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始祖鳥は飛べたのか? 現生鳥類を参考にした始祖鳥の研究

バードリサーチニュース2020年5月: 3 【論文紹介】
著者:山﨑優佑

図1.始祖鳥の標本(ベルリン標本)

皆さんは始祖鳥という鳥をご存知でしょうか?今から約1億5千万年前にいた初期の鳥です。学名はArchaeopteryx lithographica と言います。書籍によっては、この学名をカタカナにして「アーケオプテリクス」と記述してあるものもありますが、この記事では「始祖鳥」と呼びます。

 

始祖鳥はどんな鳥だったか?

最初に化石が発見されたのは1861年で、ドイツで発見されました。図1の化石は「ベルリン標本」と呼ばれていて、2番目に見つかった化石です。体の大きさは見つかった標本ごとに違いますが、このベルリン標本は、生きていたころの体重は約200gだったのではないかと推定されています(Yalden 1971)。身近にいる鳥ではドバトやキジバトが体重約250gなので、これらに近いです。化石を見ると、鳥類のように翼がありますが、長い尾や鉤爪がある前肢があり、爬虫類の特徴を備えています。そうした事から鳥類は爬虫類(恐竜)から進化したのではないかと考える人たちが出てきました。現在では古生物の研究が進み、この説は定説となっていますが、説自体は始祖鳥が見つかったころからあったのです。

始祖鳥は現在生きている鳥の直接の祖先とは考えられてはおらず、現生種と始祖鳥の直近の共通祖先が最初の鳥とされています(図2)。しかし2020年現在で、始祖鳥よりも古い時代から鳥の化石はまだ発掘されていないため、始祖鳥は鳥の起源や進化の歴史を研究する上で欠かすことのできない存在となっています。そんな始祖鳥ですが、鳥として最も大きな特徴である「飛ぶ」ことは可能だったのでしょうか?

 

図2.鳥類の系統図(概略)。

 

未完成のエンジン

 結論から言うと、始祖鳥は、飛べた可能性はあるが、ハトほどうまくは飛べなかったと考えられています。鳥を飛行機で例えると、ハトが完成した飛行機なら、始祖鳥は、翼は完成に近づいているものの、エンジンは完成にはまだほど遠い飛行機となります。鳥にとってのエンジンは、「発達した胸筋」です。その胸筋が未発達であったと考えられています。

 

飛ぶために必要な形質

鳥が飛べる最大の要因は翼があるからです。翼は鳥に限らず昆虫やコウモリ、飛行機にもあります。もちろんダチョウやペンギンのように飛べない鳥もいるので、翼があるからと言って飛べるとは限りません。飛ぶためにはある程度の大きさの翼が必要となります。また、飛ぶ鳥と飛べない鳥では翼の羽の形状にも違いがあります。翼の先端にある羽を「初列風切羽」といい、左右非対称の形をしています(図3)。飛べる鳥の初列風切羽は飛べない鳥と比べて左右非対称の比率が大きい傾向にあります(Feduccia&Tordoff 1979、Speakman&Thomson 1994)。以上のことから、始祖鳥が飛ぶことに適した翼をもっていたかは、翼の面積と体重、初列風切羽の形状がわかればおおよそ推測できます。因みに鳥が飛びながら前進する方法には羽ばたきと滑翔があります。羽ばたいて飛ぶ場合は翼を打ち下ろしたことにより生じる空気抵抗を利用して飛ぶことができます。滑翔の場合は翼を広げてグライダーのよう飛び、上昇気流があれば長い距離を滑空で飛ぶことができます。

 

図3.ヒメモリバトの初列風切羽。右へ行くほど外側に付着している。

 

また、飛行はかなり激しい運動でもあり、それ相応のエネルギーが必要です。飛べる鳥の胸筋の量の平均は体重の約15%~20%あります(Henk 1999、Yalden 1971)。人間にはここまで胸筋はありません。この事から鳥の胸筋が非常に発達していることがわかります。しかし、胸筋から生み出される力が大きくなりすぎると、骨が支えきれず折れてしまいます。そこで、鳥の胸骨は「竜骨突起」という頑丈で大きな骨になったことで発達した胸筋の力を支えているのです(図4)。また羽ばたくときの力を受け止める「叉骨」という鎖骨が癒合したV字の形をした骨や、翼を打ち上げる筋肉と翼の骨をつなぐ重要な腱が通る特有の孔(三骨間孔)など胸部の機能も飛ぶために発達しています(図4)。(フクロウ等叉骨を持たないけど飛ぶことができる特殊な鳥もいます。)

鳥は飛ぶ上でほかにも様々な工夫が体に施されていますが、翼と胸部の筋肉と骨の形状は飛ぶ上で非常に重要な形質となっています。

 

図4.ハシボソガラスの竜骨突起(赤い丸)と叉骨(青い丸)と、三骨間孔の位置(緑の丸)

 

始祖鳥の翼と胸筋は?

