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全国的な鳥類相の傾向が明らかに 全国鳥類繫殖分布調査の全コースの調査が完了

バードリサーチニュース 2021年7月: 3 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ/全国鳥類繁殖分布調査事務局)

2,344地点の全国鳥類繁殖分布調査の現地調査がついに完了しました。2014年から準備を開始し,予定していたすべてのコースを調査することができました。8割の調査地でデータがとれたら大成功だと思ってはじめた調査が,全コース完了までたどりつけたのは,参加いただいた2,090人の皆さんのおかげです。ありがとうございました。

南北での種数の違い

図 1 日本の南北方向での各調査地の種数,夏鳥率,個体数の違い。横軸は緯度方向に2度ごとで区切り,グラフの□は,データの25-75%の範囲、□の中の横線は中央値を示す。棒は外れ値を除いたデータの範囲を示し,〇は外れ値を示す。

 全国鳥類繁殖分布調査は,全国を20kmメッシュで区切り,その中に2コースを配置して調査しています。全国に調査コースが均等配置されていますので,この結果をみることで,日本全国の鳥の分布状況を知ることができます。
 南北方向に緯度2度ごとに区切って,その種数等を示したのが,図1です。種数は北に行くほど多くなる傾向にあるのがわかります。5-6月に実施したバードソンでは北海道や東北の人が確認種数上位を占めました。その結果もうなづけますね。
 南で種数が少ないのは,最南端は小笠原や南西諸島など島嶼なので,島の鳥の生息種数が少ない「島の効果」がありますが,九州以北でもやはり北ほど種数は増えるので,それだけでなく,緯度の影響はありそうです。その理由の1つは,種数に大きく影響する森の鳥が南の方にある照葉樹林よりも落葉広葉樹林で多いことがあげられます。春に葉がなく,林床まで陽が差し込むので,落葉樹林は林床植物や,低木なども茂っていて,森の中の階層構造が発達しています。そして,それぞれの階層を利用する,いろいろな鳥が住むことができます。春の展葉とともに,イモムシなどが増えて,繁殖期に食物が増えることも効いていると思います。また,北ほど夏鳥率が高いことからわかるように,北に夏鳥が多いことも種数が多い理由です。冬の厳しい北の地域は,冬を越せる留鳥の個体数が少なく,留鳥との競争が少なくて,夏鳥が生息しやすいのかもしれません。

 個体数については,種数や夏鳥率のような明確な傾向がありませんでした。種数が少なかった南の南西諸島の方が,反対に個体数が多いほどでした。南では冬が温暖で,留鳥の死亡率が低くて個体数が多いことなどで,種数のような傾向がなくなっているのでしょうか?

地域で異なる優占種

北海道を特徴づける鳥,アオジ(写真:三木敏史)

 種数だけでなく,優占種も南北で大きく異なっていました。記録地点数(分布の広さ)と個体数(数の多さ)の2つの面から優占種を示すと,本州・四国・九州の優占種は,分布の広さでいえばウグイスやヒヨドリ,数の多さでいえば,それにスズメが加わってきます。それに対して北海道はウグイスは共通ですが,アオジ,キジバトそしてセンダイムシクイが上位に来るなど大きく異なっているのです。アオジは本州の繁殖個体は減少していて,今回記録できなくなってしまった場所も多くありましたが,北海道では今も昔も最優占種です。そして,前節で説明した北の夏鳥率の高さも関係するのか,センダイムシクイに加え,それに托卵するツツドリ,そして,キビタキと夏鳥の優占種が多いのも特徴です。
 南西諸島の優占種も本州などと異なり,セッカやリュウキュウツバメ,イソヒヨドリと特徴的な鳥が入ります。そして,東日本(中部以北)と西日本(近畿以西)では,大きな違いはありませんが,照葉樹林に多いヤマガラやメジロが西日本で上位に来る点がやや異なっていました。



最終報告は秋に出版予定

 現在,こうした情報や全種の分布図を掲載した最終報告書を作成中です。秋には,発行したいと思っています。現地調査にご協力いただいた皆さんには印刷物をお送りしますし,それ以外の方もどなたでもダウンロードしてご覧いただけるものにする予定です。発行しましたら,またお知らせしますので,お楽しみに。

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