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夏鳥の減少は本当に越冬地のせい? ~ 越冬地での生存率が高いマミジロノビタキ ~

野鳥の不思議解明最前線 No. 124 【野鳥の不思議】
著者:植田睦之
一時激減したものの,最近復活しつつあるサンショウクイ

一時激減したものの,最近復活しつつあるサンショウクイ

 最近はちょっと復活傾向にある種も多いですが,夏鳥が減少していることが心配されています。そして,その原因は越冬地にあるのではないかとよくいわれます。これは日本だけでなく,欧米でも同様に言われています。しかし,越冬地の状況をしっかりと調べた事例は多くありません。
 ヨーロッパで繁殖するマミジロノビタキも減少している夏鳥の1つです。彼らの越冬地はアフリカですが,Blackburnさんたちの研究から,減少の原因は越冬地ではない可能性が高いことがわかってきました。

 この研究はマミジロノビタキの越冬地の西アフリカのナイジェリアで行なわれました。マミジロノビタキは冬もなわばりをつくるそうで(ジョウビタキみたいな感じなのかな?),各個体に足環をつけ,越冬期の生存率,翌年までの生存率,そしてそれぞれのなわばりの環境を調べました。
すると,マミジロノビタキの年間生存率は少なくとも52%はあることがわかりました。それに対して冬の月間生存率は98%と極めて高く,あまり越冬地では死んでいないことがわかりました。また,その生存率は越冬なわばりの環境や質によって明確な違いはないこともわかりました。このことは,マミジロノビタキの主要な減少要因が越冬地にはないことを示唆していて,原因は渡りの経路や繁殖地にあると考えられます。ただ,現在利用されている越冬地では問題がなさそうでも,越冬地全体の面積が減っていたりしていて,それがマミジロノビタキの数を制限しているかもしれないので,「越冬地には問題がない」とまでは言い切れないと思います。

 日本の夏鳥はどうなのでしょうか? 日本で繁殖する夏鳥は,越冬地すらわかっていないので,よく言われるような熱帯雨林の伐採が減少の原因かどうかはわかりません。マミジロノビタキの事例のように越冬地は問題ないという可能性もあります。近年小鳥にもつけられるような小型の発信機「ジオロケーター」が使えるようになり,ブッポウソウやマミジロ,コムクドリといった日本の夏鳥の一部について越冬地がわかってきました。今後の研究により日本の夏鳥の減少原因についてもわかってくるかもしれませんね。


紹介した論文
Blackburn E & Cresswell W (2016) High within-winter and annual survival rates in a declining Afro-Palaearctic migratory bird suggest that wintering conditions do not limit populations. Ibis 158: 92-105. doi: 10.1111/ibi.12319.