バードリサーチニュース

イクメンな雄は一年に二回も繁殖できる!? ~研究者による論文解説~

バードリサーチニュース2018年9月: 2 【論文紹介】
著者:乃美大佑

 この記事では毎回、研究者自身に、発表した英語論文について解説してもらいます。

 今回は、乃美大佑さんに論文を紹介してもらいます。乃美さんは北海道大学大学院環境科学院生物圏科学専攻動物生態学コースの小泉逸郎准教授の研究室でシジュウカラを対象にして研究を行い、博士号を取得しました。解説してもらう論文は2018年に、伝統的な鳥類学雑誌である英文誌 Ibisに掲載されました。この論文では、子育て期間における雄親の貢献度について、複数回繁殖の観点から研究しています。

【加藤貴大 編】

紹介する論文:Nomi D, Yuta T, Koizumi I (2018). Male feeding contribution facilitates multiple brooding in a biparental songbird. Ibis 160:293-300.

 「イクメン」という言葉が聞かれるようになって久しいですね。日本でも徐々に育児休暇を取得する男性が増えていると聞きます。以前、遠藤幸子さんのモズの研究で「雄の給餌頻度が高いほど雌の抱卵継続時間が長くなる」という繁殖における雄の重要な役割について、モズを対象とした遠藤幸子さんの研究がバードリサーチニュース7月号で紹介されていました。今回はさらに、イクメンな鳥の雄ほど次の繁殖機会を得やすくなるのでは?という話をします。

 多くの鳥は一羽の雄と雌がつがいになって子育てをします。この理由として一方だけで雛を育てると、繁殖がうまくいかなくなるといわれるためです(遠藤幸子さんの記事を参照)。ところが、意外にも雄の餌運びの割合が高い種でも(例えば50%以上でも)、雌一羽になってもほとんどの雛を巣立たせられる種も少なからず存在します(Møller 2000)。雌一羽でも育てられるなら、雄は子育てをするよりさっさと別の雌を探した方が自分の子どもを多く残せるはずです。それならばなぜ雄は手伝う必要があるのでしょうか?

図1.餌を持ってきたシジュウカラの雄.

 雄が子育てを行う理由の一つとして、「雄の子育てが雌の負担を軽減し、雌が次の繁殖をしやすくなることで、結果的に雄がより多くの子孫を残せるため」という説があります(West & Capellini 2016)。とはいえ、この説を検証しようとすれば、年に一度しか繁殖しない種では少なくとも2シーズン分のつがい関係を追わねばならず、多くのデータを集めるのは大変です。そこで、1シーズンに2回繁殖するシジュウカラを対象に調査を行いました。

調査は北海道大学苫小牧研究林で行いました。同じ研究室の油田照秋さんが300個の巣箱を林内に設置して2009年から繁殖を調査しており、これまでの調査からここのシジュウカラは1シーズンに半数以上のペアが複数回繁殖することがわかっていました(Yuta & Koizumi 2012)。私は2012年から調査に加わり、今回の研究はここの特徴である高い複数回繁殖率を活用したわけです。調査では、親鳥の行動を観察するため、子育て中の巣箱の前にビデオカメラを設置し、雛が孵化してから10日前後に雌雄の給餌回数を5時間ほど記録しました(図1)。調査とその後の分析の結果、1回目の繁殖を行った55ペアのうち、23ペアが2回目の繁殖を行い、雄の給餌割合が高いペアほど雌が2回目の繁殖をした割合が高くなる傾向が見られました(図2)。給餌回数ではなく割合を用いたのは、巣ごとに必要な給餌の努力量が異なる(雛の数や繁殖開始時期が巣ごとに異なる)ためです。例えば1時間に雌雄の合計で30回運んだペアでそのうち10回しか運ばなかった雄と、10回中8回も運んだ雄とでは、後者の方が貢献度としては上であると考えたためです。本研究から、給餌貢献度の高い、要するにイクメンな雄とつがった雌ほど2回目の繁殖がしやすくなることが示唆されました。

図2.雄の給餌割合(横軸)と雌の複数回繁殖率(縦軸)との関係 (Nomi et al. 2018を改変).実線は統計解析による推定値.円の大きさはサンプル数を表す.

 もう一つ重要な発見は、雄の貢献度と巣立ち率(孵化した雛のうち巣立った割合)との間には関係がないことが確かめられたことです。また、何らかの理由で雄が消失し、雌一羽で子育てを行う巣が3巣ありましたが(分析からは除いています)、いずれも90%以上の雛を巣立たせることができていました。つまり、雌一羽でも育てられるということです。興味深いケースですが、雌一羽で同じ時期、同じ雛数を子育てしているペアよりも多く餌を運び、雛の体重も平均よりかなり重いというパワフルなお母さんもいました。北海道のシジュウカラは平均で10羽ほど雛を育てますから大変な労力です。ただし、というかやはり、つがいの雄がいないため、この雌の2回目の繁殖はありませんでした。

 ここで、お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、厳密には「雌の負担軽減説」を検証したことにはなっていません。本来ならば、繁殖時期や雛数といった他の要因の影響を排除するために、雄を一時的につがいから隔離するなどの操作実験をすべきでしょうし、他にもいろいろと問題があります。

 フィールドベースの研究ではよく「後付け仮説」といわれていますが、種明かしをすると、実は上記とは全く別の目的で親の給餌行動を調べていたところ、たまたまこの傾向を見つけたのです。もともと調査をしながら「1回しか繁殖しないペアと2回繁殖を行うペアは何が違うのか」という疑問はずっともっていたので、いろいろと解析しているうちに見つけた次第です。その後、研究としてまとめるために文献を調べていたところ、これもたまたまうまい具合にフィットしそうな話を見つけたというわけです。最初からこの仮説を知っていたわけではないですし、検証するためにデータをとっていたわけではないのでどうしても足りない部分がでてきてしまいます。とはいえ、「どんな発見があるかわからない」のも野外調査の醍醐味であると思っていますし、そうした発見に対して「意義づけ」ができればとりあえず研究にはなるのです。こうした背景があることを知っておくと、論文を読んでいても“あ、これは後付けだな”というのも分かってきたりして面白いですし、自分が執筆するときの参考にもなります。

 ここにきてなんだか半分読者を騙してしまったような感じになってしまいましたが、話を戻すと、この「負担軽減説」はもっと注目されるべきです。というのも、この仮説はこれまで雌雄で子育てを行う哺乳類(生物全体から見ればかなり珍しい)が進化した理由の一つとして支持されていました(つまりヒトにもあてはまる?)が、鳥類ではほとんどの種が雌雄で子育てを行うにも関わらずこの仮説が検証されてこなかったからです。実際、論文が受理されると、様々な国の研究者から問い合わせもありました。この発見が他の研究者の何かヒントにでもなれば幸いです。

 

参考文献

Møller AP (2000) Male parental care, female reproductive success, and extrapair paternity. Behavioral Ecology 11:161-168

West HE & Capellini I (2016) Male care and life history traits in mammals. Nature communications 7:11854

Yuta & Koizumi (2012) Long breeding season and high frequency of multiple brooding in Great Tits in northern Japan. Ardea 100:197-201

Nomi D, Yuta T, Koizumi I (2018) Male feeding contribution facilitates multiple brooding in a biparental songbird. Ibis 160:293-300

 

著者紹介

乃美大佑(のうみだいすけ) 博士(環境科学)

所属:いであ株式会社 大阪支社 生態保全部

シジュウカラの複数回繁殖率に関する研究で博士号を取得。現在は環境コンサルタント会社に勤務し、西日本を中心に全国各地を飛び回り鳥の調査を行っている。

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