バードリサーチニュース

日本の鳥の越冬分布:気温と越冬分布

バードリサーチニュース 2022年3月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之

全国鳥類繁殖分布調査に続き,現在越冬期の分布調査を実施しています。まだ,情報には抜けがあり,完全な分布図にはなっていませんが,大まかに分布状況を把握できる段階までは到達しました。そこで,今回は,これまでに集まった情報を基に,越冬期の分布が広い鳥,北に分布する鳥,南に分布する鳥など越冬期の鳥の分布の特性についてご紹介したいと思います。

 

分布の広い鳥

 まず,分布の広い鳥について紹介します。データを2次メッシュ(10×10kmの区画)で集計して,そのメッシュ数の上位種を見てみると,ヒヨドリが1番で,ハシブトガラス,トビと続きました。繁殖期の上位種はウグイス,ハシブトガラス,ヒヨドリの順でした(植田・植村 2021)。ウグイスが越冬期に上位に入らないのは,さえずらずに目立たなくなるし,雪の多いところからはいなくなるのでわかりますが,トビが上位に来るのは,少し意外でした。また,水鳥のマガモが上位に来るのも意外でしたが,海から山奥のダムまで見られる生息環境の幅の広さで上位になったのだと思います。冬鳥の代表種,ツグミとジョウビタキも上位に入っていました。

南の鳥・北の鳥

 次に,分布が寒い場所や暖かい場所に偏っている鳥にどんな種がいるのかをみてみました。2次メッシュで50メッシュ以上記録されている比較的分布の広い種を対象に,確認されたメッシュの越冬期の気温(メッシュ気候値2010の12月~2月の平均気温を平均したもの)を集計してみました(図1)。そして主要分布域の寒い側(図1の25%点の温度)と暖かい側(75%点)を計算して,25%点が高い種(主要分布域の北限が南にある種)を暖かい場所に分布する鳥,75%点の低い種を寒い場所に分布する鳥として上位種を示しました。

図 1 暖かい地域に分布するシロチドリと寒い地域に分布するゴジュウカラ(写真:三木敏史)


 暖かい場所に分布する種を見ると,セッカを除き,すべて水鳥類でした(表2)。大陸からの入り口の九州に多いという渡り経路の影響もあるかもしれませんが,10位以下に続くクイナ類や小型サギ類を含め浅水域を利用する渉禽類なので,こうした環境は凍結や積雪などで利用できなくなるので,寒さに弱い鳥たちということなのかもしれません。陸鳥類については10位以下に,ツバメ,ヒメアマツバメ,イワツバメなどが入っていました。飛翔性昆虫は寒い場所には少ないので,こうしたものを食べる種もあまり寒い地域には分布できないのだと思います。
 寒い場所に分布する種を見ると,もっとも主要分布域の南限が低温だったのは北海道だけに分布するハシブトガラでした。それ以外の種について見ると,ゴジュウカラ,キバシリ,オオアカゲラなどは,木の幹で採食する鳥が多く,垂直になっていて,雪が積もらない幹は積雪の影響を受けにくく,寒い場所でも生息しやすいのかもしれません。ハシブトガラ,ゴジュウカラ,コガラなど貯食する鳥が多く含まれていること,オオワシ,オジロワシ,オオアカゲラ,シロカモメなど近縁種の中で大型の鳥が多く含まれているのも特徴のようです。

寒い場所の鳥は大型種が多い?

 そこで,生息場所の気温と身体の大きさについて,種間比較してみました。北に生息する個体群ほど大型になることはベルクマンの法則として有名ですが,種間比較となると,生息環境や食物などによる影響もあって単純ではありません。ある程度そうした条件を揃えられそうで,大きさにもバリエーションのあるカモメ類とガンカモ類(陸ガモ・ガン・ハクチョウ)について比べてみました。

図2 カモメ類とガンカモ類の身体の大きさと越冬場所の気温との関係


 いずれの分類群でも身体の大きい種ほど,気温の低い場所に分布するという弱い関係がありました(図2)。ガンカモ類の方が相関係数は高かったのですが,それには採食時に身体が大きい方が有利だということもあるのかもしれません。気温と積雪量は関係が深いので,水田で落ち籾を食べることの多いガンカモ類は,大きい種ほど,雪を掘って地上の落籾を食べられるなどということもあるのかもしれません。
 カモメ類では特に大型の種でばらつきが大きい傾向がありました。12月号のニュースレターの記事(和田 2021)にもあるように,漁業の状況で分布が変わるので,そうした影響が強くでたり,ほとんどが冬鳥のガンカモ類と違って,日本で繁殖する種の割合も高いので,繁殖地の影響が出たしているのかもしれません。

 この2グループ以外の分類群もあわせ,形態,生態,地史的な要因などが越冬分布に影響する要因についての解析ができたらと思います。

情報収集への参加お願いします

 現在,越冬分布の最終報告の作成に向けて,最後の情報収集をしています。現時点の各種鳥類の分布図は以下より見ることができます。

https://www.bird-atlas.jp/result/wba.pdf

分布図をより充実したものにするため,みなさんの2016年以降の越冬期の観察記録をお寄せください。バードリサーチの野鳥記録データベース「フィールドノート(さえずりナビ)」の記録はすでに利用していますので,そこに登録してあるデータは再送いただく必要はありません。

情報の送信は以下の方法があります。

・フィールドノート(さえずりナビ)への入力 https://birdwatch.bird-research.jp/home
 12月から2月の記録を使用しています。11月や3月に観察したけれども「その場所で越冬している」という記録は,以下の専用サイトから入力ください。

・冬鳥分布調査サイトやエクセルデータの送付
 専用のウェブフォームを用意してあります。そこに入力していただくか,入力用エクセルをご利用ください。
WEBフォーム:https://www.bird-atlas.jp/wba.html
Excelのダウンロード:https://www.bird-atlas.jp/data/wba.xls

よろしくお願いいたします。