バードリサーチニュース

研究誌新着論文:森林性鳥類のさえずり時期に気温や降水量が与える影響

バードリサーチニュース 2022年8月: 1 【研究誌】
著者:植田睦之

 気候変動が鳥の繁殖時期に与える影響ついては世界的に注目され,研究が行なわれています。バードリサーチでも季節前線ウォッチやICレコーダやライブ音配信を使ったさえずり時期の調査をしてきました。今回Bird Research誌に掲載されたのはICレコーダの録音の結果を使って,夏鳥のさえずり時期と気象条件についてまとめた研究です。


植田睦之・堀田昌伸 (2022) 森林性鳥類のさえずり時期に気温や降水量が与える影響.Bird Research 18: A31-A37.

論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.18.A63


 2009年より2021年まで,モニタリングサイト1000のコアサイトのうち比較的寒冷な場所に位置する北海道の足寄,雨龍,苫小牧,そして長野県のカヤの平にICレコーダを設置して,早朝の鳥の声を録音しました。これらの場所の普通種で,設置後にさえずりが活発になっていたヤブサメ,センダイムシクイ,コルリ,キビタキ,クロジについてさえずりが活発になる時期と気温や降水量との関係を解析しました。
 いずれの種もさえずりが活発になる時期に影響する要素として5月の平均気温が選択され,さえずりが活発になる直近の気温の影響が強そうだということがわかりました。ただヤブサメについては,4月の降水量がさえずりの活発になる時期に強く影響していました。海外の研究では,雨が多いと繁殖が早くなると言われていたのですが,ヤブサメは逆で,雨が多いと遅くなりました。なぜなのかはわかりませんが,4月の降水はこれらの調査地では雪になることも多く,また雨の多い曇りがちな年は日射も少なく融雪がすすまない可能性があり,そのことが関係しているのかもしれません。ヤブサメは地上近くの藪で活動するので,積雪の影響が強いと考えられるからです。積雪量はアメダスでは入手することができず,解析することができなかったのですが,クロジなどその他の鳥にも影響しそうな要素なので,インターバルカメラなどを使って積雪のモニタリングすることも重要かもしれないですね。

さえずりが活発になった時期と5月の平均気温との関係