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研究誌新着論文:繁殖期の森林性鳥類の分布と気温

バードリサーチニュース 2022年6月: 5 【研究誌】
著者:植田睦之

 全国鳥類繁殖分布調査では,標高の高い寒冷な場所に分布する鳥が減っていることなどが見えてきています。では,温暖な場所に分布する鳥はどうなのでしょうか? こうしたことを解析していくためには,各種鳥類の分布域の気温について知ることが重要です。欧米では種ごとに分布域の地理的中心を算出し,その場所の気温をもちいて気候変動が与える種や鳥類群集への影響の解析が進められています。
 そこで,全国鳥類繁殖分布調査の結果とモニタリングサイト1000陸生鳥類調査の結果を使ってそれを示してみました。


植田睦之・山浦悠一・大澤剛士・葉山政治 (2022) 2種類の全国調査にもとづく繁殖期の森林性鳥類の分布と年平均気温.Bird Research 18: A51-A61.

論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.18.A51

 

全国鳥類繁殖分布調査でもモニ1000でも類似の値が得られた

 

図1 モニタリングサイト1000と全国鳥類繁殖分布調査で得られた種の気温指数の関係.赤線より上の点が多く,モニ1000の方が指数の値が高い値になっているのがわかる

 調査地の気温と各種鳥類の生息状況をもとに,各種鳥類の分布の中心の温度(種の気温指数)を集計すると,両調査の値は似た値を示しました。2つの違う調査で得られた値がほぼ同じということは,得られた「気温指数」は信頼できる値だと言えそうです。また,ほぼ同じ値なのですが,モニタリングサイト1000の値の方がやや高温でした(図1)。モニタリングサイト1000の調査地は少し地理的に偏りがあって,特に繁殖期では全般に鳥が多いことが知られている北の調査地(植田ほか 2011植田・植村 2022)が少ないです。そのため,南の調査地の記録に引っ張られて,やや高温になった可能性が高そうです。したがって全国鳥類繁殖分布調査の値の方がより実際に近い値と思われます。

 

 

個体数を考慮した方が良い値に

 種の気温指数の計算方法には,生息の有無で計算する方法と,個体数も考慮して計算する方法があります。分布の中心が日本にある種については,どちらで計算してもそれほどかわらないのですが,北や南に偏っていて主要な分布域が国外になってしまっている種は,今回の調査ではそれを把握できていないので,生息の有無だと,その偏りが顕著に出てしまうことがわかりました(図2)。それを考えると,個体数を考慮した方が良い値が得られるようです。
 今後はこの値を使って,どのような気温指数をもつ鳥が増加あるいは減しているのか,などについて検討していきたいと思います。

図2 分布が温暖な地域に偏っているメジロ,中央にあるキビタキ,寒冷な地域に偏っているセンダイムシクイの全国繁殖分布調査における平均気温と記録個体数の関係.上部の帯グラフは,データの中央50%の範囲と中央値(黒)を示した.上が個体数を考慮したもの,下が考慮していないもの.上の個体数を考慮したものの方が,メジロやセンダイムシクイでも中央値が個体数の多い分布の中心を捉えることができているのがわかる。なお,メジロが平均気温20度以上で個体数が多いのは,島で密度が高いことも影響している。

 

今後の気候変動のモニタリングに適した種

 今後の気候変動における注目種を温暖な場所,寒冷な場所に偏って分布していること,放鳥や逸出地点の影響をうける外来鳥など気温以外の影響を強く受けていない種であることなどをもとに検討しました。その結果,温暖な地域に偏っている種としては,ヤマガラ,ヒヨドリ,メジロが,寒冷な地域に偏っている種としてはメボソムシクイとウソなどがあげられました。実際,ヤマガラやメジロが高標高域で増加していることが示されており(植田 2022),今後,これらの種の分布や個体数の変化に注目していきたいと思います。

図3 左から温暖な場所に偏って分布するヤマガラ,ヒヨドリ,メジロ,寒冷な場所に偏って分布するメボソムシクイ,ウソ(撮影:三木敏史)。

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