昨年は2021/22年に国内で越冬したトモエガモの数が15万羽を超えたいう記事を書きましたが、これは各地の飛来地の最大値から推定した数だったので、越冬期間中にトモエガモが移動していると重複してカウントしている可能性がありました。そこで昨年の2022/23年から、石川県の鴨池観察館とバードリサーチが協同で全国の皆さんに呼びかけて、毎月トモエガモのカウントを行う全国調査をスタートしました。
トモエガモはまとまった数の群れで動くからなのか、短いあいだでも調査するタイミングによって数が大きく変わります(図2)。そこでこの調査では毎月10~19日の期間に調査をしてもらい、その最大値を当月の記録として使用するようにしました。もちろん、この期間中にトモエガモが大群で移動をしてしまうと重複カウントによる誤差が大きくなりますが、逆に調査日を狭めてしまうと、調査する時間を取れなかったり、調査日にたまたま数が少なかったりするリスクの方が大きいと考えました。このようにして行った調査の結果、トモエガモの個体数は12~1月がピークで最大値は12月の167,757羽、そして2月には個体数が急減することが分かりました(図3)。
では次に、ピーク時期の分布図を見てみましょう(図4)。主要な越冬地は日本海の多数の県と、太平洋側では千葉県と宮城県にあることが分かります。この時期の北限は宮城・秋田県で、11月と3月には秋田、青森、北海道でも記録があるものの個体数は少ないので、主要な渡りルートは片野鴨池からの衛星追跡で判明している日本海越えか、あるいは大きな越冬地がある朝鮮半島経由ではないかと思われます。ただしトモエガモは人が近づかない場所をねぐらにするため未発見の生息地があるかもしれませんから、この分布情報は暫定的なものとお考えください。
ところで、毎月の変化を見ていて驚いたのは、12月に長崎県の諫早湾に132,100羽、佐賀県の巨勢川調整池に14,400羽(注:調査期間外)ものトモエガモがいたのが1月に急減して、代わりに千葉県の印旛沼が12月の23,730羽から1月に131,780羽に増えたことでした。10万羽のトモエガモが九州から関東へ移動したというほど単純なことではないでしょうが、この両地点を含めて、調査から漏れている越冬地とのあいだで大きな国内移動があったのかもしれません。そうしたことを調べるために、今シーズンもトモエガモ一斉調査を10月から実施しています。毎月10~19日にカウントしたトモエガモの最大数をtomoegamo@teamkamoike.comへ送って下さい。なお、バードリサーチが事務局をしている環境省のガンカモ調査の記録や、ガンカモWebデータベース、野鳥データベース「フィールドノート」に記録を入力されている場合は、そのデータを利用させていただきます。集まった記録は随時、鴨池観察館のWebサイトで報告されます。
調査期間外も含めて、2022/23年にトモエガモが1,000羽を越えたのは以下の地点でした。諫早湾132,100羽、 印旛沼131,780羽、不知火干潟30,000羽、 巨勢川調整池14,400羽、東庄八丁堰6,000羽、片野鴨池4,075羽、 小野湖3,892羽、米子水鳥公園2,780羽、大山公園、2,364羽、 朝日池2,273羽、宍道湖2,000羽、河北潟2,000羽、黒瀬ダム1,604、鳥屋野潟、1,353羽、阿部池1,300羽、福島潟1,166羽、 熊本県鳥獣保護センターの池1,000羽。調査に協力していただいた皆様にお礼を申し上げます。
最後に、トモエガモの大群をカウントするコツを紹介して、記事を終えたいと思います。これは印旛沼の調査をされている長島充さんに教わった方法で、私も下記の動画に映っているトモエガモをこうやってカウントしました。まず、トモエガモの群れの端から、2,4,6,8,10と10羽まで数えて、その固まりをくるっと楕円で囲むイメージを思い浮かべます。これを数十回繰り返すと、2,4,6,8,10と数えなくても10羽の固まりがなんとなく分かるようになるので、そうしたら10,20,30・・・とカウントしていきます。群れは岸から見ると横長に見えますが、実際には円形に近いので、横から見ると中央付近が分厚くてカウントがしんどくなってきます。しかし、そこで心が折れずに数えきれるかが正念場です。この冬も、一緒にがんばりましょう!
2023/1/8の夕方に熊本県の八代海の不知火干潟から飛び立つ約3万羽のトモエガモ。日本野鳥の会熊本県支部の調査に参加させてもらいカウントしました。
本調査で利用したデータについて
調査の呼びかけに応じて送っていただいたデータの他、以下のデータを利用しています。
・環境省:モニタリングサイト1000、渡り鳥飛来状況調査
・バードリサーチ:身近なガンカモ調査、野鳥データベース「フィールドノート」
・eBird Basic Dataset. Version: EBD_relFeb-2023. Cornell Lab of Ornithology, Ithaca, New York. Feb 2023.