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研究誌新着論文:カントウマムシグサの種子散布をする鳥

バードリサーチニュース2020年5月: 2 【研究誌】
著者:植田睦之

 自動撮影カメラ。いろいろ写って楽しいですよね。もちろん楽しいだけでも十分なのですが,「稀に起きる事象を撮影できる」自動カメラの特性を効果的に使って,大石さんたちは目立つ果実をつけているのに,ほとんど食べられないまま朽ちてしまうことも多いカントウマムシグサの種子散布者を明らかにしました。

大石里歩子・前田大成・北村俊平(2020)日本の温帯林におけるサトイモ科カントウマムシグサの種子散布者としての 鳥類の有効性:果実の持ち去り量と発芽への影響. Bird Research 16: A1-A14.

 カントウマムシグサなどのサトイモ科テンナンショウ属の多くは秋に赤色の液果をつけますが,あまり動物には好まれず,春までそのまま残っていることも多くあります。どのような動物がこの植物の有効な種子散布者なのでしょうか? それを明らかにするため,大石さんたちは,2013年秋から16年春にかけて石川県の里山でマムシグサの果実に向けて自動撮影カメラを設置し,またフンに含まれる種子の発芽実験を行ないました。その結果,年によって食べられたり食べられなかったりするのですが(おそらく周囲の果実の豊凶に影響されるのではと大石さんたちは考えています),様々な鳥や哺乳類がマムシグサを食べることがわかりました。そしてヒヨドリとシロハラが特に多く食べ,そのフンからでる種子にも十分な発芽能力があることがわかり,これらの2種が有効な種子散布者である可能性が高いと考えられました。

自動カメラが撮影したカントウマムシグサの果実を食べるヒヨドリ(左)とシロハラ(右)

 でも,マムシグサはどうしてあまり鳥にたちに好まれないのでしょう? わざと魅力的でなくしていて,エネルギーを節約するとともに,遅くまで残って春の渡りの直前に食べられることで,長距離の散布を見込んでいるんだったりして・・・。でも,あまり光の届かない林床にあるので,美味しく魅力的に「なれない」のでしょうね。きっと。

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.16.A1

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