バードリサーチニュース

ムクドリのねぐら調査 これまでの成果

バードリサーチニュース 2021年3月: 2 【参加型調査】
著者:植村慎吾

10月から始めたムクドリのねぐら調査で、全国のねぐら位置やねぐら被害が起きる時期、環境などこれまでにわかってきたことをご紹介します!

全国のねぐら分布

10月からこれまでに寄せられたムクドリのねぐら位置は110ヵ所になりました!関東平野や大阪平野から多くのねぐらの情報が寄せられ、その他にも南は沖縄から北は福島まで各地から情報を寄せていただきました(図1)。沖縄島のねぐらでは、ホシムクドリと一緒にマングローブ林にねぐら入りしている様子が報告されました(図2)。数年前までは札幌の大通公園でムクドリのねぐらが問題になっていたので、福島よりも北でもムクドリの集団ねぐらは形成されているはずですが、この調査ではこれまでに福島より北のねぐら情報は把握できていません。もしご情報をお持ちの方がおられたらぜひお教え下さい!


図1. これまでに集まったムクドリのねぐら情報。黄色い丸がねぐらの位置を示す

図2. 沖縄島でマングローブ林にねぐら入りするホシムクドリ(左上の3羽)とムクドリ(宮城国太郎氏 撮影)

 

ねぐら被害が起きる時期

ムクドリのねぐら調査は、主に都市部で問題になるムクドリのねぐらによる糞害や騒音被害の解決策を探ることが目的です。そこで、会員の皆様を始めとする市民の方々から寄せられるねぐら情報の他に、埼玉県、東京都、大阪府などの64市町村にねぐらによる被害の状況についてのアンケートをとりました。アンケートのうち、ねぐらによる糞害や騒音害の苦情が寄せられた時期を伺った項目では、市町村に寄せられる苦情は夏から秋にかけて多く,冬から春にかけてはほとんど寄せられていないことがわかりました(図3)。

ムクドリは繁殖期にはつがいを形成して巣や縄張りで個別にねぐらをとります。6月ごろになると、巣立って親離れした若鳥が集団ねぐらをつくります。その後秋にかけて繁殖が終わった成鳥も一緒になって駅前などに大規模なねぐらを形成するので、各地で被害が起きて問題にされているようです(名古屋での例:橋本ら(2020)都市鳥ニュース No.29, pp2-5)。


図3. 市町村に寄せられたムクドリのねぐらにおける糞害や騒音被害の件数の月ごとの変化

 

ムクドリはどの樹種がお好き?

ムクドリがねぐらをとる場所は、ねぐら樹木の落葉や剪定など様々な要因で、季節によって変化します。特にねぐらに対する苦情が多くなる6月から11月にかけて、ムクドリがどの樹木をねぐらとして好むのかを解析しました。全国の街路樹の樹種別本数についてのデータを「わが国の街路樹 Ⅷ・本編(国総研資料 第1050号)」より入手し、全国にある街路樹の樹種別本数と比べて、6月から11月にかけてねぐらとして利用された樹種が特定の樹種に偏っているかどうかを検討しました。この解析では、全国での傾向と、特に多くのねぐら情報が集まった関東平野に限っての傾向を調べてみました。

その結果、全国でも関東平野でもムクドリはケヤキをねぐらとして好むということがわかりました(図4、5)。反対に、サクラ類はねぐらが形成されやすい傾向がある駅前などにも多く植樹されているにも関わらず、これまでのところねぐらとして使用されたという報告が全くありませんでした。

関西地方などでも同様の傾向がありましたが、まだデータが少なく傾向がわからない地域も多いので、今後もっと多くの情報が全国から集まれば、地域による傾向の違いなども分かってくるかもしれません。

 

 

 

 

図4. 全国の街路樹の樹種別本数の割合から算出した期待値(点線で表した棒グラフ)と、6月から11月に実際に観察されたねぐらの樹木(緑色の棒グラフ)。縦軸は地点数。(黄)は期待値と比べて有意に多く使用されていた樹木、(青)は期待値と比べて有意に使用が少なかった樹木を表す(chi-square test, p < 0.05, Bonferroni補正)

 

 

 

 

 

図5. 関東平野の街路樹の樹種別本数の割合から算出した期待値(点線で表した棒グラフ)と、6月から11月に実際に観察されたねぐら樹木(緑色の棒グラフ)。縦軸は地点数。(黄)は期待値と比べて有意に多く使用されていた樹木、(青)は期待値と比べて有意に使用が少なかった樹木を表す(chi-square test, p < 0.05, Bonferroni補正)

 

その他に、ムクドリが好きなねぐら樹木の特徴は?

ムクドリのねぐら調査では、どんな樹木がねぐらとして使われるかを知るため、樹種以外の特徴についても、ねぐらとして使用されている木と使用されていない木についてそれぞれ例えば図6のようにいくつもの計測を行いました。詳細な解析は途中ですが、ねぐらとして特に多く使用されているケヤキについては、隣の木の枝葉との距離が空いている木の方が、隣り合った樹木と枝葉が近い木よりもねぐらとして利用されやすそうなことがわかってきました。例えば千葉県松戸市のねぐら周辺にあるケヤキについて、ねぐらとして利用されている木とそうでない木で隣合う木との枝葉の距離を比較すると図7のようになります。いまのところ、ケヤキ以外の木でも同じような傾向がありそうです。

 

図6. 矢印で示した部分が樹木の計測項目(の一部)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図7. 隣の木の枝葉との距離

この結果は、他の計測値も使用した解析を行って慎重に検討する必要があります。しかし、ムクドリが周囲に空間がある樹木をねぐらとして好むとしたら、現在多く行われているねぐら樹木の強剪定(図8)は、追い払いの機能を持続させるためのよい方法とは言えないかもしれません。樹木の強剪定は、ムクドリがとまる枝葉をばっさり切り落としてとまる場所をなくすことでムクドリを追い払う方法ですが、ある程度時間が経ってまた枝葉が茂ってくるとそこは隣の木の枝葉との距離が適度に空いていてムクドリが好むねぐら環境を作ってしまうかもしれません。反対に、これまでの調査では、図9のように隣の木と枝葉が連なっている街路樹でムクドリがねぐらを形成していた例はほとんどありません。

図8. 強剪定されたケヤキの木

図9. 強剪定されておらず、樹冠部分の枝葉が連なっているケヤキの木

今後の解析でもケヤキや隣の木と間がある木を好む結果がかわらないとしたら、なぜムクドリはケヤキや隣の木の枝葉との距離が空いている樹木を好むのでしょうか。ケヤキは盆栽でも箒作りといって枝が細かくほぐれた樹形があるように、他の樹種と比べて細かい枝分かれが特徴的な樹種です。そういう木では留まる場所が多かったり、風をしのぎやすかったりするのでしょうか。木と木の間が空いている木を好むのは、周囲からくる天敵を見つけやすいのかなと思えますが、冬に増える竹林のねぐらでは竹同士で枝葉が密集していて、周りの様子はあまり見えなそうにも思います。

ムクドリ調査では、今後も情報収集と解析を続けて、ムクドリと人との共存を目指すよりよい解決策の立案を目指します。過去の情報も大募集中ですので、情報をお持ちの方はぜひお寄せ下さい!

ムクドリのねぐら調査プロジェクト
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/mukudoriNegura/indexNegura.html

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