バードリサーチニュース

シギ・チドリ類調査交流会の報告

バードリサーチニュース2015年11月: 4 【活動報告】
著者:守屋年史・奴賀俊光

 2015年10月24日に2015年度のモニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査交流会を開催してきました。モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域モニタリング推進事業)とは、日本全国の様々な生態系をモニタリングし、自然環境の質的・量的な変化を把握する取組で、環境省生物多様性センターと全国各地の研究機関、専門家、NPO、ボランティアなどの方々が連携して行っているプロジェクトです。その中でシギ・チドリ類調査は、干潟生態系をモニタリングするために実施されています。全国に調査サイトがあるので、調査員の交流・情報交換、モニタリングサイト1000やシギ・チドリ類調査への理解、認知度アップを目的として、シギ・チドリ類調査交流会が毎年開催されています。今年は、加賀百万石の城下町金沢が会場です。モニタリングサイト1000の話題に加え、北陸地域のシギ・チドリ類について話題提供していただきました(写真1)。

交流会

写真1 交流会の様子

 はじめに、環境省生物多様性センター最上祥成さんから、モニタリングサイト1000が開始して10余年が経ち、多くの方々のご協力のもとで多数のデータが蓄積されてきたこと、その成果として、特定の種の減少や増加の傾向、地球温暖化によると考えられる植物の伸長量の変化、東日本大震災前後での底生生物相の変化等が把握されつつあることが感謝の言葉とともに報告されました。
 次に、バードリサーチの守屋から、最近のシギ・チドリ類の個体数の増減について、多くの種がゆるやかな減少傾向にあること、シロチドリの減少が著しく、保全対策が急務であることなどを報告しました。
 北陸地域のシギ・チドリ類の生息状況の報告として、矢田新平さんから、内陸のシギ・チドリ類についてお話していただきました。石川県では過去にタゲリの繁殖記録があることや、空港内の草地でオオジシギの繁殖の可能性があること、内陸の渡りルートについての興味深い考察などについてお話していただきました。中川富男さんからは、海岸のシギ・チドリ類について、高松海岸周辺でシギ・チドリ類が多いこと、その理由として、波打際に生息するナミノリソコエビ(仮称イシカワナミノリソコエビ)の現存量が多く、重要な餌となっていること等をお話ししていただきました。北陸のシギ・チドリ類の調査サイトは少なく、石川県9サイト、富山県1サイトのみです。しかし、お二人の発表から、石川県では65種ものシギ・チドリ類が確認されていることがわかりました。
 その他、桑原和之さんからは、調査サイトには含まれていないが、草原環境にはオオジシギ、河川環境にはイソシギやイカルチドリが生息・繁殖しており、重要な環境であるというお話や、脇坂英弥さんからは京都でのケリ個体群の繁殖期と非繁殖期の季節的動向についてお話していただきました。バードリサーチの奴賀からは、シギ・チドリ調査員のリクルートについてのバードリサーチの取り組みを発表しました。

写真5 ポスター発表の様子

写真2 ポスター発表の様子

 ポスター発表では、中国の鴨緑江河口干潟のシギ・チドリ飛来状況、河北潟で観察されたヨーロッパムナグロについて、愛知県一色干潟で観察された標識キアシシギについて、シロチドリの現状について、東京湾岸のシギ・チドリについての発表がありました(写真2)。
 参加者数は27名とちょっと少なかったのですが、来年度はもっと参加者数を増やし、モニ1000の取り組みやシギ・チドリ類調査についてもっと認知度をあげられるようにしたいと思っています。

 

 翌日のエクスカーションでは、高松海岸周辺でシギ・チドリ類とナミノリソコエビの観察を行いました。波打際でミユビシギ、ハマシギ、トウネンの群れが採食する様子を観察できました(写真3)。その同じ砂浜の波打際で、中川さんがどんぶり1杯分くらいの砂を採取してふるいにかけると、ナミノリソコエビが高密度で生息していることがわかりました(写真4)。驚きとともにこのヨコエビ類を支えているものは何なのか、大変興味深かったです。この状況は冬でも衰えることがないとのことで、逆になぜもっと多くのシギチドリがいないのだろうか?と疑問にも思いました。石川県は猛禽類が多いとのことで、そのような捕食者に襲われないように夜間に採食し、昼間は護岸で休息するようになったとの話も聞きました。

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写真3 ミユビシギの群

IMGP0094ナミノリソコエビ

写真4 ナミノリソコエビ

 

 

 

 

 

 

 

 石川県の海岸は大部分が砂浜海岸なのですが、現地を訪れると、砂浜の幅が狭い場所もあり(写真5)、砂浜浸食の影響で、徐々に痩せていく砂浜と、えぐられていく砂丘がありました。砂浜が無くなってしまえば、シギ・チドリ類の餌であるナミノリソコエビも生息できなくなり、シギ・チドリ類もどこかへ行ってしまいます。シギ・チドリ類を守るには、やはり、まずは生息環境を保全することが大事です。現地でも海岸環境の保護を呼びかける看板が設置してありました(写真6)。

写真4 狭い砂浜

写真5 狭い砂浜

写真7 海岸にたてられた看板

写真6 海岸環境の保護を呼びかける看板

 

 

 

 

 

 

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