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V字回復を遂げた東京の樹林性の鳥 東京都鳥類繁殖分布調査 1970年代からの変化

バードリサーチニュース 2021年8月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ/全国鳥類繁殖分布調査事務局)

V字回復。いい言葉ですよね。コロナ後の回復を期待して,観光関係の株をだいぶ仕込んでいる(そして,やや含み損を抱えている)ぼくにとってはなおさらです。そして,これは,今年まで実施してきた東京都鳥類繁殖分布調査の結果を特徴づける言葉でもあります。

 東京都鳥類繁殖分布調査は全国鳥類繁殖分布調査よりも詳細な1kmメッシュで繁殖鳥類の分布を調べる調査です。1970年代,1990年代にも現地調査が行なわれた292メッシュで調査を行なうとともに,今回は,できるだけ多くのメッシュの鳥類相を明らかにしようと,それ以外のメッシュでも追加の現地調査を実施しました。調査に参加いただいた皆様,ありがとうございました。追加で行なっている現地調査メッシュについては,まだデータが届いていないメッシュがあるのですが,過去から調査を行ってきたメッシュについては全データがそろったので,今回はその結果を紹介します。

V字回復した樹林性の鳥

 1970年代からの記録も含め,現地調査では130種の鳥が記録されました。このうち冬鳥や旅鳥を除き,10回以上の記録のある84種を対象に1970年代からの記録メッシュ数の増減についてまとめてみました。

 ■ 増加:1970年代から増加が続く種
 ■ 頭打ち:1990年代にかけて増加し,その後,多いままの種
 ■ V字回復: 1970年代から90年代にかけて減少したものの,その後2010年代にかけて増加した種
 ■ 変化なし:明確な変化のない種
 ■ 山型:1970年代から90年代にかけて増加したものの,その後減少した種
 ■ L字:1970年代から90年代にかけて減少し,その後少ないままの種
 ■ 減少:減少し続けている種

図1 東京の繁殖鳥類の1970年代からの増減の傾向

の7区分に区分けすると,V字回復した種が最も多く,増加がそれに続き,頭打ちを含めた増加傾向にある種が59%を占めました(図1)。この増加種の多くが樹林性の種で,ヤマガラ,メジロ,コゲラなど疎林でも生息する種は3期を通して増加しており,キビタキやサンコウチョウなどの夏鳥や,アオバトやヤマドリ,大型キツツキなどしっかりした森林に生息する留鳥などはV字回復していました。

 また,魚食性の種も増加傾向にあり,草地/湿地性,裸地性の種は減少傾向にあるものが多いこともわかりました。こうした傾向は全国鳥類繁殖分布調査の結果(鳥類繫殖分布調査会 2020 )とほぼ一致しているのですが,V字回復種が多い点が大きな違いでした。東京は,首都圏だけに森林面積も小さく,開発圧が高いのが特徴です。1970年代から1990年代にかけて丘陵地の林が宅地開発などで消失するなどして,その影響もうけて樹林性の鳥の減少度合いが他地域よりも大きかったと考えられます。また,全国的に2010年代にかけて,山地ですすんだ森林の成熟だけでなく,平地では他地域よりも多く整備されている公園緑地の樹木や街路樹などの成長もあって,1990年代から2010年代にかけての樹林性の鳥の増加も大きかったのかもしれません。こうした東京の特異性が「V字回復種が多い」結果につながったのではないかと思われます。

樹林性の増加と草地の鳥の減少が顕著な平地部

 ここまで種単位の変化についてみてきましたが,次に,鳥類相の変化を見てみました。各メッシュで確認された鳥類を基に「クラスター分析」という手法で,鳥の出現状況の似た場所をグループ化しました。分布の限られている種がグループ化に強く影響してしまうので,そうした影響を除くために,先の解析よりももう少し対象種を絞り,50回以上の記録のある種で,かつ外来鳥を除いた45種の生息情報を基に解析しました。すると,7つの鳥類相に区分することができました。
 それを地図におとしてみると(図2),1970年代は都心部から郊外にかけて,生息種の少ない場所(鳥類相1:黄色,鳥類相2:赤)が広がっていて,郊外から山地帯にかけて,ホオジロやヒバリ,モズなど草地性の鳥がみられるようになり(鳥類相3:オレンジ),山地部の山の鳥類相(6,7:緑系)に変わっていっていたのが,1990年代になると,郊外部ではメジロやコゲラなど疎林にも生息できる樹林性の鳥がみられるようになり(鳥類相4:青),都心部では,生息種が減った場所(黄→赤)も増えました。そして,2010年代は,メジロやコゲラがみられる場所はさらに都心部へと広がり,郊外では,より樹林性の強いアオゲラやヤマガラなどがみられる場所(鳥類相5:水色)が広がってきたことがわかりました。

図2 1970年代から2010年代にかけての鳥類相の変化。〇が1970年代から現地調査が続けられた1kmメッシュを示す。


 2つの結果をまとめると,東京では都心部から郊外にかけての平地部で大きな変化があり,1970年代から1990年代にかけて空き地や農地が住宅地にかわったり,農作物が麦から野菜にかわったりすることで,草地性,裸地性の種が減少したのに対して,緑地や街路樹の木が生長することで,郊外から徐々に樹林性の鳥が分布を拡大してきたのだと思われます。そして,山地帯では鳥類相レベルの大きな変化はないものの,樹林性の鳥のV字回復が進んでいるようです。こうした傾向は全国的な傾向とも一致しています。ただ,開発圧の激しい東京ではより大きな変化となっていて,前述した樹林性の鳥だけでなく,草原の鳥でも全国ではやや減少している程度のホオジロが東京では急減していました。
 コゲラが市街地で見られるようになったのも,他地域に先駆けて東京ではじまったように,開発の先進地? の東京の変化は,今後,全国でも見られるかもしれません。東京以外の他地域の皆さんも,今後こうした変化が起きないか,気に留めておいてください。
 また,今回の調査では,ここで示したメッシュ以外にも面的にたくさんのデータを得ることができています。データがそろいましたら,その集計結果もご報告しますので,楽しみにしていてください。



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