バードリサーチニュース

研究誌新着論文:カワウによるドブネズミの捕食

バードリサーチニュース 2024年5月: 1 【活動報告,研究誌】
著者:植村慎吾

植村慎吾・遠藤哉樹 (2024) カワウによるドブネズミの捕食.Bird Research 20: S35-S37.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.S35

食性データベースに投稿された採餌記録から、カワウがドブネズミを食べたという報告です(図1)。カワウは漁業との軋轢があることもあって、食性については世界中で膨大な量の研究が行われてきました。カワウの主な食べ物は魚類で、他に甲殻類や昆虫、貝類、両生類なども採餌することがあります。しかし、カワウが哺乳類を食べたという例は1940年と1954年にヨーロッパで断片的な観察例があるだけで、これまでにほとんど知られていませんでした。今回の報告はカワウが哺乳類であるドブネズミを捕食したことを初めて直接観察で記録したものです。

図1: ドブネズミを咥えたカワウ

 

報告の投稿経緯

食性データベースの登録件数が1000件を超えたころ、カワウがネズミを食べたという記録が投稿されてきました。自由記述欄には「採食の瞬間は分からず、奪い合いで暴れはじめたので写真を撮りました」という記述。私は以前に、糞の中に残る餌生物のDNAを解析することでカワウの食性を調べるという仕事をしたことがあってカワウの食性に少し詳しくなっていました(バードリサーチニュース 2022年 9月: 3)。そのときに参照したカワウの食性についての様々な論文には、カワウの餌として哺乳類が記録されたものは見たことがありませんでした。そこで記録を登録してくれた遠藤さんに短報での投稿を提案して共著で書いたのがこの報告です。ドブネズミが珍しい餌だということは、カワウの食性についてこれまでに世界中で多くの研究が行われ、情報の蓄積があったことで気づくことができました。食性データベースでは普通種の普通の食性情報を蓄積することを第一に運営していけたらと思います。

 

ザリガニの捕食記録も

これは報告には入れなかった内容ですが、ドブネズミの捕食例の登録から程なくして、遠藤さんからもう一件、アメリカザリガニを食べたという記録も投稿されてきました(図2)。

図2: アメリカザリガニを咥えたカワウ

ネット上で検索すると、カワウがザリガニを食べている写真はときどき見つけられます。しかし、ザリガニもカワウの餌として記録されることの少ない種です。先行研究では、一般に甲殻類は魚類と比べてエネルギー価が低く、カワウにとって魅力的な餌であるとは言えないと考えられています(新妻ら 2014)。また、コロニーで長期間の食性を調べてみると、カワウが魚を餌として多く利用しているときにはアメリカザリガニをあまり食べていなかったことからも、カワウは魚類が少ないときに代わりの餌として甲殻類を食べているのかもしれないと考えれています(土屋 2013)。食性データベースに登録されたザリガニの捕食例は東京上野の不忍池からの記録でした。ここはすぐそこにカワウのコロニーが形成されています。生息密度の高い場所では餌にあぶれた個体がザリガニを食べていたりするのかもしれません。カワウの普段の食性を蓄積して、都市にある生息密度の高い環境とそうでない場所で、食性の違いがもしも見えてくると面白いですね。

 

普通種の普通の食性を蓄積する

食性データベースでは上で述べた通り、普通種の普通の食性を蓄積することを第一に情報を収集していきたいと考えています。現在の登録件数は4000件弱、約250種の鳥の採餌情報が集まっています。ムクドリがイモムシを咥えていた、コサギが小魚を捕まえたなど、皆さんの日ごろの観察を登録していただけると嬉しいです!

食性データベースはこちら

 

参考文献

新妻靖章, 土屋健児, 粂ひとみ, 別所透, 風間健太郎 (2014) カワウの餌の栄養素とエネルギー価. 山階鳥類学雑誌, 45(2), 93-97.
土屋健児・風間健太郎・井上裕紀子・藤井英紀・新妻靖章 (2013) 中部地域におけるカワウの育雛期の食性の繁殖地および年による違い. 日本鳥学会誌, 62(1): 57-63.
植村慎吾 (2022)糞中DNAメタバーコーディングによるカワウの食性解析.バードリサーチニュース 2022年9月: 3. https://db3.bird-research.jp/news/202404-no2/

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