バードリサーチニュース

関東カワウモニタリング調査  21年の軌跡

バードリサーチニュース2016年2月: 4 【活動報告】
著者:加藤ななえ
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

図1.千葉県小櫃川河口コロニー(2011年)

  「関東カワウモニタリング調査」が2015年12月で終了しました。この調査は、1994年に日本野鳥の会によって始められ、2003年からはバードリサーチが引き継ぎ、繁殖最盛期の3月、夏期の7月、冬期の12月の年3回、関東地方で確認されているすべてのねぐらやコロニーにおいて、カワウの個体数や巣数などをカウントしてきました。この調査は、カワウのねぐら入りの時刻に合わせて夕方暗くなるまで調べなければならないため、一人では、1日に1か所しかおこなうことができません。また、規模が大きいねぐらでは、カワウの帰還してくる方向ごとに人の目が必要になります。ですから、この調査を継続することができたのは、関東各地のたくさんの方々のご協力があったからこそです。このようにして積み重ねてきたデータを元に、この21年間のカワウの生息状況の変化を、取りまとめましたので報告いたします。

調査を始めたきっかけ

 調査を始めた当時、関東地域にはカワウのねぐらや繁殖地(以下、コロニー)は、東京湾や荒川・多摩川水系などに8か所ありました。最も規模が大きかった東京都の浜離宮庭園のねぐらは4000羽から1万羽ほどのカワウが一年を通して利用していました。東京都の公園管理部局は、文化財でもある庭園の鴨場の樹木枯死を食い止めるために、カワウを浜離宮庭園から2㎞ほど離れた無人島の第六台場へ誘致することとしました。この大規模な移住作戦の展開を期に、「関東カワウ調査」が1994年12月から始まったのです。浜離宮庭園からの追い出しと第六台場への誘致のための作業が重ねられた結果、4年後の1998年12月になってカワウは浜離宮庭園から第六台場へと移住し始めました。しかし、人の思惑通りにカワウを第六台場だけに誘致することは難しく、これが、多くのカワウが新しい地域への進出し始めるきっかけのひとつとなったと考えています。

個体数は増加を経て安定に

 1994年12月には、浜離宮庭園を含め8か所のねぐらがあり、9,971羽のカワウがカウントされていました。5年後の1999年12月には29か所のねぐらで14,672羽が、次の5年後にあたる2004年12月には57か所のねぐらで19,761羽が、さらにその次の2009年12月には92か所のねぐらで21,614羽が、そして2014年12月には73か所のねぐらで18,508羽がカウントされました(図2)。

グラフ

図2.カワウの個体数とねぐら箇所数の変化(12月調査)

 カワウの個体数は、1994年からピークであった2009年までに約2.17倍になり、ねぐらの箇所数はやはりピークであった2009年までに11.5倍にまで増えました。その後はどちらも頭打ちになって来ている様子がうかがえます。これらの急増とその後の変化については、環境要因や人による被害対策の影響などが考えられています。今後、各地の背景なども踏まえて考察していく予定です。

1994-2004-2014

図3.ねぐら分布(1994年,2004年,2014年)と           分布の広がりのイメージ

分布は河川沿いに広がった

 カワウの生息数やねぐら箇所数の増加に伴って、カワウの生息地域も広がってきました。図3は、10年ごとの12月調査におけるねぐらとコロニーの分布とその広がりのようすを示しています(図3)。

 生息域の広がりをねぐらが成立していく順番から見ていくと、東京湾に河口がある荒川や多摩川を上流へ、その後、これらの河川の分水嶺を越える形で相模川や利根川水系に進出しました。そして、それらの河川沿いにそれぞれの上流や下流部へ進出し、湖沼へ、また河口部から海岸沿いに広がっていくようすが分かりました。2004年になると、カワウの生息地域は、山地と一部の地域を除いた関東全域に広がりました。

モニタリングとマネジメント

 カワウは、この半世紀ほどの間に、生息数とその分布が劇的に変化しました。1960年代には全国で3000羽しかいないと推定されるほど、その数を減らしていましたが、その後、水質などの環境の改善に伴って生息数を少しずつ回復してきました。そして、1990年代になると、短期間のうちに爆発的に分布域を回復してきたのです。その勢いは目を見張るほどでした。この急激な回復は、皮肉なことではありますが、アユの遊漁へ被害をもたらしたり樹木を枯らしたりするものとしてカワウが警戒され、各地で熱心に追い払いなどの対策が行われるようになったことと関連しているのではないかと考えています。
 私たちは、この分布拡大の時期に貴重なデータを積み重ねてきたと自負しています。ここで簡単に紹介した生息数とねぐら分布の変化のほかに、季節による生息場所の違いや各ねぐらの成鳥と幼鳥の割合なども調べてきましたので、今後は、これらのデータを使って関東のカワウの生息状況の変化について解析し、人とカワウとの共存を目指したマネジメントの展開に資するような報告をしたいと思っています。多くのボランティアの方々のご協力無くしては、この調査は成り立つことができませんでした。調査に携わっていただいた皆さんに心から感謝申し上げます。

Print Friendly, PDF & Email