バードリサーチニュース

日本の森の鳥の変化:アオジ

バードリサーチニュース 2023年12月: 1 【レポート】
著者:植田睦之

北海道では最優占種

 アオジは,本州以南の多くの地域の人にとっては,冬はそれなりに見る普通種だけど,繁殖期は標高の高い場所などやや寒冷な場所で繁殖する鳥というイメージではないでしょうか。しかし,北海道ではイメージが違っていて,最も分布が広く,数も多い繁殖期の最優占種と言えるような鳥です。


 全国鳥類繁殖分布調査の北海道での現地調査の結果をみると,記録地点数では全種の中で最も多く,合計個体数もウグイス,センダイムシクイに次ぐ3位に位置します(植田・植村 2021)。

 

アオジの南限は北上傾向

 このような分布の地域差からもわかるようにアオジは寒冷な場所に生息する鳥です。近年の温暖化が影響してか,アオジの分布には変化が見られています。
 全国鳥類繁殖分布調査の結果を基に,1970年代,1990年代,2010年代の分布をみてみると,西日本の記録が減少しているのがわかり(図1左の分布図),緯度+経度の値を集計した右側の図を見ても,分布の中心域の南限(グラフの箱の下側の位置)はやや北上しているもののそれほど変化はありませんが,主要な分布域の南限(棒の下の部分)が年代を追うごとに北へと切りあがっているのがわかります。

図1 アオジの分布の変化.右側のグラフは日本列島が北東方向に伸びていることを考慮し,西日本から東日本にかけての分布変化を見るため,アオジの分布メッシュの中心の緯度+経度の値で示した。グラフの横棒が中央値,箱が分布の中央50%の範囲,棒が分布の主要な範囲,○が外れ値を示す。

 

 

個体数は南で減少し,北で増加?

図2 全国鳥類繁殖分布調査の現地調査の結果に基づく緯度別の北海道の1990年代から2010年代にかけてのアオジの個体数の変化。グラフの横棒が中央値,箱が分布の中央50%の範囲,棒が分布の主要な範囲,○が外れ値を示す。

 主要な分布域の北海道の個体数をみても南で減っている傾向が見えます。1990年代と2010年代の現地調査の結果を比較して,個体数の増減を緯度別に見てみると,北海道南部(図2の緯度区分41)では中央値こそ個体数が変化していない0に位置していましたが,グラフの箱の部分が0より下に位置していることから,減少している調査地が多いことがわかります。それに対して北海道の中央部(42-44)では,中央値も箱も0を中心としており,増えても減ってもいないことがわかります。そして北部(45)では,箱が0より上にあり,増加している調査地が多く,北では増加傾向にあることがわかりました。
 繁殖分布調査の結果は1990年代からのかなり長期での変化ですが,最近の変化はどうなのでしょうか? モニタリングサイト1000の北海道の3か所のコアサイトの結果を見てみると,南に位置する苫小牧では,有意な減少が見られていました(図3)。より北に位置する足寄や雨龍では,やや右肩下がりに見え,減少傾向にはありそうですが,有意な傾向ではありませんでした。近年も南での減少傾向は続いていて,もしかすると,減少域は北上しているのかもしれません。

図3 北海道の3か所のモニタリングサイト1000のコアサイトの繁殖期のアオジの記録数の変化


 アオジの繁殖分布域は日本だけでなく,サハリン,そして大陸側へと続いています。そちらの状況をロシアの知人に聞いてみました。サハリンを中心に極東各地で調査しているPavel Kitorovさんや,アムール川中流域で調査をしているAleksey Antonovさんによると,アオジがこれまで見られなかった北の地域でも見られるようになっていて,また全体に個体数も増加傾向にあるということです。国内の状況と合わせて考えると,アオジの分布は北へとシフトしていると考えてよさそうです。
 そう聞くと,アオジがうまく温暖化に適応できているようにも感じますが,分布を拡げた先での繁殖状況や,全体での密度変化がわからないと,一概にはそうとは言えません。越冬期は繁殖期と比べて個体数の把握が難しいので,慎重に評価する必要はあるものの,モニタリングサイト1000の越冬期の結果から,アオジが減少している可能性も示唆されていて(植村 2023),全体では減少してしまっている可能性もあります。今後の動向について,情報収集を続けていきたいと思います。