2020年の完成を目指して調査を進めている全国鳥類繁殖分布調査。順調に調査が進んでいます。先日のニュースレターでは,全国的な傾向とは逆に,北海道ではオオヨシキリの分布が拡大していることなどを紹介しましたが,今回は東日本で特徴的な鳥の分布の変化について紹介します。
調査コースが違うと当然結果も変わってしまうので,前回(1990年代)の調査コースから変更の少ない調査地について,その出現の変化をみてみました。多くの鳥は東日本でも全国と同じような分布変化をしているのですが,全国的に分布を縮小させているゴイサギが東北・中部日本海側地域では縮小していないこと,分布拡大傾向にあるアオゲラが,北に行くほど分布拡大が顕著であることなどが見えてきています。また,ヤマガラについては,東北・中部日本海側地域よりも関東・中部太平洋側の地域で分布が拡がっていて,平地と標高の高い地域へと分布を拡大しているようです。
分布の北の地域ではそれほど減っていない? ~ゴイサギ~
カワウやアオサギなどの大型の魚食性の鳥の分布が拡大している一方で小型の魚食性の鳥には分布を縮小させているものがいます。その代表格がゴイサギ。全国的に分布が縮小しています。しかし,東北・中部日本海側地域だけは例外で,分布を縮小させてはいませんでした(図1)。
東北でゴイサギを見ている人に状況を聞いたところ,東北でもゴイサギの数は減っている印象があるそうです。東北でもゴイサギは数は減っているけれども他地域よりその程度は小さく「分布がかわるほどではない」ということなのかもしれません。今後の変化を注視していきたいと思います。
北ほど分布拡大傾向 ~アオゲラ~
ゴイサギと同様,東北・中部日本海側地域が分布の北限になっている鳥にアオゲラがいます。彼らは全国的に見ると分布が拡大傾向にある鳥ですが,より北の地域で分布の拡大傾向が大きいようです(図2)。北方起源のアカゲラに対して,アオゲラは南方起源の鳥なので,北へと分布を拡げているため,このような傾向が見られるのだと思われます。
高標高域へも低標高域へも分布を拡大? ~ヤマガラ~
アオゲラ同様に南方起源の鳥 ヤマガラ。今回の調査の記録個体数で見ても,南の方が個体数が多いのがわかります(図3)。
これまで,いくつかの種について書いてきましたが,こういう種は分布の北側で分布拡大が顕著になることが多いのです。でもヤマガラは違いました。分布域の真ん中にあたる関東・中部太平洋側の地域で分布が拡がっていたのです(図4)。この地域は関東平野を筆頭に,広い平野のある地域です。東京でも平地でヤマガラを見るようになっているので「平野部に分布を拡げているためにこういうパターンになったかな?」と思い,分布変化を地図化してみました。
この考えは半分正解,半分間違いでした。確かに分布は平野部へと拡がっています。これは,平地の公園や雑木林,街路樹などの緑が育ってヤマガラの好適な生息地となり,分布が拡がったのだと思われます。ただ,それだけでなく,高標高域への分布拡大も見られたのです(図5)。もともといた低山帯から,より気温の低い高標高域へも分布を拡大している様なのです。
でもなぜそれが関東・中部太平洋側で顕著なのでしょうか? ある程度個体数が多くなった地域でそうした違う環境への分布拡大が起きるのでしょうか? ともすると20年後にはその位置がより北へと向かい,東北・中部日本海側地域で顕著に見られるようになるのでしょうか? 引き続き情報収集をしつつ見ていきたいと思います。
調査にぜひご参加を
さらに詳細な分布変化を明らかにしていくためには,多くの場所で調査をしていくが必要があります。東日本でも岩手,福島,群馬などまだまだ調査者の決まっていないコースがたくさんあります。また現地調査だけでなく,アンケートによる情報収集も必要です。調査参加登録がまだのかたはぜひ調査登録をお願いします。
調査登録はこちらから https://db3.bird-research.jp/~birdatlas/volunteer.html