バードリサーチニュース

論文紹介:カワウとアオサギの混合コロニーにおける対捕食者行動の違い カワウはアオサギに片利共生しているかもしれない

バードリサーチニュース 2022年3月: 2 【その他,論文紹介】
著者:植村慎吾

全国的なカワウの増加によって内水面漁業でのアユの食害が問題になっており、各地でカワウの被害対策が実施されています。バードリサーチでは、カワウの生息状況や被害状況についての基礎調査や技術開発、それに基づく計画の立案などを行なっています。

その一環として2020年からは、カワウの糞に含まれる餌生物のDNA情報を用いてカワウの食性を解析する調査を行なっています。この調査ではカワウのコロニーの下で糞を拾うのですが、カワウのコロニーに行くとアオサギやチュウサギやゴイサギなどのサギ類がカワウと一緒にコロニーを形成していることが多く、カワウの糞を選んで採取するのがなかなか難しいのです。サギ類がまとまって繁殖するのは(なんとなく)わかるような気もするけど、どうしてカワウも一緒にいるんだよ、と暑くて蚊の多いコロニーの林床でぼやきながら糞を拾っていました。

岩手大学大学院連合農学研究科(弘前大学所属)の本多里奈さんらによる論文は、そんなカワウとサギの混合コロニーができる謎に答えています。以下でその論文を紹介し、著者の本多里奈さんからもコメントを頂きました。

紹介する論文:Honda, R. and  Azuma, N. (2021). Asymmetric antipredator behaviour in a mixed-species colony of two non-mobbing bird species. Ardea, 109: 167–173


混合コロニーとその形成の謎

皆さんが探鳥している地域にサギ山はありますか?

サギ山ではアオサギ、ダイサギ、チュウサギ、アマサギ、コサギ、ゴイサギなどが同じ場所で繁殖しています。サギ山のように複数の種が同じ場所で繁殖している場所は混合コロニーと呼ばれ、他にはアジサシ類(エリグロアジサシやベニアジサシなどの混合コロニー)などが混合コロニーをつくる鳥として挙げられます。

混合コロニーで繁殖する鳥たちにとって、モビングが主な捕食者の撃退法として知られています。モビングというのは、1種または多種の鳥が捕食者の周りに集まって、せわしなく動き周りながら羽や尾を打ち振ったり大きな声を出したりする行動です。モビングする鳥たちは、モビングすることで捕食者を撃退するという利益を共有します。このことは、鳥たちが種を超えて混合コロニーをつくる理由の一つでもあると考えられています。このとき、モビングしてくれる個体や種の近くにいて、自分はモビングに参加しないのに間接的に恩恵に預かる鳥もいることがわかっています。

写真1. カワウとアオサギの混合コロニー(本多里奈さん提供)

ところで、アオサギは、複数個体が集まって捕食者の周りを飛び回りながら警戒声を出すような典型的なモビングはしません。捕食者に向かって大きな声を出して捕食者を遠ざけることはありますが、サギ類は一般的にモビングをしない種類だとされています。そんなアオサギと同じ場所でしばしばコロニーをつくるのがカワウで、こちらもモビングをしません。どちらもモビングをしない鳥ですが、どちらも巣の捕食が繁殖失敗の主な要因になっています。モビングをしない者同士が形成する混合コロニーで、捕食者に対する反応がどのようになっているのかはあまり研究が進んでいません。

もしかするとカワウは、モビングはしないけれど捕食者を追い払ってくれるアオサギのそばで繁殖することで、捕食者が自分や巣に近づきにくくなるという利益を得ているのかもしれません。

そこで、本多さんたちの研究では、カワウとアオサギから成るコロニーで、捕食者に対する反応が両種でどのように違っているか、捕食者の種類によってどのように反応が異なるのかを調べました。


カワウとアオサギの混合コロニーでの観察

本多さんたちが研究をした調査地は青森県の冷水沼です。冷水沼ではアカマツやニセアカシアの木の上でアオサギとカワウが混合コロニーを形成していました。この論文の調査では、2016年の3月5日から8月13日までの68日間、計215時間にわたってコロニーを観察しました。アオサギとカワウの混合コロニーの5 m以内に猛禽類やカラスなどの捕食者が接近したとき、接近した捕食者の種類と、そのときのアオサギやカワウの反応を5段階で記録しました(表1)。

表1. 捕食者に対する反応


それぞれの捕食者に対するカワウとアオサギの反応

観察の結果、捕食者になりうるものとして12種類の猛禽と、2種のカラスが観察されました。そのうち実際に捕食行動が見られたのはハシブトガラス、オオワシ、クマタカの3種で、その他にオオタカが2回捕食行動をしたものの失敗に終わりました。

最も多くコロニーに現れたのはハシブトガラスでした。ハシブトガラスは、繁殖期間中何度もカワウやアオサギの卵やヒナを捕食しましたが、両種ともカラスが自分の巣に侵入するまで反応せず、近隣個体はカラスが隣で捕食をしている時でも反応しませんでした。

オオワシは、2度カワウの卵を捕食しました。このとき、カワウは空中や水面に逃げ、アオサギも空中に逃げました。

オオタカがカワウの成鳥を襲おうとしたときは、カワウやアオサギの多くが警戒行動を見せ、狙われたカワウやその集団にいた個体は飛んで逃避しました。

クマタカの接近に対しては、特に興味深い行動が観察されました。クマタカの出現に対するアオサギとカワウの行動は、表2のように段々と変わっていったのです。

表2. クマタカに対する反応の変化(Honda & Azuma 2021 より改変)

