バードリサーチニュース

鳥類学大会2023を開催しました

【その他】
著者:植村慎吾・高木憲太郎

2023年12月15–17日に、バードリサーチ鳥類学大会2023を開催しました。
今回は、ポスター発表36件、口頭発表8件と、465名の参加登録がありました!
この記事では大会の様子を報告します。

初日のポスター会場の様子 自分のアイコンを発表者に近づけると発表を聞ける仕組みです

 

ヒマラボ賞と最優秀ポスター賞の紹介

昨年に続いて今回の大会でも、ヒマラボ賞と最優秀ポスター賞の2つの賞を設けました。
どちらも参加者が審査員となって、投票によって受賞が決まる賞です。

まずは、最優秀ポスター賞を紹介します。最優秀ポスター賞は全てのポスター発表が対象で、参加者がそれぞれの基準で最もおもしろいと思った発表に対して1票を投じました。その結果最も多くの票を集めたのは、太田佳似さんによる「鳥たちの気象防災講座(台風編)」でした!太田さんの発表ファイルは、鳥類学大会のページの「ポスター発表PDF(希望者の発表を公開)」の場所からご覧になれます。
 太田さんには、表彰状とともに副賞として、バードリサーチが寄付金付きTシャツやサポートカードによる支援をいただいている株式会社モンベルの製品の中から、ご本人の希望の品をお贈りしました。

太田さんの発表ファイルより一部抜粋


太田さんからの受賞コメント

今年も素晴らしいポスター発表が沢山あり、また多くの皆さんとの有意義な交流もできて、楽しい3日間を過ごさせて頂きました。そんな中で私の専門である「気象防災」を鳥たちの目線で捉えたポスター発表に多くの投票を頂き、大変嬉しく思います。甚大な気象災害が増え、防災への関心が高まる中、私たちの研究対象であり、身近な友人である鳥たちが、どのように気象災害を乗り越えているのかは、大いに関心のある内容かと思います。気象衛星を持たない鳥たちが、自らの感覚器官で生き延びる姿は感動的でもありますが、まだまだ科学的に十分解明されている訳ではありません。これらの知見は、私たちが生き延びる上でも、きっと役立つものと思われますので、さらなる皆様の研究の発展に期待したいと思います。ポスタースライドはバードリサーチさんのホームページで公開させて頂けますので、一人でも多くの方々にご興味を持って頂ければ幸いです。この度は本当にありがとうございました。



次に、ヒマラボ賞の受賞者を紹介します。ヒマラボ賞は、日々の生活の中でできる研究で、空いた時間に行った調査研究活動だと申告のあったポスター発表が対象です。協賛の一般社団法人ヒマラボから提供していただいています。研究者がメインテーマとは別にちょっとやってみたという研究も対象としています。参加者が発表を聞いて、「自分でも空き時間にやってみよう!」と意欲をかき立てられた発表に1票を投じるものです。
 今年は、得票数の多い1位と2位の発表に対してヒマラボ賞が授与されました。1位は佐藤悠子さん(新潟県愛鳥センター紫雲寺さえずりの里)による「傷病鳥から採取したハジラミ飼育の試み」でした!佐藤さんには表彰状とともに副賞として一般社団法人ヒマラボからAmazonギフトカード5000円分が贈られました。
 佐藤さんのご発表は非公開ですので、要旨を紹介します。

発表要旨
傷病鳥からはハジラミを生きたまま採取することができる。今回、アオバトとドバトから採取したハジラミ3種(Columbicola columbaeCampanulotes compar、不明種)について、宿主の羽毛とハジラミをサンプル瓶に入れて飼育を試み、生態の観察を行った。羽毛の採食、交尾、産卵、孵化、脱皮などの行動が観察された。採食部位や産卵場所には種による違いも観察された。未だ不明な点が多いが、興味深いハジラミの生活の一端を報告する。

アオバトのハジラミ(佐藤悠子さん提供)

 


佐藤悠子さんからの受賞コメント

 まさかハジラミを飼ってみたという内容で受賞するとは思わず、驚きました。投票してくださった皆様、ありがとうございました。
ハジラミを生け捕りしたときに、羽毛を食べている虫だということは知っていたので、宿主の羽毛と温度があれば飼えるのかなと思ったことから始まりました。日々観察しながら、羽毛の中にこんな未知なる世界が広がっていたとは!という驚きや感動がありました。
 仕事で傷病鳥獣を扱っていますが、収容された個体の半分以上が死んでしまうのが現実です。個体の生命を助けることだけでは保全には繋がらないと感じる中で、個体から得られる情報は保全に繋げられると思っています。傷病鳥獣からは、ハジラミを含め野外調査では得られにくい貴重な情報がたくさん得られますので、今後も情報を最大限活かせるよう励んで行きます。