始祖鳥の翼と胸部はどうだったかというと、図1を見ると、飛べそうな翼を持っているように見えます。ベルリン標本の翼の面積は479㎠あります(Yalden 1971)。これは現生種でほぼ同じ大きさの飛べる鳥達と比べてもそれほど見劣りのない大きさです。(表1)。また、始祖鳥の初列風切羽は左右非対称で飛べる鳥に近い形をしていたことがわかっています(Feduccia&Tordoff 1979、Wellnhofer 2008、Norberg 1995)。更に、Burgers & Chiappe (1999)では、始祖鳥は羽ばたきながら走ることで、飛ぶために必要な移動速度(6m/s)を上回る速さに達することが示されました。これらのことから、始祖鳥は離陸できたことが示唆されます。

 

一方、胸部の骨の形状を見てみると、始祖鳥の化石には叉骨はありますが、竜骨突起はありませんでした。Walter(2013)では、始祖鳥の胸筋の体積と断面積を算出しました。その結果、始祖鳥の胸筋の体積は2㎤、断面積は約1 ㎠あったと推定されました。一方、体の大きさが始祖鳥よりもやや大きいアメリカガラスの体積は40~48㎤、断面積は約8㎠でした。胸筋の占める割合が大きく違うことがうかがえます。更に始祖鳥には三骨間孔が欠如しており、翼を打ち上げる筋肉と翼の骨をつなぐ腱がなかったという指摘があります(Poore et al. 1997)。そのため始祖鳥は翼を十分に打ち上げることができず、始祖鳥の羽ばたきは現生種と比べて浅かったと考えられています。

以上のことから、始祖鳥は、飛べた可能性はあるが、ハトほどうまくは飛べなかったと考えられており、おそらく始祖鳥はキジのように短距離を飛ぶ鳥だったのではないかと推測されています。

 

最後に

今回は始祖鳥の飛翔能力がどの程度あったかを説明してきました。しかしこの議論は完全に決着がついているわけではありません。始祖鳥の飛翔能力について翼や胸筋だけでなく、腕の形状や脳の大きさ、地上効果といった様々な視点からも研究されていて(Dennis et al. 2018、Alonso et al. 2004、O’Farrell et al. 2002)、 今でも盛んに議論がされています。また、新たな化石が見つかることでこれまでの定説が覆ることもあります。

今後、始祖鳥の飛翔能力についてどんな研究がされていくのか、楽しみですね!

 

参考文献

Alonso PD, Milner AC, Ketcham RA, Cookson MJ & Rowe TB (2004) The avian nature of the brain and inner ear of Archaeopteryx. Nature 430:666–669.

Burgers Ph & Chiappe LM (1999) The wing of Archaeopteryx as a primary thrust generator. Nature   399:60-62

Feduccia A & Tordoff RH (1979) Feathers of Archaeopteryx: Asymmetric vanes indicate aerodynamic function. Science 203:1021-1022.

Henk T (1999) 鳥と飛行機どこがちがうか―飛行の科学入門 (日本語) 草思社201P

Norberg AR (1995) Feather asymmetry in Archaeopteryx Nature 374:221

O’Farrell B, Davenport J & Kelly T (2002) Was Archaeopteryx a wing-in-ground effect flier? Ibis 144 (4):686-688

Poore SO, Sanchez-Haiman A & Goslow Jr GE (1997) Wing upstroke and the evolution of flapping flight. Nature 387:799-802

Speakman JR, Thomson SC (1994) Flight capabilities of Archaeopteryx. Nature 370:514.

Voeten DFAE, Cubo J, de Margerie E, Röper M, Beyrand V, Bureš S, Taffereau P, Sanchez S (2018) Wing bone geometry reveals active flight in Archaeopteryx. Nature Commun 9:923

Walter JB (2013) The Furcula and the Evolution of Avian Flight Paleontological Journal 47:1236–1244

Wellnhofer P (2008) ARCHAEOPTERYX: Der Urvogel von Solnhofen Pfeil, Dr. Friedrich 256P

Yalden DW (1971) The flying ability of Archaeopteryx. Ibis 113(3):349-356