表2を見ると、初めはカワウやアオサギはクマタカの出現に対して逃避行動をしていたのですが、6日目に逃げずに警戒行動をするカワウ、警戒声も出すアオサギが現れます。さらに20日目には、クマタカが現れるとアオサギたちは巣を飛び立って樹冠に移動し、樹冠を歩いてクマタカに近づいて大きな声を出したり威嚇行動をしたりしました。一方でカワウは威嚇行動には参加せず、ほとんどの個体はただ首を伸ばして警戒しているだけでした。20日目にクマタカが出現したときのカワウとアオサギの行動を図にまとめると図1のようになります。

図1. 観察20日目に観察された、クマタカの接近に対するアオサギとカワウの反応. Aは位置、Bは行動を表す(Honda & Azuma 2021 より改変)

クマタカに対して、アオサギはカワウよりも有意に攻撃的に振る舞ったのです。


対捕食者行動の違いや変化から、混合コロニー形成の謎を説明!

捕食者に対する反応はバラバラで、特にハシブトガラスに対する周囲の個体の無反応と、オオワシに対する逃避行動は対照的に見えます。しかしこれは、親鳥が巣やヒナではなくて自分自身を守ることを最優先にしていると考えると説明がつきそうです。つまり、卵やヒナを襲うことはあっても親鳥を襲うことはないハシブトガラスに対してカワウやアオサギは特に防衛行動をせず、親鳥が襲われる危険の大きいオオワシに対してはいち早く逃げるということです。

一般的に、寿命が長い種は、巣に対する危険よりも自分への危険を排除する傾向があります。巣が捕食にあってしまっても、自分自身が生きていれば次の繁殖で子孫を残す機会があるためです。カワウやアオサギはどちらも平均的には寿命が長い鳥なので、彼らは自身に危害を加えうる捕食者かどうかを区別して反応していたようです。

クマタカへの反応は日が経つにつれて、逃避行動から警戒、警戒声を出す、威嚇するへと、より攻撃的な反応に変化しました。クマタカに対する反応が段々と攻撃的なものに変化したのは、繁殖が進むにつれて、巣に対する労力や時間などの両親の投資が大きくなるので、勇敢に体を張ってでも卵やヒナを守る方が良くなったためだと考えられます。他には、クマタカが繰り返し出現することに対して徐々に慣れが生じた可能性もあります。

注目すべきは、クマタカへの反応が、アオサギとカワウの種間で違っていたことです。アオサギは、クマタカに対して集団で警戒声を出したり威嚇したりしましたが、カワウはそれに加わりませんでした。

アオサギは木の上を歩いてクマタカに近づいて威嚇をすることができますが、カワウの足では木の上を自由に移動することはままなりません。アオサギが木の上を歩けることは、巣の防衛のために色々な行動を起こすのに向いているのかもしれません。そしてカワウは、自分たちよりも攻撃的に振る舞うアオサギに片利共生して、間接的に自分の巣を防衛してもらっているのかもしれないというのが本多さんたちの考えです。実際、カワウはアオサギのコロニーに後から加わることが観察されています。

今回の研究は、モビングをしないアオサギとカワウが混合コロニーを形成する要因としてカワウが片利共生している可能性を提案しました。この研究はウ科で初めて、片利共生の可能性を示した例だそうです。


–––––––––––––––––––––––––––

論文紹介はここまでですが、カワウ単独のコロニーとアオサギがいるコロニーでカワウの対捕食者行動や繁殖成績がどのように異なるのかや、アオサギと一緒に混合コロニーを形成する他のサギ類でも、カワウでみられたような片利共生のような関係があるのか、アオサギ以外で構成されるサギ類のコロニーではどうか、1970年代ごろにアオサギが減少していたときに同じく減少していたカワウは、もしかしてアオサギがいないことで巣が捕食されやすくなるような影響を受けていたりして、など、興味が尽きませんね。そういえば冒頭で「サギ類がまとまって繁殖するのは(なんとなく)わかるような気もする」などと書いてしまいましたが、なんとなくではわからない鳥の生態の面白さを教わりました。

この論文を頭に置いて、コロニーの下での糞拾いも楽しくできそうです。

 

著者の本多さんより

青森県ではもうすぐカワウとアオサギの繁殖が始まります。美しい繁殖羽を眺めたり、どんな巣材を持ってくるのかを観察するのが楽しみの一つです。(本多里奈さん提供)

今回ご紹介していただいた論文では、カワウとアオサギの対捕食者行動の違いを明らかにしましたが、両種はかなりの精度で彼らにとって危険な猛禽類とそうでない猛禽類を見分けていることも分かりました。バードウォッチングをしていると、「小鳥は猛禽類のことをよく見てよく識別しているなぁ」と感じることがありますが、実はカワウやアオサギも「よく見てよく識別している鳥」だったのです。あまり捕食にあう機会がなさそうな2種ですので、とても意外な結果でした。
研究を続けていくと、対捕食者行動だけでなく、資源(餌や巣材、営巣場所)を巡る競争や音声コミュニケーション、コロニー形成地選択など、様々な面でカワウとアオサギの間に「関係」が結ばれていることが分かってきました。身近でたくさんいる鳥ですが、これまでに気付かなかった面白い生態がまだまだあるはずです。なーんだカワウか/アオサギか、と思わず、彼らの関係性に注目していただけると嬉しいです。