バードリサーチニュース

研究誌新着論文:関東南部でカラーリングを装着したカワウの観察記録

バードリサーチニュース 2022年6月: 4 【研究誌】
著者:植田睦之

 バードリサーチでは2004年の設立当初からカワウの調査と保護管理をしていますが,加藤や高木はそれ以前からカワウにかかわっています。たとえばカワウへのカラーリングの装着は1998年から行なっており,その成果が今回,論文にまとまりました。


福田道雄・加藤七枝 (2022) 関東南部でカラーリングを装着したカワウの観察記録.Bird Research 18: A39-A49.

論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.18.A39

 

カラーリングのついたカワウ(撮影:箕輪義隆)

 1998年から2018年までに,たくさんの方の協力のもと,東京湾沿岸の4か所のコロニーで6,807個体(そのほとんどが巣内ビナ)にカラーリングをつけ,その後の観察情報を収集しました。

 標識個体の観察記録は,青森県むつ市や琵琶湖でもありましたが,そのほとんどは,コロニーから近い関東南部で観察され,比較的狭い範囲でカワウが行動していることがわかりました。そして,確認されるカワウはリングをつけてすぐの 0歳の記録がほとんどで,1歳の記録は半分以下に減り,その後も漸減していました。この減少は,ある程度は分散も含んでいますが,大きくはカワウの生存数を反映していると考えられるので,カワウの若い個体の死亡率はかなり高そうです。

 また,調査初期と比較し,後期には放鳥数に対する観察記録の報告数が少なくなっていました。これは後期には,報告意欲の低下のためか,観察情報が集まりにくくなったことを示しており,長期の調査での継続的な情報収集の難しさも浮き彫りになりました。バードリサーチのほかのプロジェクトでは,季節前線ウォッチは,初認の喜びをみんなに知らせたいという気持ちがあるためか,情報数は増え続けています。しかし,それ以外のプロジェクトは,カワウの観察記録と同様,開始後数年たつと,情報量が減ってしまう傾向があります。長期調査をどのように興味を維持し,安定した情報収集を続けていくのかは,難しい課題ですね。