バードリサーチニュース

第3回バードリサーチ賞受賞者決定と授賞式・授賞講演のお知らせ

バードリサーチニュース 2021年9月: 1 【お知らせ】
著者:高木憲太郎・植村慎吾

 バードリサーチ調査研究支援プロジェクトでは、鳥類についての調査研究プランを調査の実施前に提出していただき、そのプランをもとに、寄付を募り、集まった寄付をもとに調査や研究を実施する方に支援金を贈呈しています。つまり、企画の良さを審査し、これから実施する調査や研究に対して皆様から応援の気持ちを寄せていただいています。
 一方、調査研究支援プロジェクトの「バードリサーチ賞」では、調査や研究を実施した後に、ご報告いただいた成果報告書の内容に基づいて、3年に1度選考を行ない、研究や活動の独創性、達成度、発展性、などを基準に優秀な成果をあげたものを表彰しています。
 第3回目となる今回の選考では、2017年度~2019年度に実施された調査研究プランの成果報告書を対象としました。5名の審査員による審査の結果、27件の調査研究成果の中から次の4件の調査研究を表彰することにいたしましたので、ご報告いたします。

 なお、授賞式と授賞講演につきましては、2021年12月18日にオンラインで開催予定のイベント「バードリサーチ鳥類学大会2021」内において執り行います。受賞者には、株式会社モンベルより副賞のご提供をいただける予定です。

 

第3回バードリサーチ賞 受賞調査研究

<2018年度支援>
調査研究名: アカモズの生息に適したリンゴ栽培方法は?
受賞者  :  松宮裕秋、赤松あかり、原星一

 

 アカモズ(亜種アカモズ)は繁殖地がほぼ日本に限られた夏鳥ですが、個体数が急速に減少しており、絶滅危惧IB類に指定されています。長野県でも生息地が次々と消滅していましたが、近年になってリンゴ果樹園に生息していることがわかりました。松宮さんたちの研究チームは2012年から生息状況の調査を実施し、長野県でも北信地方と東信地方ではアカモズの繁殖が確認できない一方で、南信地方では繁殖ペア数の増加を確認していました。
 この調査研究では、リンゴ果樹園の中には果樹の栽培方法や下草の管理の仕方の異なる果樹園があることに着目しました。果樹園間で繁殖成績、餌の豊富さ、捕食者と捕食圧などを比較し、どの栽培方法や管理の方法がアカモズの生息に適しているのか調べました。その結果、矮化栽培をしている地域よりも普通の栽培方法を取っている地域のほうが確認される繁殖ペア数は多いものの、一腹卵数には違いが見られませんでした。また、個体数密度が高いためか普通栽培の地域では他の地域よりも捕食圧が高いことがわかりました。また、捕食者として以前からわかっていたネコのほかに、アオダイショウによる捕食を確認することができました。


<2018年度支援>
調査研究名: 小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査2019
受賞者  : 重原美智子

 小笠原諸島の父島や母島、伊豆諸島の島々では、春も秋もツバメを観察できますが、越冬地から繁殖地への渡り途中に観察されているのか迷鳥なのかはわかっていませんでした。ツバメの主な越冬地は東南アジアで、日本で繁殖するツバメで一般的に知られている春の渡りのルートは、越冬地を出発して台湾や南西諸島、九州を経由し日本各地へ移動するルートです。この主要なルートから外れる小笠原諸島や伊豆諸島など、太平洋の中央の島々を渡るルートを解明するため、重原さんは2018年から研究をはじめました。
 この調査研究では、父島や母島、伊豆諸島の島々で観察されるツバメが島伝いに北上しているのであれば、南に位置する島ほど初認日が早いはずだ、と仮説を立てて、伊豆諸島の各島の住民に働きかけて目撃情報を集める市民参加型の調査を2018年に続いて2年連続で実施しました。
 その結果、伊豆諸島に渡来するツバメは本州から南下してやってくるのではなく、南から渡ってきていることを支持する結果が得られました。合わせて繁殖の状況についても調査しており、現地調査によって三宅島で18巣を確認したほか、調査協力者から寄せられた情報から、神津島、式根島、利島、大島で繁殖を確認しました。
 また、小笠原諸島の南に位置するパラオでツバメの越冬状況を調査し、ゴミ収集場に発生するハエなどを食べていることや、浄水場周辺の電線で休むツバメの群れを観察しました。さらに、小笠原諸島・伊豆諸島、本州、パラオなどで採取したサンプルのミトコンドリアDNAと核DNAを分析しましたが、地域差は確認されませんでした。