 

2位は長久保定雄さん(バードリサーチ会員)による「小河川におけるカルガモの行動と生態」でした!長久保さんには表彰状とともに副賞として一般社団法人ヒマラボからAmazonギフトカード3000円分が贈られました。
 長久保さんの発表ファイルは、鳥類学大会のページの「ポスター発表PDF(希望者の発表を公開)」の場所からご覧になれます。

発表要旨
2022~2023年、埼⽟県朝霞市を流れる⿊⽬川の調査域(約3.4km)において撮影した約30,000枚のカルガモ写真を解析し、可能な限り個体識別・雌雄判別して、個体の行動と生態を解析した。その結果、当地カルガモは黒目川に対してFidelityが強いことが推測された。また、カルガモのクチバシ模様や三列風切羽は前年と同じパターンで変化すること、繁殖期の多くのメスのクチバシが婚姻色のような色変化を示すこと、加えて、ペアの継続性には様々なパターンがあることが観察された。

雌雄のカルガモ

 


長久保定雄さんからの受賞コメント

この度はヒマラボ賞に選んでいただき、ありがとうございました。ポスター発表を見てくださった皆様に心より感謝いたします。
複数のカルガモ親子を正確に追跡しようと、写真による母カルガモの個体識別を始めたのが2021年でした。当初は単純な識別法でしたが、識別を進めていくうち、「この特徴が識別に使えるじゃん」と様々なことが分かってきて、いつの間にか数多くのカルガモを識別できる手法が分かり、そして、識別結果からカルガモの生態と行動が見えてきました。
調査域である黒目川のカルガモの多くが、川に複数年居ついたり、季節ごとに戻ってきたりと、黒目川に対して何かしらの固執(Fidelity)を持っていることが見えてきました。また、カルガモ夫婦が複数年一夫一妻制ベースである可能性が見えてきました。もちろん、人間と同じで、ペア変更や死別による新ペア相手獲得はありますが、複数年一夫一妻制がベースであると推測されました。ただし、これらは黒目川特有かもしれないので、他地域での検証が必要と思っています。
この個体識別法によりカルガモ研究が少しでも進めば、私にとってこれ以上の喜びはありません。



昨年から設けられたヒマラボ賞は早くも参加者の皆さんに浸透してきたようです。16日の夕方から開催した懇親会では、「大会ページでヒマラボ賞の文言を見て、私の調査の内容もこういう大会で発表して良いんだと思って嬉しくなって発表しました」という声がありました。最優秀ポスター賞を受賞した太田さんも、「ヒマラボ賞に選ばれたらいいなと思ってポスター発表をした」と言っておられました。空き時間にやってみたしっかりした研究はもちろん、完成した研究ではなくても発表をして意見を受けてみようとか、話題になればという思いで発表をするきっかけになっていれば嬉しいです。

 

発表ピックアップ紹介

霧ヶ峰における林野火災による鳥類層への影響
堀田昌伸・尾関雅章(長野県環境保全研究所)

長野県の霧ヶ峰草原は、採草や火入れによって維持されてきた半自然草原で、多くの草原性鳥類の生息地です。しかし、管理が停止された場所が少しずつ増えてきて草原性鳥類が減少しています。そんな状況下、2013年に火入れ事業の延焼が起き、2023年には原因不明の林野火災が起きて、広範囲にわたって草原に火入れがされた状態になりました。そこで、火災が草原性鳥類にどのように影響したか、また、2019年に火入れ管理が停止された地区で鳥類相がどのように変化したかを調査されました。その結果、ホオアカ、ノビタキ、コヨシキリには特に火災の影響がなかったことがわかった一方で、2019年以降に火入れが停止された草原ではヒバリが有意に減少し、コヨシキリも減少傾向にあることがわかりました。

市街地のツミの繁殖行動
緒方晴(下北沢小学校6年)

