バードリサーチニュース

ツバメは毒針のない雄のミツバチを捕っている 銀座の屋上養蜂場に集まるツバメたち

バードリサーチニュース 2021年8月: 3 【レポート,活動報告】
著者:神山和夫

図1.銀座のビル屋上にある養蜂場にやってきたツバメ。

 2019年の春、NHKの自然番組「ダーウィンが来た!」で銀座で子育てをするツバメの取材に協力していた私は、とあるビルの屋上に来ていました。養蜂箱が並べられセイヨウミツバチがブンブン飛び回るこの屋上は、NPO法人銀座ミツバチプロジェクト(以下「銀ぱち」)の養蜂場になっています。そしてこのミツバチを狙って、銀座でヒナを育てるツバメたちが地上45mの養蜂場へやってくるというのです。ほどなく4羽のツバメが姿を現し、ビルの上を飛び始めました。ツバメはくるくる旋回を続けますが、なかなかミツバチを捕らえません。そのときは、ツバメといえども敏捷なミツバチを捕まえるのは難しいのかと思いましたが、いま考えると、ツバメは特別なミツバチを探していたのかもしれません。

 

おや、オスバチばっかりだぞ

 銀座のツバメがミツバチを食べている証拠を探そうと、ツバメの巣の下に落ちているミツバチを集めていた銀ぱちの山本なお子さんは、あることに気がつきました。6月上旬にひろった6匹のミツバチが、すべてオスだったのです。ミツバチは1匹の女王バチと女王が産んだ数万匹の働きバチからなるコロニーで暮らしています。働きバチはすべてメスですが、4月中旬~6月初旬の繁殖期(※)にだけコロニー全体の1割程度の数になるオスバチと、次世代の女王になって新コロニーを作る少数の新女王バチが生まれてきます。働きバチの毒針はメスの産卵管が変化したものですから、オスバチは針を持っておらず、触っても刺されることはありません。屋上の養蜂場に来ていたツバメは、危険のないオスバチを選んで捕っていたのでしょうか?

図2.セイヨウミツバチの働きバチ(左:写真はRachael Bonoan CC BY-NC 2.0)とオスバチ(右:写真はPhin Hall CC BY-SA 2.0)

 都心にある銀座はツバメが餌にする飛翔性昆虫が少ない場所だと思われるので、屋上養蜂場のミツバチは重要な餌になっているのかもしれません。「ダーウィンが来た!」の番組でもツバメがどんな虫を食べているかを確かめようということになり、屋上養蜂場から100mほどの場所にある松屋銀座のツバメの巣のそばでカメラを構えて親ツバメが運んでくる餌を撮影しました。小さな虫はくちばしに隠れてしまい識別が難しかったのですが、撮影できた47回の給餌シーンのうち少なくとも16回、およそ3分の1がミツバチであることが突き止められ、番組で紹介されました。その後、さらに撮影を続けてミツバチとわかる映像20例をミツバチの研究をされている玉川大学の小野正人さんに見てもらったところ、7例は視認性がわるく雌雄の判定ができませんでしたが、はっきり見えた13例のすべてがオスであることが分かりました。

図3.ヒナにオスバチを与える親ツバメ(写真:佐藤信敏)。

ツバメはオスバチが出てくる時間に養蜂場へやって来る

 屋上養蜂場でツバメを撮影していた佐藤信敏さんは、もうひとつの不思議な事実に気がついていました。ツバメが頻繁に屋上にやって来るのは、いつも決まって午後だということです。このことを当時銀ぱち理事長だった田中淳夫さんにお話ししたところ、オスバチと次の女王になる新女王バチの結婚飛行は午後に行われるので、オスバチが巣箱から出てくる時間を狙ってツバメがやって来ている可能性が考えられるということでした。ミツバチの結婚飛行は毎日午後に決まった場所で行われ、付近の巣からオスバチと新女王とが集まるのだそうです。結婚飛行をする場所は地上数十メートルにできることが多いということですが、銀座のどこにあるかは分かっていません。

 

アメリカで養蜂場に来るツバメの解剖が行われていた

 ツバメがオスバチを選んで捕っている可能性はあるものの、それ以上の調査ができないまま二年が過ぎた今年の夏、私は空撮に使うドローンの海外情報を検索しているときに、偶然、アメリカで同じことに気付いた人がいたことを見つけました。ドローン(Drone)は英語でオスのミツバチを意味する単語であることを思い出して、ドローンとツバメで検索すると、古い文献がヒットしたのです。

 1945年ごろのことですが、アメリカのカリフォルニア州に住んでいたグラント氏は、ツバメがミツバチを食べても無事でいられるのは、針を持たないオスバチを食べているからではないかと思いつきました。それを確かめるため、彼は近くの養蜂場へ行き、友人に頼んで7羽のツバメを撃ち落としてもらいました。この時代の研究は鳥を撃つことに少しもためらいがありません。さらにグラント氏はツバメのあと追って巣を見つけると、3つの巣にいた12羽のヒナを採集しました。そして合計19羽を解剖したところ、成鳥の胃と喉から4匹のオスバチが、ヒナのうち8羽から12匹のオスバチが見つかり、メスバチは一匹も見つかりませんでした(Grant 1945)。それからツバメではありませんが、アリゾナ州では飛翔性昆虫をフライングキャッチするオウサマタイランチョウ(Kingbird)の観察と吐き出したペリットの調査でオスバチの捕食例しか見つからなかったことや、ミツバチの結婚飛行がはじまる午後になると、養蜂場にイエスズメがやってきてオスバチを捕食していることも観察されていました(Schmidt 1990)。こうした観察結果から、ツバメなどの野鳥がオスバチを選択的に捕食する場合があることが分かってきました。

 ところで、はじめに書いたようにオスバチには毒針がないので刺されませんが、そのせいでツバメなどがオスバチを選んでいるのかははっきりしていません。オスバチが好まれる理由には、働きバチより身体が大きいので一匹で栄養価が高いとか、結婚飛行で同じ場所をぐるぐる飛ぶから捕まえやすいなど別の可能性もあるかもしれません。それから、メスバチは食べられていないかどうかも、まだ分かりません。結婚飛行しか役割のないオスバチはミツバチの巣の近くにしかいませんし、しかも繁殖期にしか生まれてこないので、「いちばん普通のミツバチ」である働きバチしかいないときには、ツバメは働きバチを捕まえているのかもしれません。

 ミツバチのオスは働きバチより大きく太めで、ゴーグルのような大きな目が特徴です(図2)。来年(2022年)のツバメの繁殖期に、巣の下に落ちているミツバチのオス・メス調査をやりたいと考えていますので、ツバメの大家の皆さまにご参加いただけたらうれしいです。

 記事の執筆にあたり、銀座ミツバチプロジェクトの山本なお子さん、NHKエンタープライズの久保嶋江実さん、写真家の佐藤信敏さん、玉川大学教授の小野正人さんにご協力いただきました。感謝申し上げます。

参考文献

Grant C (1945) Drone Bees Selected by Birds. The Condor 47: 261–263.
Schmidt J, Spangler H, Thoenes S (1990) Birds as Selective Predators of Drones. American Bee Journal 130: 811.

※ 自然状態のセイヨウミツバチの繁殖期は4月中旬~6月初旬ですが、養蜂場では人為的な管理をして、もっと遅い時期までオスバチと新女王が生まれるようにしている場合もあるそうです。

 

Print Friendly, PDF & Email