バードリサーチニュース

日本スパルティナ防除ネットワークの学習会に参加してきました。

【参加報告】
著者:守屋年史

題名のスパルティナというのは、Spartina alterniflora Loisel. (スパルティナ・アルテルニフロラ)、日本名はヒガタアシと呼ばれている北米東部沿岸原産の外来種の属名です。

 ヒガタアシは、国際自然保護連合により侵略的な外来植物とされており、旺盛な繁殖力でヨシなどの在来種と競合したり、環境を変化させてしまうため警戒されています。日本には2008年に愛知県の河川に侵入、翌2009年には熊本県の河川に侵入しました。現在のところ他県からの報告はありません。2014年6月には、スパルティナ属植物全種が特定外来生物に指定されています。シギ・チドリの生息環境に影響を及ぼす可能性があるため、豊橋市で1月9日に開催された日本スパルティナ防除ネットワークの学習会に参加してきました。

 学習会では、三河湾の干潟の特徴とよく観察される干潟の鳥類について汐川干潟を守る会の藤岡エリ子さんが説明したのち、木村妙子三重大准教授が、ヒガタアシが生えていた場所と生えていなかった場所の底生動物層の比較について話されました。生えていた場所にはホソウミニナが多く生息していたそうです。シギ・チドリも砂質を好んだり泥質を好む種がいます。ヒガタアシの好む環境によく生息している底生動物やシギ・チドリの生息種の分布から、侵入しやすいところを抽出してリスクを予想できるのではないかと思いました。またヨシよりも水深の深い所に侵入可能で、泥などをトラップして地盤高を上げ草原化させるため、生息環境を大きく変えてしまうようです。干潟の生物には影響が大きいと予想されます。

 環境省九州環境事務所の平野淳さんからは、熊本県白川で行われたヒガタアシの駆除について話題提供されました。人力での駆除が不可能なほど広域に拡大したため、大型浚渫船で株ごと掘りとり駆除し、埋め立て処理を行なったとのことです。植物残渣や泥が飛散しないように干潮時に作業することやノリの作業が始まる9月までに作業を終えなければならない等、ノリ生産者などや関係者との調整が大変そうでした。また、ヒガタアシ群落に希少なカニが生息しだし、それを移動させてから作業する必要が出てきたり、平成26年の作業量推定時に約780㎡だったものが、拡大して平成27年の実際の作業時には約1100㎡になっていたりと、時間が立てば立つほど対応が大規模複雑化していました。また、除去したものの処分地をどこにするかも今後問題となりそうでした。

最後に事務局の花井隆晃さんから、外来種の駆除活動をどのように継続的に行うか、また一般の興味の薄そうな、しかし自然には重要な話題を多くの人が注目する運動にするかといった話題提供で、これは、シギ・チドリの保全を考えるときに考えることと似ているなと思いました。とにかく周知するしかないのですが。

意見交換では、愛知県と熊本県とでは別系統であるため、侵入経路も別であるという意見や安全性も考慮した薬剤による駆除の可能性なども活発に議論されていました。

感想としては、ひとたび群落化を許すと労力(作業量や調整時間)と資金がかなり必要と感じました。侵入初期の小型のうちに対応するのが、まず第一だと思います。日本スパルティナ防除ネットワークのホームページに「ヒガタアシに似た植物との見分けるポイント」が提供されていますので、漁業者や一般に積極的な周知を行う必要があります。シギ・チドリ類などを観察するバードウォッチャーも監視役として協力できるのではないかと思いました。

在来のアシと違って冬期に青々としているので、冬は一番見分けやすい時期であるそうです。冬に干潟に足を運んだ時は気にかけてみてください。

ヒガタアシ(紙田川河口冬の株) 藤岡エリ子さん提供

ヒガタアシ(紙田川河口冬の株) 藤岡エリ子さん提供

 

■環境省 九州地方環境事務所 外来生物対策-スパルティナ・アルテルニフロラについて~特徴や予想される被害等~

http://kyushu.env.go.jp/wildlife/mat/m_2_13.html

 

■日本スパルティナ防除ネットワーク

http://jpnet-prev-spartina.jimdo.com/

追記-日本スパルティナ防除ネットワークの花井さんから写真を提供していただきました。

単体のヒガタアシ群落2012.10.12 (青矢印はヨシ。10月中旬ごろは両者の色が随分違う)

単体のヒガタアシ群落2012.10.12
(画像左端はヨシ。10月中旬ごろは両者の色が随分違う)

パルティナとヨシの混在2014.10.7 (奥:スパルティナ、手前:ヨシ、秋はヨシの枯れが目立つのに対し、スパルティナはまだ緑色が強い)

パルティナとヨシの混在2014.10.7
(奥:スパルティナ、手前:ヨシ、秋はヨシの枯れが目立つのに対し、スパルティナはまだ緑色が強い)

穂の拡大2014.9.15 (ヨシのように広がらず、槍の先のような印象になる)

穂の拡大2014.9.15
(ヨシのように広がらず、槍の先のような印象になる)