ご自宅周辺にいるツミを、羽毛の特徴から個体識別し、営巣場所の変遷や繁殖成績を追跡しました。ツミはある程度人通りがあって近くに狩場や水場がある場所を巣に選ぶこと、繁殖に失敗しても縄張りは変えず、直前の営巣場所からは500mほどの範囲再び営巣するようだということを記録しました。また、近くで繁殖するオオタカの繁殖状況も記録し、ツミと比較をしました。今年の観察ではツミが好む営巣場所がわかってきたので、来年もしっかり観察をしたいとのことです。緒方さんは今回の最年少発表者でした。

赤・黒2色の草の実を運ぶのは誰?–ヒヨドリによるトチバニンジンの果実の持ち去り記録–
鳥居憲親(長岡市博物館動物研究室)・櫻井幸枝(長岡市博物館植物研究室)

植物と鳥などの動物の間には、栄養のある果実を鳥が丸呑みされることで、中の種子を遠くに運んでもらえるという相利共生関係があります。一般に、鳥は赤い果実や黒い果実を好むとされています。さらに、1色より、赤も黒も一緒にある方がより鳥を惹きつけるという例がいくつか知られており、これを2色効果といいます。トチバニンジンは、果実の先端側が黒くなって赤と黒の2色の実をつけることがある植物です。鳥居さんたちは、トチバニンジンの果実が実際にどのような動物に好まれていつ運ばれるのかを明らかにするため、自動カメラによる観察を行いました。すると、ヒヨドリとニホンカモシカが果実を食べて持ち去る様子が撮影されていました。今回の調査ではこの2種が種子散布者である可能性が分かりましたが、2色効果についてはこの研究からはまだ分かりませんでした。今後の観察例が蓄積されれば、2色効果の仮説を検証できるかもしれません。続報に期待しましょう。

赤と黒2色のトチバニンジンの果実(鳥居憲親さん提供)

情報提供のお願い

トチバニンジンは国内の一部の地域でのみ赤黒2色の実をつけると言われているのですが、九州以外に赤黒2色の実をつけている地域がどのくらいあるのかはまだよくわかっていないそうです。今回は新潟に2色のタイプがあることに気づいたことが研究のきっかけだったそうです。皆さんのお住まいの地域のトチバニンジンが、「赤」・「赤・黒」どちらのタイプの果実をつけているか情報をお持ちの方がおられましたら、ぜひ、確認地域と果実の色を長岡市博の鳥居さん(torii-norichika@city.nagaoka.lg.jp)までお送りください!

なお、発表者のうち希望があった方の発表を鳥類学大会のページで公開しています。ぜひご覧ください。

自然観察施設とのコラボ企画

現在,調査参加を募っている食性データベースと絡めて、全国各地の自然観察施設に、そこで観察できる鳥とその採餌行動を紹介していただきました。
参加施設は北から順に、
水の駅「ビュー福島潟」(新潟県)
加賀市鴨池観察館(石川県)
箕面ビジターセンター(大阪府)
新興産業きらら浜自然観察公園(山口県)
油山自然観察センター(福岡県)
です。
大会でいろいろな発表を聞いて、自分でもデータをとってみたいなとか、調査や研究に参加してみたいな、と感じた方に、調査参加のきっかけにもなればと思います。
当日の様子をYouTubeに残していますので、どうぞご覧ください。
動画はこちらから

コラボ企画 掲示の参加施設

コラボ企画に登壇していただいた施設では、これから施設で食性データベースへの投稿を呼びかける展示をしていただく予定です!展示の時期は施設によってバラバラですが、食性データベースのページブログなどで期間や様子を紹介するほか、集まった情報を共有します。また、当日はご都合でご出席いただけなかった きしわだ自然資料館(大阪府) でも展示に協力していただく予定です。

バードリサーチの調査へのお誘い など

16日の午後のプログラムでは、バードリサーチで実施している参加型調査のうち3つを紹介しました。
項目は
この冬、参加者募集中 カモの性比調査とトモエガモ全国調査
イワヒバリを探せ!!今年の成果と今後の展望
夜に鳴く鳥 タマシギ –繁殖モニタリング–
です。リンク先のYouTubeに残してありますので、ぜひご覧ください。

それから、以前アンケートで認知度が低いことがわかったTORIクイズや鳴き声学習などの学習ツールの紹介も行いました。
TORIクイズはこちらから
鳴き声学習はこちらから

鳥類学大会2024も開催するつもりです。また皆さんと大会でお会いするのを楽しみにしています!

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