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新人スタッフ&研究紹介(植村慎吾) ~アカショウビンの声の進化研究と渡り研究~

バードリサーチニュース2020年4月: 1 【お知らせ,レポート】
著者:植村慎吾

 2020年度よりバードリサーチに加わりました、植村慎吾です。小学生の頃、地元にきらら浜自然観察公園という自然観察施設に行ったことがきっかけで野鳥観察を始めました。九州大学理学部での卒業研究から鳥の研究をはじめ、指導教官の先生の退官や異動に伴って大阪市立大学大学院、北海道大学大学院へと場所を移しながら研究を続けてきました。大学院在学中は、主に南西諸島、特に宮古諸島でアカショウビンを対象に研究をしてきました。アカショウビンについての研究テーマは大きく分けて2つあり、ひとつは生息環境が声や進化に与える影響について、もうひとつはアカショウビンの渡りについての研究です。

リュウキュウアカショウビンの基本的な生態

 南西諸島には、アカショウビンの亜種であるリュウキュウアカショウビンが夏鳥として生息します。アカショウビンというと山奥にいてなかなか会いづらい鳥という印象をお持ちの方も多いと思いますが、リュウキュウアカショウビンは南西諸島のどの島でも島のいたるところで観察できます。林内にいるためじっくり観察することは簡単ではありませんが、生息密度は非常に高く、本州でいうヒヨドリくらいよくいる印象です。主な調査地である宮古島では4月はじめに飛来し、5月から7月にかけて繁殖します。立ち枯れの朽木に穴を掘って営巣し、主にカタツムリ、ヤモリ、セミなどを食べる他、サンコウチョウのヒナを捕食するのが観察されたこともあります。

アカショウビンの声は、うるさい環境音を避ける!

図1.周波数ごとの環境音の大きさ

 南西諸島の鳥の繁殖期には、驚くほどの音の大きさでセミが鳴いています。南西諸島は北東から南西に約1000 kmにわたって点々と島があり、各島に生息するセミの種や出現時期には違いがあります。大きな音で鳴くセミの種や出現時期は、各島の環境音に大きな影響を与えます。

 私は、宮古島、伊平屋島、奄美大島の3つの島で、各島の環境音とアカショウビンの声の関係を調べました。すると、3島のうちで最も南にある宮古島では、ほかの島と比べて環境音が大きいことがわかりました。特に、クマゼミなどのセミの音による音が大きく、これはアカショウビンがさえずる音よりも少し高い音でした(図1)。

 

図2.さえずりの最高周波数



 そこで、アカショウビンの声の高さを各島で比較すると、宮古島のアカショウビンは他の2島のアカショウビンと比べて低い声で鳴いていることがわかりました(図2)。宮古島のアカショウビンは、セミが鳴くうるさい音の高さを避けていると考えられます。

 

 

 

宮古島のアカショウビンの声

奄美大島のアカショウビンの声

 このように、鳥が生息環境中でうるさい音の高さを避けてさえずることについては他にも多くの研究があり、例えば都市に住むシジュウカラは郊外に住むシジュウカラと比べて高い声で鳴き、これは都市の人為活動による低い環境音を避けるためだと考えられています (Slabbekoorn & Peet 2003)。

 宮古島の低い声と他の2島の高い声など、鳥の声の特徴が生息地によって異なるとき、異なる声をもった者同士はつがいを形成しづらくなったり、縄張りをめぐる争いが成立しづらくなったりすると考えられています。このとき、声の特徴が異なる鳥の集団間では個体の移動が起きづらくなり、遺伝的に異なる集団に分化するかもしれません。都市と郊外のシジュウカラなど、過去の研究でもこの可能性が指摘されてきましたが、声の特徴の分化と遺伝的な分化の関係はなかなか検出されていませんでした (例えば Potvin et al. 2013)。シジュウカラなどのスズメ目鳥類はさえずりを後天的に学習するため、生まれた場所と異なる音響環境の場所に移動しても、移動先の音響環境に適した声を学習できます。こうした鳥では、音響環境の違いに適応して鳥の声が変化しても、その違いは必ずしも遺伝的な違いに反映されないようです。 

 しかし、アカショウビンは声の特徴が遺伝的に決まると考えられている鳥の仲間なので、声の違いは遺伝的な違いを表していると考えられます。アカショウビンの声がそれぞれの生息地の音響環境によって異なっていることは、生息地による音響環境の違いが鳥の声の進化に影響を与える可能性を示すものです。

アカショウビンの越冬地を解明!

 

図3.GPSデータロガーを装着したアカショウビン

 

2016年、宮古島で繁殖する夏鳥のアカショウビンにGPSデータロガーを装着し(図3)、アカショウビンの渡り行動と越冬地を初めて明らかにしました。宮古島のアカショウビンはフィリピンで越冬すること、渡り中には高度約4000 mもの高さで移動することがわかりました。また、渡りの途中で宮古島の近くを通過した台風16号に巻き込まれたかもしれず、越冬地とは反対方向の沖縄島沖で記録され、その後フィリピンまで渡ったことなど、おもしろい記録も得られました(図4)。

 

図4.GPSデータロガーから得られた渡りの記録。B個体は再捕獲されたもののデータを取り出せなかった


 アカショウビンが4000 mもの高さで渡ることは驚きです。これは、アカショウビンが長距離をより効率よく渡るための行動であるようです。高度2000 m から11000 mには自由大気と呼ばれる、地上の起伏や熱対流の影響を受けにくい安定した大気の層があるそうです。長距離を羽ばたいて渡るアカショウビンのような鳥は、自由大気の層まで上昇することで、効率のよい渡りをしているのかもしれません。

 日本に飛来する夏鳥には、過去数十年の間に一旦減少し、その後個体数を回復した種と回復していない種とがいます。全国鳥類繁殖分布調査の最新結果によると、アカショウビンは同種内でも増減の傾向が地域によって異なり、北海道の集団は1980年代以降に激減し、その後復活していません。一方で、本州の集団はかつて一旦減少したものの近年になって増えつつあり、南西諸島の集団はこの期間に大きな増減が起きていません。繁殖地である日本の天然林の面積はこの期間にほとんど増減しておらず、天然林の質の変化にも地域による違いはあまりありません。アカショウビンの増減の原因として越冬地の環境変化が考えられます。今後の研究では、北海道や本州などの集団も対象として渡りや越冬地を明らかにし、今回の結果と比較する必要があります。

 

参考文献

Potvin DA, Parris KM, Mulder RA: Limited genetic differentiation between acoustically divergent populations of urban and rural silvereyes (Zosterops lateralis). Evolutionary Ecology 2013, 27:381–391. doi: 10.1007/s10682-012-9591-1

Slabbekoorn H, Peet M: Birds sing at a higher pitch in urban noise. Nature 2003, 424:267. doi: 10.1038/424267a

Uemura S, Hamachi A, Nakachi K, Takagi M: First tracking of post-breeding migration of the Ruddy Kingfisher Halcyon coromanda by GPS data logger. Ornithological Science 2019, 18:215-219. DOI: 10.2326/osj.18.215

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