バードリサーチニュース

緑地の孤立化が影響? 減少続く東京のコジュケイ

バードリサーチニュース2020年4月: 3 【活動報告】
著者:植田睦之

 アオゲラ,キビタキ,ヤマガラ。東京では樹林性の鳥が増加しています。そんな中,樹林性にもかかわらず減少している鳥がいます。それがコジュケイです(図1)。コジュケイは外来種なので,あまり興味を持てない人もいるかもしれませんが,コジュケイだけが減少している原因を探ることは,東京の自然の保全を考える上でも重要そうです。

図1 東京都鳥類繁殖分布調査の平地部の現地調査を行なったメッシュでの各種鳥類の記録数の変化。森林性の鳥の多くが増加傾向にあるにもかかわらず,コジュケイは減少している(写真:大塚之稔)

 

普段の観察記録でコジュケイの「局所絶滅」をみる

 図1をみると,コジュケイは1970年代から1990年代にかけて減少し,その後は,それほど減っていないように見えます。しかし,ほくが普段観察をしている国分寺市や府中市などの緑地ではここ10年くらいのあいだでも,変化を感じます。以前はコジュケイの「チョットコイ チョットコイ」という大きな声がそこここの雑木林で聞かれ,ヒナ連れの姿もしばしば見られていたのが,次々と聞こえなくなり,コジュケイが局所的に絶滅していってしまっているように感じます。そこで,これまでぼくが普段の観察記録を入力していたバードリサーチの野鳥記録データベース「フィールドノート」の記録を集計して,どんなところでコジュケイがいなくなったのかをみてみました。

面積の狭い緑地では早くからいなくなった

 ぼくが春先に,継続して観察している12か所の緑地の樹林面積とコジュケイの記録状況を表1にまとめました。年によっては,あまり観察に行けていない年があったり,コジュケイは大きな声で鳴いて目立つとはいえ,鳴かない時には藪の中にいて目立たないので,生息していても記録し落としてしまう可能性があったりするので,2年ごとに記録を集約して,その生息の有無をまとめました。
すると,樹林面積の小さい緑地では,記録がなかったり,2011年以降記録されなくなっているのに対し,大きくなるにつれ,最近まで記録されているのがわかります。なお,2番目に大きい調査地Kは,今年の4回の観察で,まだコジュケイは記録されておらず,現在,生息が確認されているのは一番大きい調査地Lのみです。

樹林の孤立化が減少の原因?

 コジュケイの減少の原因として,いくつか可能性が考えられます。1つはコジュケイの狩猟のための放鳥がされなくなったことです。放鳥により生息数が維持されていたとすると,放鳥がなくなったため,数が減ったことはありそうです。ただ,狩猟が行なわれていない東京近郊では,放鳥は行なわれておらず,その間接効果はあったとしても,主要な原因ではなさそうです。

 今回の結果で,樹林面積の小さいところほど早くコジュケイがいなくなっていたことから,樹林の孤立化が影響している可能性が考えられます。東京では,ヤマガラ,キビタキといった樹林性の鳥が増え,分布を拡大しています。緑地の樹木は大きくなり,これらの鳥たちが生息するのに十分な環境になり,また,街路樹なども大きくなり,それが緑地同士を結ぶ役割も果たし,分布の拡大に寄与したのではないかと考えられます。
 ただ,コジュケイにとってはそうではないのかもしれません。樹冠を移動する小鳥の移動の助けとなっている街路樹も,地上を歩くコジュケイにとっては街路樹の生えている大通りは移動の障壁以外のなにものでもありません。そして,周囲の畑や空き地が宅地化され,緑地の孤立化も進んでいて,緑地間の移動はほとんどできなくなっていると思われます。さらに以前はいなかったオオタカが緑地に生息するようになっているので,捕食される機会も増えていそうです。そのため,移入がなくなったことによる増加要因が減り,捕食の増加による減少要因が増え,もともとコジュケイの生息数の少なかった樹林面積の小さい場所からいなくなってしまっているのかもしれません。
 移動能力の低い樹林性の鳥がほかにいないので,これが本当かどうかはわかりませんが,鳥ではありませんが,同様に移動能力が低く,樹林への依存度が高いヒキガエルを最近あまり見なくなったのも同じような理由なのかもしれません(減少要因は産卵のための移動中の交通事故?)。

 樹林性の鳥の増加は全国鳥類繁殖分布調査でも見られていて,日本は樹林性の鳥にはいい状況にあると思っていたのですが,違う側面がある可能性も,注意しながら,鳥や環境の変化について考えていきたいと思います。