バードリサーチニュース

生態図鑑 コチドリ

バードリサーチニュース2020年4月: 2 【生態図鑑】
著者:笠原里恵

コチドリの成鳥雄夏羽

○英名 Little Ringed Plover

○学名 Charadrius dubius

○分類 チドリ目 チドリ科

○鳴き声
 警戒している時などにピゥ,ピィー,と短く,またはピピピと早口で鳴く.


○生息環境

 河川の増水が植生の遷移をリセットし,砂礫地を維持するような動的な環境に適応している.地表面に植物が繁茂すると姿を消す.

○繁殖システム
 基本的には一夫一妻.雄は3月頃に渡来し,すぐになわばり形成をはじめる.4月中旬-6月下旬に産卵する.雌雄ともに抱卵と抱雛を行う.同じ雌雄で複数年繁殖することもある.

○越冬地と渡り経路
 2017年に,長野県千曲川中流域からGPSで渡り経路を調べた研究から(Kasahara et al. 2020),秋の渡りは,日本の繁殖地を出発した後,中国や台湾を経由してフィリピンに南下し,ルソン島,ミンドロ島,ミンダナオ島と,広い範囲で越冬していることがわかった.春の渡りは,秋の渡りを逆になぞるように台湾や中国を経由して日本に戻った.繁殖地から越冬地に到着するまでの期間は32-136日で移動距離は3108-4226㎞だった。 

○非繁殖期の利用環境
 
非繁殖期に最もよく利用された環境は水田であった.コチドリの水田への依存度の高さは,気候変化や農地転換などで水田が減少すると,個体の生存率の低下などを通して個体群に大きな負の影響を与える可能性を示唆している.2020年3月現在,コチドリは,幸いにも,まだ日本の環境省やIUCNのレッドリストでは危惧種に指定される状況にはない.しかし,本種の将来的な減少リスクを軽減し,日本における個体群を維持していくためには,繁殖地としての日本の河川の砂礫地を維持することと同時に,渡り経路上や越冬地における水田の維持が重要であり,関係する国々との連携が求められる.

◆その他掲載記事
 ・全長,自然翼長,尾長,露出嘴峰長,ふしょ長,体重
 ・羽色
 ・分布
 ・巣
 ・卵
 ・ディスプレイとつがい形成
 ・抱卵・育雛期間
 ・食性と採食行動
 ・イカルチドリとの関係

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