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森の鳥のさえずりの種間差・年変動・時刻変動 ~聞き取り調査から見るモニ1000の調査方法~

バードリサーチニュース 2022年7月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之・黒沢令子

モニタリングサイト1000の陸生鳥類調査の現地調査では「繁殖期は早朝に調査を行なうこと」「調査を間隔をあけて2日に分けて行なうこと」をお願いしています。「早朝に調査地に行くのは大変」「2日もなかなか日程を確保できない」と言われることも多いのですが,経験的に良いデータを取るには必要なことと考え,こういう調査設計にしました。
 経験的な基準は得てして正しいことが多いのですが,やはり何か根拠資料がないと説得力はないですよね。2011年から行なっている「森の鳥の聞き取り調査」の結果から,それを裏付けられるような情報が集まってきたので,ご紹介したいと思います。

森の鳥の聞き取り調査

 この調査は,東京大学が中心になって進めているCyberforestで配信している森の音のライブ配信を利用して,早朝の森の鳥の声の聞き取りをしています。北から北海道富良野,長野県志賀高原,埼玉県秩父演習林,山梨県山中湖の4地点について,日の出前後の時間帯に順番に聞き取りをしています。詳細はこちらをご覧ください。

種により違うさえずり時期

さえずるコルリ(内田博)

 さえずり時期は種によって大きく異なります。志賀高原の代表的な鳥としてルリビタキ,ウグイス,コガラ,クロジ,カッコウ,メボソムシクイの2022年のさえずり頻度を見てみます。調査を開始した4月からよく鳴いていたルリビタキは5月下旬から6月上旬には,育雛期で忙しいのか,あまり鳴かなくなりましたが,それ以外はほぼずっとよく鳴いていました。ウグイスも4月中旬の渡来後はほぼ鳴き続けていました。それに対して,コガラは早い時期にはよくさえずるものの,5月中旬以降はあまり鳴かなくなり,クロジは二山形で,5月中下旬にほとんど鳴かない時期がありました。カッコウやメボソムシクイは遅くなってから渡来し,活発にさえずるようになりました。
 秩父でも,5月いっぱいまではずっと鳴いているヒガラ,早い時期にさえずるゴジュウカラ,一時だけ活発にさえずるコルリ(他地域では,こんなに一時期ということはないので,シカの影響で密度が低いからと思います),5月過ぎから活発になるキビタキとさえずり時期は異なっていました。こうしてみると,1日だけの調査で,これらの鳥すべてをしっかり押さえるのはなかなか難しいことがわかると思います。

図1 長野県志賀高原と埼玉県秩父演習林での代表的な鳥の2022年のさえずり頻度

 

年により違うさえずり時期

 さえずりのピークが種によって異なることを紹介してきましたが,同じ種であっても,年によって状況は異なります。さえずりのピークがはっきりしている志賀高原のクロジ,秩父のコルリについて紹介すると,クロジの今年2022年のピークは4月24日でこれまでで最も早い年でしたが,遅い年のピークは2013年と2021年の5月9日で2週間以上の幅があります(図2)。また秩父のコルリは今年は5月4日がピークでやはりもっとも早くピークを迎えた年でした。そして,遅かったのは2014年の5月16日で,2週間弱の違いがあります。「5月中旬に調査すればピークの時期に調査できるので大丈夫」とか予測して調査するのは簡単ではなく,下手をすると不活発な時期に調査してしまってその種を記録できないかもしれません。間をあけて複数回調査をしたら,どちらかの調査でしっかり記録できる,と割り切って調査するのが現実的です。

図2 志賀高原のクロジと,秩父演習林のコルリのさえずり頻度の年による違い。赤線が2022年の記録。

 

早朝はさえずりが活発

図3 2022年の秩父演習林での日の出からの時刻と平均確認種数の関係

 秩父の記録をもとに,それぞれの時間帯にどれくらいの鳥が記録できたのかをみてみます。平均値で示すと,日の出5分後くらいまでは4.5種前後が記録されていたのが,その後減少し,日の出後30分以降は3種をわずかに上まわる程度で,早朝にもっともよくさえずっていて,徐々にさえずりの活度が落ちていくのがわかります(図3)。早朝に調査すると良いことは,これだけではありません。陽が差して,気温が上がると,エゾハルゼミのいる地域ではセミが鳴きだしてしまい,鳥の声が聞きにくくなってしまうからです。秩父の6月上旬の4時半,7時半,8時の音を聞いてみてください。7時半にはエゾハルゼミが少し鳴きそうになっていて(10秒くらいのジジジジというのがその声です),8時にはもうかなり鳴きはじめていて,遠くの鳥の声の聞き取りが難しくなってきているのがわかると思います。よいデータを取るには,やはり早朝の調査が重要です。

♫4時半のさえずり


♫7時半のさえずり


♫8時のさえずり

 

ピークを外しても早朝ならそれなりに

図4 クロジがあまりさえずらなくなった時期の日の出からの時刻別のさえずり頻度。そんな時期でも日の出頃はよく鳴いているのがわかる。

 種により・年により,さえずりのピークの時期が違うことをお話ししましたが,たとえピークを外してしまったとしても,早朝に調査すれば,それなりに記録することができます。たとえば図1に示した今年の志賀高原のクロジの例で見てみましょう。あまりさえずらなくなってしまった5月下旬の3日間の時間帯別のさえずり頻度の平均を見てみると,日の出前はよく鳴き,そして日の出後しばらくは,それなりには鳴いていたものの,その後は,たまにしか鳴かなくなってしまっているのがわかります(図4)。あまりさえずらない時期でも,早朝ならば,それなりに記録できるのです。

妥当なモニ1000の調査方法

このように,種により,年により,時間によりさえずり頻度が変化するので,その場所の鳥の状況をしっかり把握するためには早朝・複数日の調査が効果的なのがわかったと思います。もちろん可能な限り多くの日数調査した方が良いデータが取れます。短期の調査なら,頑張ってたくさん調査すべきなのですが,長期のモニタリングは,長距離走のようなものなので,あまり頑張るとそれ以上走れなく(続けられなく)なってしまいます。現在のモニ1000の調査方法は,良いデータをとることと労力のバランスを考えると,悪くない方法だと思います。すでに植田ほか(2011,2019,2022)など,様々な成果が上がってきていますが,今後も継続して,さらに成果を上げていきたいと思っています。今年も,参加してくれる人を増やそうと,オンラインの調査研修会(来年はぜひ,対面で実施したいものです)を秋か冬に開催予定です。日程などは決まり次第ホームページやSNSなどで発信していきますが,直接情報が欲しい方は,植田あるいはBR事務局までご連絡ください。


引用文献
植田睦之・福井晶子・山浦悠一・山本裕(2011)全国的な生態観測調査「モニタリングサイト1000」で見えてきた日本の森林性鳥類の分布状況.日本鳥学会誌 60: 19-34.
植田睦之・葉山政治・串田卓弥(2019)ニホンジカの下層植生摂食の影響が宿主を通して托卵鳥へ.Bird Research 15: S11-S16.
植田睦之・山浦悠一・大澤剛士・葉山政治(2022)2 種類の全国調査にもとづく繁殖期の森林性鳥類の分布と年平均気温.Bird Research 18: A51-A61.

 

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