちができる範囲でアカモズ保全のための具体的な活動を計画しているところです。ただ,アカモズの保全のためには,みなさま観察者や撮影者のご協力も欠かせません。もしアカモズを発見した場合,十分に距離をとって遠くから観察することが重要です。距離感の目安として,アカモズの声や動きに着目してください。「ギィギィギィ・・・」「ギチギチギチ・・・」といった声が聞こえたら,即座にその場から離れてください。アカモズがとんでもない恐怖を感じていると考えていいでしょう。また餌をもったまま同じような場所をうろうろしている場合もその場から離れてください。雛に餌を与えようとしているにもかかわらず,人間を警戒して巣に近寄ることができていない可能性があります。更に,農地や草原の中に入って観察するのも控えてください。ヒトが草原に入って踏み跡ができることにより,キツネなどの捕食者がアカモズの巣を発見・捕食する可能性が高くなります。道路や遊歩道から外れないで観察・撮影することが重要です。アカモズとの距離感やつきあい方を間違ってしまうと,その場所でアカモズを観察や撮影する機会が未来永劫に失われてしまう可能性があることを心に留めておいて戴けたら幸いです。また,地元の方の中にはアカモズとの距離感について詳しい方がいるので,ぜひ地元の方の注意には耳を傾けてください。

引用文献
Imanishi S (2002) The drastic decline of breeding population on Brown Shrike Lanius cristatus superciliosus at Nobeyama Plateau in central Japan. J Yamashina Inst Ornithol 34: 228-231.
Takagi M (2003) Philopatry and habitat selection in Bull-headed and Brown shrikes. J Field Ornithol 74: 45-52.
Tamada K, Hayama S, Umeki M, Takada M & Tomizawa M (2017) Drastic declines in Brown Shrike and Yellow-breasted Bunting at the Lake Utonai Bird Sanctuary, Hokkaido. Ornithol Sci 16: 51-57.
Yamaura Y, Amano T, Koizumi T, Mitsuda Y, Taki H & Okabe K (2009) Does land-use change affect biodiversity dynamics at a macroecological scale? A case study of birds over the past 20 years in Japan. Anim Conserv 12: 110-119.

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