バードリサーチニュース

東京の鳥の1970年代からの変化

バードリサーチニュース2018年1月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之・佐藤 望

 流行の発信地東京。カツ丼の発祥の地も東京です(福井という説もあります)。人の流行だけでなく,コゲラの市街地侵出や猛禽類の都市での繁殖など鳥の変化も,他の地域に先駆けて見られています。都市化が進み,その反省から緑地整備が進む等,都市計画が他所よりも早く進んでいるからなのかもしれません。こんな東京の鳥たちの今を知ろうと,全国鳥類繁殖分布調査に合わせて詳細調査を昨年からスタートさせました。
 昨年の6月号でスタート直後の様子,そして,10月号で水戸との比較についてご報告しましたが,昨年のデータの入力も完了し,樹林性の鳥の増加と開けた場所の鳥の減少などが見えてきたので,ご報告します。

 

1㎞メッシュの詳細調査

図1 分布の拡大するガビチョウ。:繁殖を確認,:繁殖の可能性あり,:生息を確認

 20kmメッシュで調査している「全国」とは異なり,東京都繁殖分布調査は1kmメッシュの詳細調査をしています。1970年代,1990年代にも東京都により同様の調査が行なわれているので,その時と同じコースで調査するとともに,過去に調査コースが設置されていないメッシュについては,新たにコースを設置して調査を行なっています。
 1年目の調査には,125名の方に参加いただき,373メッシュの鳥の情報を集めることができました。東京都全体のメッシュ数は1926メッシュあるので,調査できたのはごくごく一部ですが,それでもガビチョウが多摩川づたいに分布を拡げている様子(図1)などを明らかにできています。また,141メッシュでは1970年代,1990年代と同じルートでセンサスを行なうことができ,その比較から増えている鳥と減っている鳥が見えてきました。

分布を拡げる樹林の鳥

 1970年代,1990年代と比較して分布が拡がっている鳥には大きく分けて3タイプの鳥がいました。上に分布図でも示しましたが,ガビチョウやホンセイインコのような外来鳥が増えていました。そして,カワウやアオサギといった大型の魚食性の鳥が増えていました。これらは全国繁殖分布調査で得られた傾向ととも一致しています。そしてもう1つ増加が顕著なのが樹林性の鳥です(図2)。コゲラ,メジロのような比較的小規模な樹林でも繁殖できるような鳥は,1970年代,1990年代,そして今回と順々に分布が拡がっていましたが,ヤマガラやキビタキのような樹林性がより強い鳥たちは今回,急激に分布が拡大していました。
 東京では公園や街路樹,雑木林などの木が育って,樹林性の鳥には良い環境になってきていると思われます。それは1970年から徐々に起きているのですが,1990年代にはまだ樹林性がより強い種にとって満足できるほどの環境になっていなかったのが,現在までの間に十分な環境になり,分布を拡大させてきたのかもしれません。

 

図2 分布が拡がっている樹林性の鳥(撮影:三木敏史)

 

分布の縮小の顕著な開けた場所の鳥

 樹林の鳥の分布が拡がっているのに対して,開けた場所に生息する鳥の分布は縮小傾向にありました(図3)。調査地点数が少ないのでまだわかりませんが,イソシギやコチドリなどの河原の鳥の分布は急激に減っていそうですし,草地などの開けた場所にいる鳥の減少も顕著でした。特にモズやヒバリといった以前は畑で繁殖していた鳥は畑が住宅地に変えられたり,作物が麦から野菜類に変わったことで,1970年代から1990年代にかけて急激に減り,その状況は現在も変わっていないようです。それに対して河川敷などに多いセッカやホオジロは徐々に環境が悪化しているのか,分布も徐々に縮小しているようです。

 

図3 減少している開けた場所の鳥(撮影:三木敏史)

 

オナガはなぜ減少?

 ここまでは,全国繁殖分布調査結果や東京都での1990年代の調査結果からある程度想像していた増減でしたが,ちょっと意外な鳥の減少もありました。それはイワツバメとオナガです。
 オナガは1970年代から1990年代,そして今回と右肩下がりに減少していました。都心部など環境条件の厳しそうな場所で減少しているのかと思いきや,都心部では逆に分布を拡大している場所があるほどで,減少しているのは本来の生息地である郊外エリアでした。全国鳥類繁殖分布調査の結果を見てみると,全国的にもオナガはやや減っているようです。オナガに何が起こっているのでしょう? 現時点では何も思いつきません。今年はオナガの生息の有無と環境に注目しつつ原因を考えていきたいと思います。

 

1990年代の調査と今回の調査でのオナガの生息状況の変化。:オナガがいなくなったメッシュ,:両期とも記録されたメッシュ,:新たに出現したメッシュ


 イワツバメは1970年代から1990年代は大きな変化はありませんでしたが,今回の調査で急激に減少していました。コロニーをつくって集中して分布する鳥なので,調査できている地点数が少ないためにそう見えているだけなのかもしれません。気にしつつ,データを増やしていきたいと思います。



調査にぜひご参加ください

 オナガやイワツバメの動向や各種の増減の原因などを明らかにしていくためにはさらに多くのメッシュでの調査が必要です。東京在住,勤務の方,調査に参加しませんか? 早朝の調査ですし,繁殖期に2回のセンサスを行なうだけですので,仕事や授業の前に家の近くや職場や学校の近くですることもできると思います。
 自分で調査する自信がない人は,誰かの調査のお手伝い,ということも可能です。以下に調査コースや未調査のメッシュの地図がありますので,できそうな場所をクリックして登録ください。ご参加お待ちしています。

http://www.bird-atlas.jp/tokyo/map.html

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