バードリサーチニュース

種や時期により違う初認のパターン

バードリサーチニュース 2020年5月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之

まもなく渡来がはじまるカッコウ(吉村正則)


 早春のウグイスやヒバリのさえずりから始まった今年の春の季節前線ウォッチも,まもなく渡来するカッコウやホトトギスで終わりを迎えます。春の季節前線ウォッチには,初春から初夏まで時期ごとに対象種がいますが,たくさんの方に情報をお寄せいただいたおかげで,それぞれの種の初認される季節によって,初認の進み方や年変動に異なるパターンがあることがわかってきました。その違いをご紹介しようと思います。

早い季節に始まるものほど初認の進行が遅い

  2月にさえずり始めるウグイス,3月に飛来がはじまるツバメ,4月のオオヨシキリ,5月のカッコウと初認時期ごとの代表種を並べて,初認パターンを見てみました(図1)。

図1 各種鳥類の初認パターンの違い。初認が始まってから終了するまでの累積頻度の季節進行を「初認曲線」として示した。

 

 パターンの違いの1つが初認曲線の傾きです。ウグイスの初認は南の地域から北の地域へとゆっくり進んでいくので,この初認曲線は緩やかなカーブを描きます。そしてそれはツバメ,オオヨシキリ,カッコウと初認時期が遅くなるにつれ,急になっていきます。ウグイスは2月から4月まで3か月間かけて初認がすすんでいきますが,ツバメは2か月,オオヨシキリは1か月半,カッコウに至っては1か月もかからずに初認が進んでいくのです。ここに示していない,ヒバリやオオルリ,キビタキなどもそれぞれの時期に応じた傾きを示していました。
 これは時期による気温の地域差の度合いで説明できそうです。全国の各都道府県の主要都市の平均気温のばらつき度合を変動係数(大きいほどばらつきが大きいことを意味する)で示すと1月から季節の進行とともにばらつきが小さくなっていくことがわかります(図2a)。2月や3月は気温の地域差が大きいので,南ではじまった初鳴きがすぐには北へと進んでいくことができず,ゆっくりと進行するのでしょう。さらに温度だけでなく雪の有無も大きく影響するでしょうから,なおさらです。それが4月5月になるにつれ,北と南の気温差も小さく,積雪もないため,南から北へと一気に初認がすすむのだと思われます。

図2 日本国内の気温のばらつきと,特定の場所の気温の年によるばらつきに季節がおよぼす影響

 

早い季節のものほど年による差が大きい

 2つ目のパターンは年によるばらつきの違いです。もっとも初認の早いウグイスはばらつきが大きく,ツバメは少し小さくなり,そしてオオヨシキリは極めて小さくなるという,初認の遅いものほど年変動が小さくなる傾向がありました。ここに示していないウグイス,オオルリ,キビタキなども同様の傾向がありました。これについても時期による気温の年変動の違いで説明ができそうです。バードリサーチの事務所のそばの東京都八王子を例にして同様に変動係数で見てみると,年による気温の変動も1月から3月にかけて少しずつ小さくなり,4月以降は急激に小さくなっていました(図2b)。気温の年変動が大きい 春早い時期の鳥の初認もそれに応じるように年変動が大きくなり,遅い初認の鳥たちは小さくなるのだと思われます。
 だとすると,初認時期が最も遅いカッコウは年変動がほとんどなくなることが予想されるのですが,興味深いことにウグイスやツバメに負けないほど年による差が大きいのです。そしてホトトギスも同様の傾向がありました。托卵する性質がそれをもたらしているのでしょうか? しかしカッコウの主要托卵相手のオオヨシキリの初認は年による差が小さいので,そういうわけではなさそうに思えます。毛虫を食べるという特異な生態がそれをもたらしているのでしょうか? データを蓄積しつつその理由を考えていきたいと思います。そろそろカッコウやホトトギスの渡ってくる季節です。初認されましたら,季節前線ウォッチへ情報を送信してください。

季節前線ウォッチ情報送信のページ
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kisetu/index_kisetsu_chosakekka.html

 

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