<2018年度支援>
調査研究名: 林床の赤い実を食べるのは誰? 〜自動撮影カメラで鳥類の果実消費量を定量化する〜
受賞者  : 前田大成

 鳥などの動物に果実を採食してもらい、種子散布する被食散布型の植物の研究は、高木層で結実する植物を対象にすることがほとんどでした。赤い実をつける林床植物もありますが、林床という環境が野外での直接観察に適していないこと、個体あたりの結実数が少なく、果実食者の訪問そのものが少ないことから、研究されていませんでした。
 前田さんは結実時期や実の大きさが異なる6種の赤い実をつける林床植物を対象に、1、2週間に一度、果実の数を数えてその消失数を記録するとともに、自動撮影カメラを用いて果実を持ち去る動物種を調査しました。3万本以上の撮影動画をチェックし、動物が映った動画をピックアップし、持ち去る行動を果実ごとに記録したのです。
 その結果、消失した果実の数に対して、自動撮影カメラで持ち去る行動を記録できた果実の割合は、植物種によって異なり23%から58%でしたが、撮影された時期と消失した時期には高い一致が見られ、自動撮影で記録された鳥が主な種子散布者と考えて良さそうです。
 初夏に結実し、果実のサイズが小さいニワトコはキビタキやオオルリ、ヤマガラなどの小鳥にも持ち去られるなど多くの種に利用されましたが、春に結実し、果実のサイズが大きいヒメアオキはヒヨドリやシロハラ、クロツグミなど比較的嘴の大きい鳥だけに利用されることがわかりました。


<2019年度支援>
調査研究名: 泥棒からはやにえを守れ!
       
 ~モズの雄は、はやにえを雌に盗まれないようにはやにえを物かげに隠す?~
受賞者  : 西田有佑

 西田さんは、モズが食物を木の枝などに刺して「はやにえ」を作る行動について研究しており、モズのオスが繁殖期直前の1月にたくさんはやにえを消費していること、はやにえをたくさんつくった雄は早口で鳴けること、早口で鳴くほどメスを早く獲得できることなどを明らかにしてきました。その研究の過程で西田さんは、モズのオスが草むらにはやにえを隠す行動(隠蔽貯食)を目撃しました。
 西田さんはこの行動は、つがいになる前の通りすがりのメスにはやにえを食い逃げされないための戦略ではないか、と考えました。そこで、メスと交尾する前の時期と後の時期にミルワームを10個ずつオスに与え、はやにえを隠蔽貯食するかどうか、また、はやにえをオスとメスのどちらが回収するのかを調査しました。
 その結果、交尾の前後でオスの行動に大きな違いがあることがわかりました。交尾前ではモズのオスは、与えられたミルワームの8割をはやにえにしましたが、そのうちの9割が草むらの奥などに隠し、そのほとんどを自分で回収しました。一方、交尾後では5割をはやにえにし、そのうちの9割が開けた場所につくり、自分で回収したのはそのうちの6割と少なく、残りの4割はメスによって回収されました。

バードリサーチ賞について

バードリサーチ賞は、調査研究支援プロジェクトで支援した調査研究プランのなかから、研究や活動の独創性、達成度、発展性などを考慮して、優秀な成果をあげたものを表彰するものです。

選考は、以下の5名の審査員によって行ないました。

上田恵介(立教大学 名誉教授)
植田睦之(特定非営利活動法人バードリサーチ 代表)
金井 裕(公益財団法人日本野鳥の会 参与)
出口智広(兵庫県立大学 准教授)
水田 拓(公益財団法人山階鳥類研究所 保全研究室長)

※あいうえお順 敬称略

 

バードリサーチ調査研究支援プロジェクト 第3回バードリサーチ賞選考結果 公表ページ
https://www.bird-research.jp/1_event/aid/seika2021.html

 

バードリサーチ鳥類学大会2021 2021年12月18日(土)予定
https://www.jbraoc.net/