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冬鳥が留鳥に 日本の鳥の「渡り性」の変化

バードリサーチニュース 2024年3月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之

 冬鳥だったジョウビタキやミヤマホオジロが,近年,繁殖するようになっています。この2種は今でも主には冬鳥ですが,ハクセキレイのように1970年代までは冬鳥だったのに,今は ほとんどの場所で留鳥になっている鳥もいます。このように「渡り性」が大きく変わった種にはどのような鳥がいるのでしょうか?

 2016年から2021年にかけて全国鳥類繁殖分布調査と越冬分布調査が実施されました。この結果と1970年代に実施された繁殖分布調査と1980年代に実施された越冬分布調査の結果を比較することで,日本の鳥の渡り性の変化について見てみました。その結果,以前冬鳥だった鳥が留鳥などに変化したものが多いことがわかりました。

繁殖分布調査と越冬分布調査の比較

 全国繁殖分布調査と全国越冬分布調査は情報をメッシュに集計して分布図をつくっています。そのメッシュサイズは調査によりさまざまですが,一番メッシュサイズの大きい40kmメッシュに揃えて,調査結果を比較してみました。
 ある鳥が留鳥だとすると,繁殖期と越冬期,両方とも記録できたメッシュが多くを占めることになります。そして夏鳥だとすると繁殖期にだけ記録されたメッシュがほとんどになります。そこで,全ての種について,両季節で記録できたメッシュの割合(留鳥指数),繁殖期にだけ記録されたメッシュの割合(夏鳥指数),越冬期にだけ記録されたメッシュの割合(冬鳥指数)を計算してみました。そして,1970-80年代と2010年代で比較することで,渡り性の変わった種を抽出してみました。

冬鳥からの変化が多い

 各種鳥類の渡り性を示す,冬鳥指数,夏鳥指数,留鳥指数が1970-80年代と2010年代で大きく変わっていた種には,表1に示した15種があげられました。そのうち,カワウ,アオサギなど12種は,1980年代は主に冬鳥だった鳥たちで,冬鳥から留鳥への変化が多いことがわかりました。夏鳥からの変化はヒクイナとサンショウクイの2種,ヤマセミは1980年代は留鳥指数が高く,留鳥的な場所が多かったのですが,2010年代は夏鳥指数が最も高くなりました。

誤記訂正(2024/4/2) 表1のnの値が1970-80年代のものと2010年代のものが入れ違いになっていたのを訂正


 繁殖分布調査,越冬分布調査の結果では,繁殖期よりも越冬期の方が分布の変化が大きいことが示されていて,また国外でもそういう研究例があることから(Lehikoinen et al. 2021),集計するまでは「温暖化の影響で夏鳥が留鳥になったりしているのが多いのかな」と思っていたのでちょっと意外な結果でした。でもよく考えると,越冬期の分布変化は冬鳥の分布が北に拡がっているのが多いので,渡り性の変化とはならないのですね。

図1 1970-80年代に冬鳥だったのが2010年代には渡り性が変化していた鳥たち。1960-70年代に農薬の影響で減少したと考えられる魚食性や鳥類食性の上位捕食者にあたる種が多かった。左上から下に,カワウ,ダイサギ,アオサギ,ミサゴ,オオタカ,ハヤブサ,オオセグロカモメ,ウミネコ(写真:三木敏史)。

 

農薬による減少からの回復で渡り性も変化?

 これらの冬鳥から留鳥に変化した鳥たちを見ると,カワウ,サギ類,ミサゴといった大型の魚食性の鳥と,ハヤブサ,オオタカなどの鳥類食の猛禽類が多いという共通点があります。これらの鳥たちはDDTやaldrinなどの農薬の生物濃縮が強く悪影響を及ぼすとされる食性をもつ鳥で,全世界的に減少し,その後の使用規制により回復してきています(Newton 1998)。日本でもDDTは1971年に販売が禁止されています。1970-80年代の調査時はその影響が残っていて,これらの鳥は日本ではあまり繁殖せず,越冬期に北から移動してくる個体が多かったのが,個体数の回復とともに,日本でも広く繁殖するようになり,冬鳥から留鳥への変化が起きたのかもしれません。また,オオセグロカモメやウミネコについては,こうした変化とともに,オジロワシの留鳥化で,集団繁殖地でオジロワシに狩られることが増え,それを避けるために繁殖地が分散していることも変化を後押ししているのかもしれません。
 夏鳥からの変化が見られたヒクイナやサンショウクイ(含むリュウキュウサンショウクイ)は前述したような温暖化の影響の可能性があります。留鳥からの変化のあったヤマセミは,どうして変化したのかよくわかりませんが,繁殖期も越冬期も個体数の減少と分布の縮小が見られていて(植田・植村 2021,植田ほか 2023),餌運びやなわばり争いなどでより目立ちやすい夏と,目立ちにくい冬との違いで,数が減って冬により記録されにくくなって,留鳥ではなく夏鳥と評価されるメッシュが出たのかもしれません。

 今回の1970-80年代からの変化では,温暖化の影響と思われるような,渡り性の変化は多くありませんでしたが,1月号のニュース記事で紹介したように,ツバメの秋冬繁殖が見られたりもしているなど(神山 2024),今後は夏鳥からの渡り性の変化も多くなっていくのではないかと思います。そうしたことにも注目しつつ,データ収集を続けていきたいと思います。

引用文献

神山和夫 (2024) 秋冬に繁殖するツバメが各地で見つかっている.バードリサーチニュース 2024年1月: 3. https://db3.bird-research.jp/news/202401-no3/

Lehikoinen A, Lindström Å, Santangeli A, Sirkiä PM, Brotons L, Devictor V, Elts J, Foppen RPB, Heldbjerg H, Herrando S, Herremans M, Hudson M-AR, Jiguet F, Johnston A, Lorrilliere R, Marjakangas E-L, Michel NL, Moshøj CM, Nellis R, Paquet J-Y, Smith AC, Szép T & van Turnhout C (2021) Wintering bird communities are tracking climate change faster than breeding communities. J Anim Ecol 90: 1085-1095.

Newton I (1998) Population Limitation in Birds. Academic Press, San Diego & London.

植田睦之・植村慎吾 (2021) 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021 年.鳥類繁殖 分布調査会,府中市.https://www.bird-atlas.jp/news/bbs2016-21.pdf

植田睦之・奴賀俊光・山﨑優佑 (2023) 全国鳥類越冬分布調査報告2016-2022.バードリサーチ・日本 野鳥の会,府中市・東京.https://www.bird-atlas.jp/news/wba.pdf

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