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研究誌新着論文:全国の傷病鳥の保護数のデータ

バードリサーチニュース 2021年 3月: 1 【研究誌】
著者:植田睦之

モニタリングサイト1000,全国鳥類繁殖分布調査そして季節前線ウォッチ。バードリサーチではいくつものプロジェクトで積極的に鳥の生息状況や生物季節のモニタリングをしています。鳥の観察を楽しみつつ,自分たちでとったデータがモニタリングにつながる。こうした調査が王道ですが,鳥の調査を目的としていないデータを流用して,モニタリングができたら,それはそれで素敵だと思いませんか?
 そんなデータに傷病鳥保護のデータがあります。すでに Kawakami & Higuchi (2003) が動物園で保護された鳥のデータを使って,オオタカやサシバ,ミゾゴイの個体数変化について検討していますが,それより大規模な傷病鳥データに環境省の鳥獣関係統計があります。この資料はエクセルファイルが公開されているのですが,冊子体を印刷用するためにレイアウトしたファイルをそのまま公開したものなので,データとしては,使いにくいものでした。せっかくのデータがこれではもったいないと,環境省の許可を得て使いやすいデータに加工して公開しました。

植田睦之 (2021) 「鳥獣関係統計」で収集された全国の傷病鳥の保護数のデータ. Bird Research 17: R1-R3.

論文の閲覧:http://doi.org/10.11211/birdresearch.17.R1

 

 このデータのうち,猛禽類のデータを集計してみると,たとえばオオタカの傷病保護数は,2000年代はじめまでは増加し,その後減少に転じていました。これは,アンケート調査で推測されたオオタカの個体数の推移とほぼ一致しています(環境省野生生物課 2014)。また,個体数が減少していると言われているサシバ(野中ほか 2012)は傷病数も減少傾向に,全国鳥類繁殖分布調査で増加が示されたミサゴ(バードリサーチ 2020)はやはり増加しています。

減少傾向にあるサシバ,増加傾向にあるミサゴ,増加して減少に転じたオオタカは,傷病鳥数でも同様の傾向がみられた


 このように傷病保護数は鳥の動向を知るための貴重なデータになりそうなのですが,問題点もあります。傷病鳥を役所が受け付けるかどうかの基準が変ってしまうと(たとえば有害駆除しているような種は受け付けなくなるとか),実際に傷病事例は減っていなくても,統計上は減っていることになってしまうことです。こういう基準は「鳥獣保護管理事業計画」に示されているそうなので,そうした資料もしっかり見るとか,こういうことが生じそうな種は集計しないとか,誤った評価をしてしまわないための工夫が必要です。それでも貴重な情報源ですので,興味のある方は見てみて下さい。

引用文献
バードリサーチ(編) (2020) 全国鳥類繁殖分布調査 2016-2020.全国鳥類繁殖分布調査会,府中市.
Kawakami K & Higuchi H (2003) Population Trend Estimation of Three Threatened Bird Species in Japanese Rural Forests. J Yamashina Inst Ornithol 35: 19-29.
環境省野生生物課 (2014) 平成26 年度オオタカに関する情報整理等委託業務報告書.環境省野生生物課, 東京.
野中純・植田睦之・東淳樹・大畑孝二 (2012) アンケート調査によるサシバの生息状況(2005–2007). Strix 28: 25–36.

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