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論文紹介 スズメ目の鳥類による脊椎動物の捕食:既知の観察例のまとめの試み

バードリサーチニュース 2024年4月: 3 【論文紹介】
著者:植村慎吾

前回のニュースレターでは、食性データベースに登録数の多い方たちの観察方法を紹介しました。今回は、同じく登録数が多く、いつもフランス語の文献を翻訳して送ってくださる菊地有子さんから、食性データベースに関連する内容の翻訳記事をいただいたので、それを紹介します。食性データベースで収集しているような1件1件の記録が間違いなく役に立つということを感じていただければと思います。

「La prédation de vertébrés par des passereaux : essai de synthèse des cas connus」
(スズメ目の鳥類による脊椎動物の捕食:既知の観察例のまとめの試み)

 この報告は、フランスの鳥類保護連盟(LPO France)が発行する『Ornithos』という研究誌に掲載されたものです。Ornithos誌は、フランスとヨーロッパの鳥類の観察、同定、分布、生態などに関する記事やメモを掲載するフィールド鳥類学者のための研究誌です。Bird Research誌のような立ち位置のようです。

 内容は、日ごろ主に昆虫などの無脊椎動物を食べるスズメ目の鳥が、脊椎動物を食べたという珍しい観察例を26種の鳥についてまとめたものです。多くの鳥の食性情報が充実している本などに記述された情報を挙げつつ、Ornithos誌などに投稿・掲載された珍しい食性情報をまとめてあります。
例えばニシノビタキの例はこんな感じ。

ニシノビタキ Saxicola rubicola
この鳥によって偶発的に食べられる脊椎動物の中で、Cramp & Simmons (2020) とBillerman et al. (2022) は、小さな魚と、(体長8 cm 以下の)トカゲを挙げている。これらのデータは、Johnson (1971) に依拠しているが、彼はこう述べている。「ニシノビタキが小さな稚魚を捕るために水面上でホバリングしたという確実な事例がある。」他に、我々の同僚 Geoges Oliosoによるボークリューズでの2件の観察がある。それは1976年3月26日、ノビタキによるカナヘビ科のトカゲの一種 (Psammodromus edwarsianus) の捕食と、1972年9月22日、トカゲの一種 (Chalcides striatus) の捕食である。

ノビタキ

脊椎動物の分類群ごとの捕食事例の多さ

スズメ目の各種が珍しい捕食事例としてどのような脊椎動物を捕食したかという記録を順に概観した後は、餌となった動物の分類群ごとに、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類がそれぞれどんな鳥に捕食されているかをまとめています。それによると、紹介した26種のスズメ目の鳥による脊椎動物の捕食のうち、爬虫類が全体の約47%で他より圧倒的に多く、次いで両生類が24%、哺乳類12%、鳥類10%、魚類8%と続く結果でした。

それでは、それぞれの分類群の脊椎動物が、どんな鳥の捕食にあっているのかを見てみましょう。

 

魚類

魚類がスズメ目の鳥の餌になった例は少なく、クロウタドリ、ノハラツグミ、ヨーロッパコマドリの3種でのみ確認されている。ヨーロッパコマドリについては、魚類の捕食に関連する報告が4件あり、他の2種よりも魚類を捕食することに慣れているのかもしれない。

ノハラツグミ(撮影:三木敏史)

両生類

スズメ目の鳥に捕食されるなかで圧倒的に多いのはカエルの仲間である。カエルが捕食されたという観察例はイモリやサンショウウオの観察例の合計よりも多かった。

爬虫類

餌となった脊椎動物の中でも割合が特に高いのが爬虫類。いわゆるトカゲの仲間の捕食例が多い一方でヘビの記録はわずか8%だった。ヘビを食べたのはクロウタドリとイソヒヨドリで、いずれも他のほとんどのスズメ目の鳥よりも大きい鳥だった。スズメ目のなかでもトカゲは特によく捕食されている。まとめに挙げた26種のうちなんと20種で、少なくとも一度はトカゲを捕食したまたは捕食のために殺したことが観察されている。

食性データベースより、イソヒヨドリがニホンヤモリを捕食している様子(撮影者氏名非公開)

