バードリサーチニュース

トモエガモの越冬数が急増している

バードリサーチニュース 2022年11月: 1 【活動報告】
著者:神山和夫

図1. 2021/22年のトモエガモ個体数。バードリサーチのフィールドノートDB、環境省のモニタリングサイト1000と渡り鳥飛来状況調査などから作成。

 去年のバードリサーチニュースで2020/21年冬はトモエガモが多かったという紹介をしましたが、昨シーズン(2021/22年)も各地でトモエガモの大きな群が観察されました。昨シーズンのトモエガモの記録地点を図1に示します。トモエガモの飛来数の多い湖沼は九州北部から山形県までの日本海側と関東地方にありました。

大群が飛来する生息地は水面が広い場所や近づく人が少ない場所にあり、警戒心の強いトモエガモにとって安心できる水域が好まれているようです。さらにカモ類の飛来地として典型的な平野部の湖沼だけでなく、森に囲まれた山間部もあることが特徴的です。夜行性のため餌場の特定は難しいのですが、トモエガモの食物は、陸上や水中の植物と種子、米や大豆などの穀物、昆虫、そして林内のドングリなどと多様なので(Carboneras et al. 2020.)、日本での越冬中にもさまざまな環境を餌場に利用しているのかもしれません。

 

里にも山にも大群がやってくる

 トモエガモ飛来地は日本海側に多いのですが、千葉県の印旛沼は太平洋側随一の飛来地です。昨シーズンは3万羽以上が越冬して、私も何度か観察に訪れました。トモエガモは日中、印旛沼の水面にビッシリという感じで群れていますが、他のカモに比べると落ち着きがなく、何かに驚いては飛び上がって移動することを繰り返していて、あまりゆっくり休めていないように見えました。そして夕暮れになると、数万羽のトモエガモはひとつの群になり、巨大な生きもののようにうねりながら餌場へと飛んでいきました。この大群がどこへ行くのか気になりましたが、印旛沼の周囲の水田か丘陵地のどこかで食欲を満たしているのでしょう。

 2021/22年に全国で最多の飛来があったのは長崎県の諌早湾で、その数は10万羽を超えました。諌早湾では2017/18年から急に飛来数が増え、それ以後は毎年数万羽の群が見られるようになったそうです。諫早干拓は野菜、麦、大豆などの栽培が中心でカモ類が落ち籾を拾える水田は少なく、干拓地の周囲には山林が多くあります。トモエガモは夕方に飛び立つと西の方角へ飛んでいくことが多いそうですが、行き先は分かっていません。

 

図2. 江の川に飛来したトモエガモ(撮影:漆谷光名)

 印旛沼や諌早湾はいろんな種類のカモが多数飛来する場所ですが、中国山地を流れる江の川はカモの飛来地としては珍しい環境と言えるでしょう。山間部を流れる川はオシドリの生息地というイメージがありますが、トモエガモもオシドリと同じくドングリを食物としているとしたら、ここにやってくるのは納得がいきます。昨年はこの場所に約1.5万羽のトモエガモが飛来しました(図2)。この近くでは山口県宇部市の山間にある小野湖に約500羽、島根県の宍道湖にも数万羽が飛来していますから、中国山地の川やダムには、他にも見つかっていないトモエガモの飛来地があるのかもしれません。

 

東アジアのトモエガモ総数が増えたので、日本の越冬数も増えてきた

 バードリサーチがデータをとりまとめている環境省のモニタリングサイト1000と渡り鳥飛来状況調査、さらにトモエガモ飛来地の皆さんに提供していただいた記録を使って、2004/05年以降にトモエガモが千羽以上記録された地点11カ所の経年変化を分析しました。赤い実線が推定値、赤の薄い部分が推定値の幅です(図3)。2017/18年から越冬数が急増し、2021/22年の越冬期は主要な飛来地の合計が15万羽を超えたようです。ただしこの計算は各地の最大数を使っていますから、トモエガモが移動した先で重複してカウントされていたら数を過大に推定しているかもしれません。正確な個体数を知るためには一定の期間中に全国でトモエガモを同時にカウントする必要がありますが、今シーズンから石川県の鴨池観察館が全国一斉調査を呼びかけるそうですので、詳細が決まったらバードリサーチのブログなどでもお伝えしようと思います。

図3. 日本で越冬するトモエガモの個体数変化。伊豆沼(宮城)、印旛沼(千葉)、下池(山形)、佐潟・朝日池(新潟)、片野鴨池(石川)、西池・琵琶湖(滋賀)、宍道湖(島根)、小野湖(山口)、諌早湾(長崎)の記録を使用した。[※]

 トモエガモは極東ロシアで繁殖し、東アジアだけで越冬している種です。韓国で1月に実施されているWinter Waterbird Censusによると、近年のトモエガモ越冬数は毎年30-40万羽で安定しています(図4)。そうすると韓国の越冬群が日本へ分散してきたのではなく、トモエガモの総数が増えたために日本の越冬数が増えてきたと考えた方がよさそうです。トモエガモは数千から数万羽が一カ所に集まるので、その食欲を満たすには十分な餌場が必要になります。発信機を使った追跡などで夜行性のトモエガモの採食環境を明らかにして、そうした場所を保全していくことが必要だと思います。

図4. 韓国で1月に実施されている全国調査でカウントされたトモエガモの個体数変化。

[※]データの出典
モニタリングサイト1000:片野鴨池、佐潟、小野湖、西池、朝日池、下池
渡り鳥飛来状況調査:伊豆沼、下池、琵琶湖
日本野鳥の会長崎県支部:諌早湾
長島充:印旛沼
ホシザキグリーン財団:宍道湖
漆谷光名:江の川

参考文献
Carboneras, C. and G. M. Kirwan. (2020) Baikal Teal (Sibirionetta formosa), version 1.0. In Birds of the World (J. del Hoyo, A. Elliott, J. Sargatal, D. A. Christie, and E. de Juana, Editors). Cornell Lab of Ornithology, Ithaca, NY, USA. https://doi.org/10.2173/bow.baitea.01

(2022/11/19追記)鴨池観察館のトモエガモ全国調査が始まりました。詳しくはこちらのWebサイトをご覧ください