バードリサーチニュース

調査研究支援プロジェクト2023年度 ~投票結果のご報告~

バードリサーチニュース 2024年4月: 4 【活動報告】
著者:高木憲太郎

 2023年度もバードリサーチ調査研究支援プロジェクトへのご協力をいただき、ありがとうございました。その投票結果をとりまとめましたので、ご報告いたします。

 2023年度は20件の応募の中から選ばれた9件と、バードリサーチからの1件を合わせた10件の調査研究プランが支援対象でした。投票総数は661票,支援総額は1,984,000円でした。このうち8割を得票数に応じて分配し、2割を10件の調査研究プランに均等割りで分配して、各調査・研究プランごとの支援額を決定し、支援先に贈呈いたしました。661票は2022年度の738票、2021年度の675票に次ぐ数です。たくさんのご投票とご寄付をいただき、皆さまには心よりお礼申し上げます。

2023年度の投票結果

図.投票者数と一人あたりの投票数の推移(上)と2023年度の上位5件の得票数.

 このプロジェクトを始めて13年が経ちました。その間に投票数や寄付額も増えてきましたが、投票&寄付してくださる皆さんの人数も大きく変化しており、2023年度は294名の方が投票&寄付してくださいました。節目となったのは2017年度で、この年は池野進さんと安藤温子さんによる調査研究プラン「防鳥ネット羅網死根絶に向けたハス田におけるカモ類の採食方法とその頻度の解明」が単独で220票を集めた年でした。この年以降も投票&寄付してくださる方は増えており、近年は2票以上(1つの調査研究プランに複数の場合と、複数の調査研究プランにわけて投票する場合の両方を含む)投票してくださる方が増えているのが特徴です。このプロジェクトには、毎年興味深い調査研究プランが集まっていますが、それを読んで調査や研究の面白さに触れ、応援したいと思ってくださっていると思うと嬉しいです。支援先の研究者の皆さんからも、多くの方に応援してもらえていることが調査研究活動の支えになっているという声をよく聞きます。
 2023年度の調査研究プランの中で最も多くの票を集めたのは原星一さんによる調査研究プラン「龍飛から全国へ、夜に渡る鳥の目視による種別カウント調査-夜渡り調査の継続と、全国の新しい観察地開拓に向けて-」でした。それに続いた得票数2位の細谷淳さんたちによる調査研究プラン「キタアラスカハマシギが減っているのは日本の越冬地のせい? ハマシギの日本での越冬期の生存率を調べたい!」と得票数3位の大坂英樹さんによる調査研究プラン「皆で地鳴きから夜の小鳥の渡りを調べる(初年度:基礎検討)」をご紹介します。

 

夜に渡る鳥の目視カウント 秋から春へ 龍飛から全国へ
 原さんによる夜渡る鳥の種の識別調査は3年連続で支援対象になりました。これまでにも多くの成果を挙げてきていますが、今年はデータを積み上げるだけでなく、調査地を広げていこうとしています。これまでは秋にのみ調査していましたが、今年度は春の南から北に渡る鳥の調査にも挑戦します。また、調査地を増やすため勉強会を開いて技術を伝えていく計画です。春にはどんな傾向が見られるでしょうか?越冬地でペアになった鳥が、2羽ずつ渡っていくなど、秋と違う発見があると面白いですね。また、この方法が各地に広がっていき、種ごとに違うルートで渡って行くなど見えるようになったら・・・今後の展開から目が離せません。

原星一さんによる調査研究プラン

 

