「チヨチヨ ビー‥‥ チッチヨ ビー」新緑の森に特徴的なセンダイムシクイの声が響き渡る季節になりました。低山ではセンダイムシクイの声が聞けますが,もう少し標高の高い場所の沢沿いではエゾムシクイが賑やかです。そして亜高山帯まで行けばメボソムシクイが。
こうした垂直分布の種による違いは有名ですが,「具体的に」となるとなかなか情報はありません。現在行なっている「全国鳥類繁殖分布調査」の現地調査の結果は,そのコースの標高がわかっているので,各種鳥類の生息標高の視覚化ができそうです。鳥の垂直分布には地域差もありますので(植田 2018),調査が進んでいて,かつ標高差も大きい関東地方と中部地方のデータもとに近縁種の標高分布を比較してみました。
ムシクイ類の垂直分布
まずは先に取り上げた,ムシクイ類の垂直分布を見てみましょう。センダイムシクイが一番低い標高におり,主要な生息標高(図1の長方形の部分)は500-1,000mくらいで,1,500mを越えるくらいの標高まで記録されることがわかります。エゾムシクイがその次に高い場所に生息しているのですが,主要な生息標高は意外にメボソムシクイと違わないことがわかります。ただし生息域の標高の下限(図1のT字線の範囲)がメボソムシクイよりもだいぶ低い点に違いがあります。標高の低い場所でも沢沿いだとけっこうエゾムシクイは見られますので,そのことを反映しているのだと思われます。メボソムシクイには低い標高の場所に「外れ値」がけっこうありますが,これらは,おそらく渡り途中の個体だと思われます。5月下旬や6月などかなり遅い時期にもメボソムシクイやオオムシクイは渡っているので,そんな記録が入ってしまっているのでしょう。
小形ツグミ・大形ツグミ
令和の世。小形/大形ツグミという表現を使わなくなって久しいですが,昭和の男は相変わらずこういうくくりでまとめてしまいます。分類の改訂でツグミ科はなくなってしまいましたが分類的に近いことには変わりはありませんし。
で,生息標高をみると,コルリとコマドリは重複しつつもコマドリの方が標高の高いところにいて,亜高山にルリビタキにがいるという分布がきれいに示されています(図2)。ちょっと意外だったのが,大形ツグミの方。トラツグミって意外と低い標高にいるんですね。そして,マミジロとアカハラが高標高にいますが,沢沿いを好むマミジロはやや低いところでも生息しているのがエゾムシクイと共通しています。夏に沢を歩くと感じますが,沢沿いは涼しいですよね。こうした「標高の割に」という微気象も影響しているのかもしれません。
カッコウ類
最後に托卵相手(宿主)の生息標高がその標高分布に関係しそうなカッコウ類について見てみました。
ホトトギス,ツツドリ,ジュウイチの順に標高があがっていき,カッコウはかなり広い標高帯に分布しているのがわかります(図3)。ツツドリとジュウイチは納得がいきます。ツツドリの主な宿主のセンダイムシクイの主要な生息標高は500-1,000mで,ツツドリの主要分布と一致しています。また,ジュウイチの主な宿主のコルリの主要な生息標高は900-1,500m,ジュウイチのそれとほぼ一致します。
それに対してホトトギスはちょっと低すぎるような気がします。ホトトギスの宿主はウグイス。低標高から高標高まで,どこにでも見られる鳥です(植田 2018)。したがってホトトギスはもっと高いところにも生息していて良さそうな気がします。
高いところに生息していない理由の一つはウグイスの生息密度かもしれません。今回の調査結果でコース当たりの記録個体数を見てみると,標高の高いところでは生息数が少なかったのです。ホトトギスが托卵に成功するには,ホトトギスのヒナの方がウグイスよりも先にふ化することのできる適切なタイミングに托卵する必要があります。そのように,托卵するウグイスの巣を選ぶためにはたくさんのウグイスが繁殖していなければなりません。それがホトトギスの生息を制限しているのかもしれません。
カッコウの生息標高の幅が広いのは,オオヨシキリ,オナガ,モズ,ホオジロといった多様な種に托卵するからだと思われます。とはいっても,これらの主要な宿主の生息標高は高くありません。それを考えると,カッコウの生息標高,高すぎない? 知られていない主要な宿主がいますね。きっと。