鳥類

鳥類がスズメ目の鳥に捕食されたというほとんどの観察例は、ヒナか巣立ち直後の幼鳥だった。鳥類を捕食した記録があるのはホシムクドリと、かなり大型のツグミであるクロウタドリとヤドリギツグミだった。そのほかの記録として、シジュウカラが厳冬期にキクイタダキの成鳥を殺して一部を食べた記録がある。

ヤドリギツグミ(撮影:三木敏史)

哺乳類

スズメ目の鳥による哺乳類の捕食は非常に例外的な記録と言える。クロウタドリ、ウタツグミ、イソヒヨドリによるネズミなどの捕食記録がある。その他、シジュウカラやアオガラが冬眠中のコウモリを捕食したという驚くべき記録もあった。


筆者は、こうした脊椎動物を捕獲した観察例はほとんどが、巣にいるヒナに与えた、または与えようとした例だということに注目しています。ヒナの餌は通常は昆虫やクモなどの無脊椎動物です。ヒタキ類のような厳密な昆虫食の鳥で、昆虫以外の脊椎動物を餌としてヒナに与えようとした例が近年増えているそうです。ヨーロッパ(や世界中)で昆虫は著しく減少していて、餌として与える昆虫の減少が、昆虫食の鳥たちを小さい脊椎動物を餌として利用することの開拓に向かわせているのかもしれないと述べていました。

 脊椎動物の捕獲例がヒナへの給餌に偏っていることについては、ヒナへの給餌は同じ場所で繰り返し観察しやすいので、何度も観察しているとたまには珍しい脊椎動物を餌として持ってくるのを観察できる、ということはあるかもしれません。ヒナへの給餌だけでなく、成鳥の食べ物、年間を通しての食べ物を蓄積することが必要です。バードリサーチで行っている食性データベースで、今後何年にもわたって情報が溜まってくると、環境の変化などによって食性が変化しつつある、なんてことを定量的に示すことができるようになるはずです。

 紹介した報告本文のおわりに「最後に」として書いてあった内容が、食性データベースの動機に通じていてぜひ紹介したいと思いましたので、この部分の菊地さんによる翻訳全文を記します。太字部分は後に補足します。

「最後に、行動や事実に関する記録を発表することの意義について、読者の皆さんに関心を持っていただきたいと思います。それは、スズメがカエルを捕まえたといった余談やささやかな話題と思われるかもしれないですが、実はこうした小さな記事こそ、たとえ短くても、ささやかでも、科学的知識のエッセンスなのです。なによりも、いつもと違う行動を報告するために鳥類学雑誌に何行かの記事をお寄せ下さった方々に、感謝の気持ちを捧げます。私は本稿でその記録の全部あるいは一部を引用することで、それに光をあてることができました。一人一人のナチュラリスト、市民バーダーが、それぞれに本稿のようなまとめ記事を充実させることのできるデータを持っているのです。短報や記録、あるいは鳥類学雑誌(もちろんできればOrnithos誌…)の通信欄に小さな記事を送ることで、皆が知識を共有することを、私は願ってやみません。」

いつもと違う行動 … いつもと違う行動は「いつも」がわかっていてこそ気づきます。食性データベースでは、普通の鳥の普通の食性記録を地道に蓄積することを第一に考えています。普通の食性記録の蓄積から見えてくることはたくさんありますし、その中にいつもと違う行動があれば、地道な蓄積があるおかげでそれらを発見することができます。今回紹介した報告は、Ornithos誌などの研究誌に短報などで報告されて掲載に至った観察記録を参照して内容をまとめたものです。参照された観察記録は、食性データベースでいうところの1件の観察記録に相当するといえます。食性データベースは、入力項目が多く(必須項目は最低限にしています)入力が大変かと思いますが、短報などで論文として報告することに比べるとかなりハードルが低いはずです。

一緒に情報を蓄積していきましょう!

食性データベースはこちら

食性データベースより、ヒヨドリの採餌(撮影:氏家悦子)

 

引用文献

Cramp S & Simmons K. E. L (2020) BWP: Birds of the Western Palearctic app. NatureGuides Ltd. Oxford University: Oxford.

Duquet M (2023) La prédation de vertébrés par des passereaux : essai de synthèse des cas connus. Otnithos 30–4:187–211

植村慎吾 (2024) 食性データベース 3000件 登録数の多い人の観察方法は?.バードリサーチニュース 2024年4月: 2. https://db3.bird-research.jp/news/202404-no2/

 

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