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冬でも録音調査は意外と効果的? 秩父の録音記録と現地調査の比較

バードリサーチニュース 2024年2月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之

 録音記録による鳥のセンサスが盛んになってきています。Bird Research誌や,鳥類学大会でも声のAI認識の発表があり,将来のセンサスの自動化についても期待できるようになってきています。

 繁殖期の森では,鳥はよく囀り,また,葉が茂っていて姿が見つけにくいこともあり,記録のほとんどが鳴き声によるものです。そのため,録音による調査が効果的で,これまでの録音調査は繁殖期に行なわれてきました。では,越冬期の調査ではどうなのでしょうか? 葉が落ちて目視も容易で,地鳴きだけになっているこの季節は,録音調査で記録することのできる鳥は現地調査と比べて少ないでしょうか? モニタリングサイト1000の調査地の秩父演習林では,Cyberforestによる録音のアーカイブが続けられています。そこで,モニタリングサイト1000調査時刻に録音が行なわれていた2021年から2024年までの6日間のデータに基づき,現地調査の結果と録音調査の結果を比較してみました。

種の生息の有無は録音でも概ね把握可能

図1 現地調査と録音の聞き取りで記録できた種の比較。両方で記録できた種が81%を占めた。種名は,現地調査のみあるいは聞き取り調査でのみ記録できた種。

 6日間で17種(のべ53種:8.8種/回)の鳥が記録されました。このうち,現地調査と録音の聞き取り調査で記録できた鳥は81%も一致していました(図1)。冬の調査でも鳥たちは意外と鳴いていて,録音でも,その多くを記録できていたのです。ただし,現地調査で2回記録されたキクイタダキはそのいずれもが録音調査では記録できず,1回記録されたルリビタキも録音調査では記録できませんでした。キクイタダキは,ジリリリ・・ という特徴的な地鳴きを出せば簡単に識別できますが,それ以外のチッ チッという声だと,ヒガラやコガラなどのカラ類との識別が難しくて記録することができません。現地では声で識別することができなくても,目視で「キクイタダキだ」とわかるので,このような差が出たものと思われます。

 

キクイタダキの特徴的な声(上)。この声を出してくれたら識別できるけれども,下の声だけだとカラ類も似た声を出すので「キクイタダキかな…」くらいで,確信をもって識別するのは難しい。


 また,ルリビタキは鳴かずに林道にいるのを観察した例でした。秩父の調査地にはいない種ですが,キジバトも繁殖期は声で記録されますが,越冬期は声を出さずに姿でのみ記録される種なので,こんな種も冬の録音調査では記録ができないでしょう。大型キツツキについては,すべて記録できていましたが,現地では「オオアカゲラ」「アカゲラ」と識別できていたものがありましたが,録音調査では種までの判別はできませんでした。秩父の調査地にはいない種ですが,シロハラやアカハラについても同様のことが起きそうです。
 逆に録音だけで記録されたのは,ウソとカケスの1回ずつでした。いずれも1声だけだったので,現地では聞き落としてしまったのだと思います。このように録音調査で記録できなかった種もいて,種の判別が難しい分類群もありますが,全体的には「生息種の記録」という観点では,越冬期でも録音調査は有効と言えそうです。

 

個体数の把握は多い・少ない程度なら?

図2 現地調査で記録できた個体数と録音の聞き取りでの記録頻度の比較。現地調査での個体数が増えると,聞き取りでの頻度も増えるという弱い相関があった。

 また,録音調査では何羽いるのか判断が難しいという量的な評価も課題になります。10分間の調査時間を2分間ごとに区切って,5区分のうち何区分で録音されていたかを基に,現地調査の記録個体数と比較してみました。つまり,その場所にいる数が多ければ,記録される時間区分も多くなるだろうという仮定での評価です。今回は現地調査では1羽か2羽がほとんどで,3羽以上のデータは少なかったのですが,現地調査で1羽の場合は,聴き取り頻度が3回以下のことが多く,2羽の場合は,4回以上が多いなど,個体数の多い場合は,聞き取り頻度も高いという弱い傾向はありました。相関も弱いので精度は低いですが,多い・少ない程度の大まかな数の評価もできるかもしれません。

 今回は,既存のデータを利用したので,秩父1か所での比較で,また,現地調査で記録された個体数も少なく,個体数の評価については限定的でしたが,今後,録音調査が行なわれていくことを見据えると,いろいろな場所,いろいろな種について情報を集めて,越冬期の聞き取り調査の結果でどの程度まで言えるのかについての情報を蓄積して評価していくことが重要になってくると思います。