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都市鳥でもやはり郊外の方が好適? 東京都鳥類繁殖分布調査に基づく鳥の密度分布

バードリサーチニュース 2021年3月: 3 【参加型調査】
著者:植田睦之

全国鳥類繁殖分布調査から1年遅れてスタートした東京都鳥類繁殖分布調査は来たる繁殖期が調査最終年です。この調査の特徴は,全国鳥類繁殖分布調査の20kmメッシュに対して,1kmメッシュと非常に細かいスケールで調査していることと,全国では1回しか調査を行なわないのに対して2回の調査を行なうことで,個体数についてもより信頼性の高いデータが得られていることです。その特徴を活かすことで,これまで,びっしりと分布することくらいしかわからなかったヒヨドリやキジバトといった「普通種」の分布が,都心部と郊外では生息密度に大きく違いがあることや,スズメの意外な分布などが見えてきました。
 まだ新型コロナ感染症の行方は不透明な状況ではありますが,密を避けて安全にできる調査ですので,東京にお住まいの方は,最終年の調査に,ぜひご参加ください。

詳細な鳥の状況把握を目指して

 東京都鳥類繁殖分布調査は全国と同様に1970年代と1990年代に続いて3回目の調査が現在行なわれています。1990年代までの調査では,東京都内に均等配置されたコースを現地調査するとともに,それ以外のメッシュではアンケート情報を収集することで分布の把握を目指してきました。
 今回の調査では,さらに詳細な鳥の状況把握をしようと,過去はアンケートのみだったメッシュでも可能な限り現地調査を実施して,面的な鳥の密度分布の把握を目指すという欲張りな試みを行なっています。これまでに165人の方にご協力をいただき,869メッシュのデータを得ることができました。調査に参加いただいた皆様ありがとうございました。2回行なった調査のうちの多い方の個体数をそのメッシュの生息数として,各種鳥類の密度分布図をつくってみました。

やはり都心で少ない樹木依存の鳥

 「ヒヨドリは山の鳥だったんだよね」。以前はよく聞いた話ですが,山から街へと分布が拡がってきたのは1970年代。もう街の鳥としてすっかり定着しました。キジバトが街に出てきたのはさらに前で,もう山よりも街の鳥のイメージです。これらの鳥の分布図を見ると,都心までベッタリと生息していて,まさに街の鳥です。しかし生息密度でみると別の姿が見えてきます。郊外から都心部へ向けて生息密度が下がっていくのです。ヒヨドリもキジバトも都市の鳥になったとは言え,やはり生息のために樹木を必要としていて,街路樹や公園などにしか樹木のない都心部では生息密度が下がってしまうのかもしれません。

図1 東京都の土地利用状況とヒヨドリとキジバトの密度分布。右側の都市部へ向かって色が薄くなっていて生息密度が下がっていくのがわかる。


開けた場所の鳥もやはり都心部は少ない

 では,開けた場所に生息する鳥たちはどうなのでしょう。ツバメ,ムクドリの分布を見てもやはり都心部では,生息密度が低いのがわかります。ただ,東側の千葉県との県境付近まで行くと,再び生息密度が高くなっている点がヒヨドリやキジバトと異なります。東側には江戸川や荒川,墨田川などが流れていて河川敷など開けた場所があります。そのような場所がこれらの鳥の好適な生息地になっているのでしょう。

図2 ツバメとムクドリの密度分布。やはり都心部で生息密度が低いが,東側は再び密度が高くなっているのがわかる。ツバメは都心部で密度の高くなっている場所があるが、そこは明治神宮や新宿御苑など大きな緑地が集中している地域。


都心部に多いスズメ

 そんな中で特異な分布をしていたのがスズメです。都心部の方が生息密度が高いのです。1990年代と比べて都心部でスズメが増加していることはすでに2017年のニュースレターで報告しましたが,スズメは農地に多く(植田 2020),繁殖成績も農地の多いところで高いことがわかっています(三上ほか 2011 )。都心部で増えているといっても「昔少なかったのが多くなった」程度で,個体数は都心の方が少ないのだと思っていました。けれども都心の方が生息数も多いことがわかりました。全国的な傾向とは違うことが東京では起きているのでしょうか? 人間の活動がスズメを変に誘引してしまって,個体数は多いけれども実は繁殖がうまくいっていないなんてことが起きていたりはしないでしょうか? スズメが都心部でどのような場所で採食して,どのような場所で営巣しているのかがわかれば,原因等がみえてくると思うので,そうした調査もしていきたいと思っています。

図3 スズメの密度分布。スズメはほかの種と異なり都心部の密度が高い。

 

最終年度の調査にご協力ください

 これまでに都市部と郊外の分布の違いなどが見えてきましたが,都心部や多摩西部にはまだまだ調査のできたメッシュが少ないのが現状です。たとえば都心部でも大規模な緑地の集中している場所はあって,そうした場所ではツバメの密度が高そうにも見えます。都心部の土地利用と鳥の生息密度との関係をはっきりさせるためにもデータをもっと増やしたいと思っています。

 まだ新型コロナ感染症の行方は不透明な状況ではありますが,密を避けて安全にできる調査ですので,東京にお住まいの方は,最終年の調査に,ぜひご参加ください。
 調査がまだできていないメッシュは,以下のページから見ることができますので,ご自宅のそばに未調査メッシュがありましたらぜひ登録ください。ホームページから調査の登録をしていただけます。ご不安な場合はbbs@bird-research.jpにメールいただけたら、詳細案内いたしますので、よろしくお願いいたします。

調査方法のマニュアル  調査地確認のページ

 

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