ハマシギの越冬期生存率をレッグフラッグで調べる
 日本で越冬するハマシギの個体数は減少しています。また、北米大陸北極圏で繁殖する同種の3亜種の中で、日本に来ている可能性のある亜種キタアラスカハマシギだけが生存率が低く、中継地や越冬地に原因があるのではないかと指摘されているそうです。そこで、細谷さんたちはハマシギを捕獲して標識し、越冬期の生存率と、来秋の帰還率を調べ、減少の原因が彼らの生活史のどこにあるのか探ろうとしています。渡り鳥の生態の解明は、発信機やGPS、ジオロケーターなどの機器の進歩によって大きく進みましたが、目視による観察が力を発揮する場面もあります。細谷さんたちは自身による調査だけでなく、各地から目撃情報を集める計画を立てています。ハマシギを観察する際は、その脚に注目してください。

細谷淳さんたちによる調査研究プラン

 

夜渡る小鳥の参加型フライトコール調査
  星が輝く夜空を見上げている時、ホオジロ類やツグミ類の声が空から聞こえてくることがあります。大坂さんは得意の録音&音声解析を武器に、夜空を鳴きながら渡っていく鳥のモニタリング体制づくりに挑戦します。この調査は参加型調査で実施する内容となっており、大坂さんは地鳴き音声データの提供や、自宅等でICレコーダーによる録音をしてくれる協力者を募集していました。右のようなパンフレットも作成されていました。募集を始める際に大坂さんは10名ぐらいの参加があればいいなぁ、と言われていた中、13名の参加と北海道から沖縄まで録音サイトが集まったと報告いただいています。どんな成果が得られるのか、楽しみに待ちましょう。どんなことをやるのか、調査研究プランに加えて、Webサイトの参加者募集ページに詳しく書かれています。

toriR Lab.
参加者募集 〜みんなで夜のフライトコール録音(NFC録音)調査〜

大坂英樹さんによる調査研究プラン

 

調査研究支援プロジェクト2023 支援先調査研究プラン
今年度の調査研究プランの内容について、もう一度確認したいという方は、下記のリンクからどうぞ。
どれも興味深い調査や研究です。良い成果が得られることを期待したいと思います。

001 日本のコミミズクの繁殖地を探れ
   高橋佑亮・長井和哉・東淳樹(東北自然史研究会)
002 ジョウビタキの高山進出 実態の解明
   飯島大智(東京都立大 学振PD)
003 龍飛から全国へ、夜に渡る鳥の目視による種別カウント調査
    -夜渡り調査の継続と、全国の新しい観察地開拓に向けて-

   原 星一
004 ネコの病原体が野鳥を脅かす?
    -奄美大島における鳥類のトキソプラズマ感染調査-

   鈴木遼太郎(日獣大・院・獣医生命科学 博士後期1年)
005 皆で地鳴きから夜の小鳥の渡りを調べる(初年度:基礎検討)
   大坂英樹(トリルラボ)
006 ウチヤマセンニュウの保全は島だけじゃダメ!!
    -未確認繁殖島と本土部の葦原の利用状況調査-

   大槻恒介・山口典之(長崎大・院・水産環境)
007 もしかして:見栄っ張り
    リュウキュウコノハズクは広告声を用いて強い自分を演出する説

   武居風香(北大・理学部4年)
008 南西諸島の渡り鳥、『音』を使って追跡する!
    -AI を用いた森の見える化への挑戦-

   天野孝保1・道上竣介2・江指万里3・加藤銀次4・惣田彩可5・末田晃太6
    (1長崎大・院 2東京工業大・院 3北大・院理 4鹿児島大
     5京大・院 6北大・院環境科学)
009 キタアラスカハマシギが減っているのは日本の越冬地のせい?
    ハマシギの日本での越冬期の生存率を調べたい!

   細谷淳1 ・飯塚拓也・飯塚彩子・橋本宣弘・田谷昌仁1,2・竹田山原楽1,2
    ・井上遠(1日本鳥類標識協会 2東北大学 生命科学研究科)
010 食性データベース
    記録が少ない場所での記録を充実させる!

   バードリサーチ

 

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今年度の調査研究支援プロジェクトの運営には、
学校法人 滋慶学園 TCA東京ECO動物海洋専門学校
よりご支援いただいています。

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