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研究誌新着論文:キイチゴの量的に有効な種子散布者

バードリサーチニュース 2022年2月: 2 【研究誌】
著者:植田睦之

林道を歩いていると見かけるキイチゴ。誰が種子散布をしているのでしょうか? 実のなる時期があまり鳥が木の実を食べなさそうな初夏だし,人が食べてもおいしいだけに,哺乳類でしょうか? 西野さんと北村さんは石川県で自動撮影カメラを使って種子散布者を調べました。


西野貴晴・北村俊平 (2022) 中部日本のスギ林に生育するキイチゴ属3種の量的に有効な種子散布者. Bird Research 18: A1-A19.

論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.18.A1


 クサイチゴ,モミジイチゴ,クマイチゴのそばに自動撮影カメラを設置して,果実が熟した後の様子を記録してみると,3週間でほぼすべての果実がなくなることがわかりました。果実を持ち去った動物の上位は,クサイチゴの実ではアナグマ(30.4%),ニホンザル(27.8%),ヒヨドリ(19.0%)の順で多く,モミジイチゴとクマイチゴはヒヨドリとニホンザルが多いことがわかりました。クサイチゴは名前からわかるように地上近くに実がなり,ほか2種は少し高い位置に実がなります。こうした実のなり方の違いで,地面で採食するアナグマがクサイチゴをよく食べ,反面,ヒヨドリは地上に下りるのを敬遠するのか,あまり食べないという特徴がありました。
 また,発芽実験から食べられたキイチゴは発芽能力があり,これらの種が有効な種子散布者であると考えられました。

 この研究でもそうでしたが,北村さんたちのチームがこれまで調べてきたほかの木の実の研究(中川・北村 2017大石ほか 2020)でもヒヨドリは重要な種子散布者としてあげられており,ヒヨドリが種子散布に果たす役割はかなり強そうです。ヒヨドリは標高の高いの森にはあまり生息していない鳥ですが(植田・植村 2021),近年,ぼくが調査している標高1000mを越える秩父の森ではしばしばヒヨドリを見るようになってきました。こうしたヒヨドリの分布の拡大で実のなる木の分布も変わってくるのでしょうか? 鳥の調査に並行して,横目で木の実も気にしてみようかと思いました。

 

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