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造成干潟の現状とこれから モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査交流会・広島の報告

バードリサーチニュース2018年1月: 3 【活動報告】
著者:守屋年史

写真1.交流会の様子

2017年12月10日にモニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査の交流会を広島市内で開催しました。 第14回目となる本交流会ですが中国地方では初めての開催となります。講演は9題、ポスターは5題あり、参加者約30名と交流できて有意義でした。

広島県には自然環境に配慮した造成干潟の先駆的な例があり、それが調査サイトにもなっている八幡川河口です。今回のテーマとして造成干潟について注目してもらいたいと考えていました。交流会に先立って、当日午前中に八幡川河口の調査担当をされている日比野さんに現地を案内していただきました。 私は7年ほど前に訪れたことがあるのですが、そのときは満潮でほとんど干潟は観察されませんでした。今回はちょうど干潟が出ていてその干潟の形状を確認することが出来ました。満潮になると水深が深くなるためか、カモ類が多く、シギ・チドリ類は時期もあってシロチドリとダイゼンを数羽確認したのみでした。隣接する埋立地は造成が始まって乾燥してきており、シギ・チドリ類の生息地としての利用としては厳しそうな印象を受けました。

八幡川河口干潟の代替地としての造成干潟

図2.八幡川河口の造成干潟

交流会では、モニタリングサイト1000の事業とシギ・チドリ調査の概要について、生物多様性センターの宮下大樹さんと私からお話させていただいた後、広島県の日比野政彦さんと山口県の梶畑哲二さんに各地の干潟の状況を話していただきました。私の地元岡山県もそうなのですが、広島県も自然災害が少なく温暖な気候から人が集まり、浅海域の埋め立てや干拓が早くから始まりました。そのため、現在、県内に大規模な干潟や水辺は少なく、日比野さんたちは残された県内の干潟を継続して観察し、その価値を伝えていく活動をされているそうです。

その干潟の一つである八幡川河口は、昭和30年代からカモやシギ・チドリが飛来する干潟として知られていたそうです。しかし、1983年に広島県による埋立計画が持ち上がりました。その際に水鳥が生息できる環境を作る提言が採用され、1987年に水鳥のための人工干潟が代替地として造成されました。当時、自然環境に配慮してというのは全国的にもかなり珍しいことだったようです。水鳥(主にカモ類)の飛来数は造成干潟完成後に再び増加しましたが、徐々に干潟が沈下し、それに伴って水鳥の飛来数も減少していきました。その後、修復工事により造成干潟は今も維持されています。ただし、シギ・チドリ類は河口干潟と埋立地内の水面で観察され、常態的に利用できる環境とはまだいえないという日比野さんのお話は、現地を見学した印象と一致しました。

造成干潟の自律安定

次に「再生された干潟における生態系の発達と自律安定」というタイトルで港湾空港技術研究所の桑江朝比呂さんにお話をしていただきました。干潟の造成・創生の歴史は40年足らずで、昔は自然生態系のための改変や創出は理解があまり得られなかったそうです。しかし、1997年に諫早堤防のショッキングな映像から、干潟の重要性が一般に認識されだし、1999年には藤前干潟の埋め立てが中止され、2002年に自然再生推進法が制定されます。桑江さんは再生される干潟に何が求められるかといった議論を通して、各地の造成干潟に関する地形や土砂環境の知見を集積しています。例えば、粗くて有機物が少ないとハマグリやアサリに適し、細かくて有機物が多いとゴカイやトビハゼなどに適するなど使用する土砂の粒径が生息する生物種を決めていること、また地盤高も干潟の環境には重要で、隆起すると乾燥し生物量が減少するそうです、生態系の維持が自律的に安定するには干潟の地形や土砂環境を決める立地条件が重要とのことでした。

シギ・チドリ類の渡来地としては、泥質の干潟もほしいところですが、泥質は細かい土砂を安定して固定するのが難しく、水産価値の高いアサリやハマグリの要望が高いため造成時に需要が少ないといったこともあるようです。しかしこれからは生物多様性にも配慮した泥質干潟が必要ですので、技術的検討からシギ・チドリ類に理想的な造成干潟についても話していただきました(図1)。

図1.シギ・チドリにとって理想的な干潟形状(桑江・三好,港空研報告 2012)

干潟を自律安定的に保つポイントとして以下のような項目があげられています。

  • ラグーン(潟湖)型の形状  
  • 複雑ななぎさ線  
  • 緩い底面勾配と,広い潮間帯  
  • 上部が泥質でbiofilm,中下部が砂泥質でゴカイ などの餌がある
  • 干潮時の水深が30 cm以下  
  • 陸からの栄養を含む淡水流入  
  • 開けた視界

これから造成干潟公園などの計画や提案に関わる方に、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

まだまだに見えた八幡川河口についてもモニタリングを継続しており、順応的な管理のもと改修が行われています。沖に向けての三筋の盛土を作り汀線を伸ばし、それがワンドの様になってアオサが滞留するようになっているそうで、カモ類は増加傾向にあるようです。ヒドリガモなどが増えていそうですね。またシギ・チドリ類もアオサについたヨコエビなどを食べに飛来しそうです。

さらに防波堤、護岸、岸壁及び桟橋の省令・告示に【環境の保全を図る】ことが追加されたことにより、今後さらに積極的に港湾土木と生物多様性保全との連携も期待されるとのことでした。

干潟の価値を評価する

また、ポスター発表では、「沿岸域における生態系サービスの統合的評価手法(IMCES)の開発」というタイトルで復建調査設計(株)の三戸勇吾さんの発表がありました。造成干潟等の環境再生事業の価値を評価するためのIMCES という新しい手法を用いて、環境の状態や持続可能性の評価と、環境の価値を貨幣換算する経済評価を統合し、環境の状態と経済価値を同時に評価できるというものです。干潟のサービスとして主に評価されてきた食料供給や水質浄化といったサービスの貨幣価値は全サービスに対して大きな割合でなく、種の保全などへの従来の評価が過小評価であった可能性が示され、多様な価値を評価することの重要性が示されたと報告されています。今後ますます干潟の価値が見直される端緒となればいいですね。

シギ・チドリ類にとって生息面積の減少は最も重大な影響を与えます。保護のためには、残された貴重な自然干潟を守りつつ、造成干潟が水鳥にとってよりよく利用できるために整備される未来があっても良いのではないかと考えています。

他にも交流会では、ヘラシギ保全の現状、チドリ目の対捕食者行動の研究成果、調査員の養成やモニタリングの記録の重要性について話題を提供していただきました。また、それぞれ機会を見つけてご報告したいと思います。

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