バードリサーチニュース

秋冬に繁殖するツバメが各地で見つかっている

バードリサーチニュース 2024年1月: 3 【レポート,活動報告】
著者:神山和夫

埼玉県の道の駅で秋にツバメが繁殖しました

道の駅庄和でヒナに餌を与える親ツバメ。

写真.埼玉県春日部市の道の駅庄和でヒナに餌を与える親ツバメ。2023年11月9日。

 2023年の秋、埼玉県春日部市の道の駅庄和でツバメがヒナを巣立たせました。写真の巣で繁殖したつがいは11月10日ごろに2羽のヒナを巣立たせてから再び産卵し、12月初旬には5つの卵を抱いていましたが(ただし1回目の巣立ち直後に3つの未孵化卵があったので2個産み足したようです)、12月13日には巣の下に卵1個とヒナ1羽の死体が落ちていて 、つがいは夜になっても素巣に戻りませんでした。死体は卵のなかにいるときのような姿勢だったので、孵化したのではなく落下で卵が割れて出てきた可能性もありますが、秋冬に二度の産卵があり、ヒナの発生まで進んでいた例は他では聞いたことがありません。さらに道の駅庄和には同時期にもうひとつがいのツバメがいて、こちらのメスは11月初旬に2個の卵がある巣に出入りして産座の羽毛をくちばしでつまんでいました。このメスに抱卵斑があったこと、卵に触れたところすべすべで新しく見えたことから、このつがいも産卵した可能性が高いようでしたが、その後は追加の産卵も抱卵行動もなく、繁殖する気がなくなってしまったようでした。12月13日以降は後者のつがいのオスだけが巣場所に戻っていましたが、そのツバメも12月20日頃に姿を消してしまいました。2023年秋の気温は気象台が記録を始めた1898年以降で最も高温だったそうで、ツバメは季節を間違えてしまったのでしょうか。

 

近年のツバメの秋冬繁殖記録

 最近、11~12月にツバメが繁殖しているというニュースをよく目にします(図1)。SNSの普及やインターネットに地方紙の記事が載るようになって情報が広まりやすくなったせいもあるかもしれないので、秋繁殖が増えてきているのか確実なことは分かりません。しかし越冬ツバメ(繁殖はしていない)は40年前に比べて分布が広がっているので(図2)、温暖化のせいで秋冬にツバメの餌になる飛翔性昆虫の発生が増えてきているのかもしれません。

近年ツバメが秋冬に繁殖した場所

図1.近年ツバメが秋冬に繁殖した場所。出典は文末参照。

越冬期のツバメの分布

図2.越冬期のツバメの分布(鳥類越冬分布調査より)

 

アルゼンチンでは北半球の秋に繁殖するようになった

 ツバメは普通4~7月に産卵するのですが、秋冬にも産卵できるのはどうしてでしょうか。じつは非熱帯地域に生息する鳥類の繁殖時期は日照時間、気温、食物などの外部条件によってコントロールされていて、そうした条件次第では繁殖が可能になるのです。とはいえ秋冬に繁殖が起きるのはハプニングの域を出ませんが、春の繁殖期に向けて秋から性ホルモンなどの分泌が再活性化するために、秋に攻撃性が強まったり、さえずりや交尾などの繁殖行動が見られることがあります。ツバメ以外の野鳥が秋に産卵した事例は、ヨーロッパでミヤマガラスやホシムクドリで記録があり、この両種は秋に性ホルモンの分泌や精巣の発達があることが分かっています(Lincoln et al. 1980, Ball& Ketterso 2007)。
 北半球では寒くなっていく季節に繁殖するメリットはなさそうですが、南半球ではツバメの繁殖時期が個体群レベルで変化した例があります。アルゼンチンはかつて北アメリカのツバメの越冬地でしたが、1980年代にツバメが繁殖するようになり(Martinez 1983)、さらに1990年代になると、ツバメ同様に南北アメリカを渡っているサンショクツバメの繁殖が始まりました(Areta 2021)。アルゼンチンでは越冬ツバメと繁殖ツバメが同時期に生息していて、越冬ツバメが北帰する時期になると繁殖ツバメも北上し、南米大陸北部で越冬してからアルゼンチンに帰ってくるそうです。南半球の中緯度帯では北半球と季節が正反対なので繁殖できる条件はそろっていますが、繁殖時期が逆転した種というのはツバメの仲間以外には知られていません。

 ツバメは他の種に比べて繁殖時期を柔軟に変化させられるような生理機能があるのかもしれません。日本が温暖化するにつれて、これから秋冬繁殖のツバメも増えていくのでしょうか。秋冬に繁殖した事例を集めていますので、ご存じの方はお知らせください。

 

参考文献

Ball, G.F., and Ketterson, E.D. (2008) Sex differences in the response to environmental cues regulating seasonal reproduction in birds. Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci. 363: 231–246.

Lincoln, G. A., Racy, P. A., Sharp, P. J. & Kandorf, H. (1980) Endocrine changes associated with spring and autumn sexuality in the rook Corvus frugilegus. J. Zool. 190: 137–153.

Martinez, M.M. (1983) Nidificacio’n de Hirundo rustica erythrogaster (Boddaert) en la Argentina (Aves, Hirundinidae). Neotropica 29: 83–86.

Areta, Juan & Salvador, Sergio & Gandoy, Facundo & Bridge, Eli & Gorleri, Fabricio & Pegan, Teresa & Gulson-Castillo, Eric & Hobson, Keith & Winkler, David. (2021) Rapid adjustments of migration and life history in hemisphere-switching cliff swallows. Current Biology. 31: 2914–2919.


ツバメの秋冬繁殖の出典
①埼玉県春日部市:バードリサーチによる調査
②長野県長野市: 信濃毎日新聞(2022)親ツバメ 季節外れの子育て. 信濃毎日新聞2023年11月25日
③群馬県高崎市:繁殖のようすをfacebookに書いた方との通信
④岡山県新見市:朝日新聞 (2022) 季節外れのツバメの子育て、家主は驚いた 寒さに耐えた. 朝日新聞2022年12月6日
⑤長野県中川村:信濃毎日新聞(2021)寒空にツバメ巣立つ. 信濃毎日新聞2021年12月7日
⑥宮城県仙台市:深瀬徹(2021)宮城県仙台市における11月のツバメの繁殖. Bird Research 17:9-11.
⑦福井県越前市:福井新聞(2021)やせ細った親が少ない餌探し…ツバメが雪国で季節外れ子育て中 福井、見守る住民「なんとか無事に」.福井新聞 2021年12月9日
⑧岐阜県多治見市:中部テレビ(2019)夏の鳥「ツバメ」 12月の岐阜県で子育て中…気候が影響か 地元からは心配の声も 岐阜・多治見市. CHUKYO TV NEWS 2019年12月13日
⑨千葉県我孫子市:朝日新聞 (2019) 季節外れの巣作ったツバメ、5個の卵産む 我孫子.朝日新聞 2019 年12 月12日.
⑩岡山県倉敷市:山陽新聞(2015)倉敷の居残りツバメ一家が巣立ち 無事にひな育ち、住民ら安堵. 山陽新聞2015年12月1日

追記(2024/10/31)

兵庫県にお住まいの会員の方から、宝塚市の阪急逆瀬川駅でツバメが繁殖していると教えていもらいました。バードリサーチのブログで紹介しています。

追記(2024/11/12)

阪急逆瀬川駅のツバメですが、11月10日に5羽が巣立ったそうです。