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温度と採食地までの距離が身体の大きさを決める? ~ 北のコロニーほど身体が大きいオオミズナギドリ ~

野鳥の不思議解明最前線 No. 126 【野鳥の不思議】
著者:植田睦之
木に登るオオミズナギドリ。木から飛び立つコロニーと地面から飛び立つコロニーのあいだでも形態が違ったりしているのかな?

木に登るオオミズナギドリ。木から飛び立つコロニーと地面から飛び立つコロニーのあいだでも形態が違ったりしているのかな?

 

 「ベルグマンの法則」って覚えてます?「高校(中学?)の生物で習ったので聞き覚えはあるけど,忘れちゃったよ」って人が多いのではないかと思います。ぼくも「アレンの法則」「グロージャーの規則」とどれがどれだったかな,とちょっと自信がないくらいにしか覚えていませんが,北のものほど身体が大きいという法則です。
 鳥でも北にいる亜種の方が大きいという事例がありますが,特に亜種に分かれていなく,移動能力の高いオオミズナギドリもその法則にしたがっていて,また,巣穴をめぐる競争や,コロニーから採食地までの距離も大きさに影響していそうだということがわかってきました。

 この研究を行なったのは,名古屋大学の山本さんをはじめとしたオオミズナギドリの研究グループです。オオミズナギドリは各地でGPSロガーを使った採食行動の研究が行なわれています。この利点を活かして,この研究は地域による大きさの違いや採食場所との関係などについて検討しています。
 北は岩手県の船越大島,南は沖縄の沖ノ神島まで8か所のコロニーの情報をもとに解析してみると,北から南あるいは東から西に向けて大きさが小さくなっていく傾向が見られました。ただ,この傾向から少しずれているコロニーもあります。例えば,宇和島の個体はこの傾向よりも大きく,御蔵島は小さい。GPSの調査から,宇和島の個体はコロニー近くの瀬戸内海で採食していて(Ito et al 2013),御蔵島の個体は600km以上も離れた三陸沖から道東まで採食しに行く(Yamamoto et al 2012)ことがわかっています。長距離移動するには身体が小さい方が有利だということが知られていますので,こうした大きさのばらつきが生じたのだと考えられます。
 また,雌雄の大きさの違いを見るとコロニーサイズの大きいところでは,差が大きいことがわかりました。コロニーサイズの大きい島ほど巣穴をめぐる競争が激しくなります。大きなくちばしをもつ鳥の方が競争に有利で(Shirai et al 2013),雄が巣の防衛を多く担うと考えられているので(Yamamoto et al 2011),競争の激しい場所では雄が大きくなることで,このような違いが生じたのだと思われます。
 ベルグマンの法則は身体が大きい方が体重当たりの体表面積が小さくなり,放熱が小さくなるため,北のものほど身体が大きくなるという法則です。そのため通常なら,繁殖期ではなく,気温の低い越冬期の生息場所の方が身体の大きさに影響しそうです。ただオオミズナギドリの場合は越冬期は赤道付近で過ごすので(山本 2013),コロニーの位置が影響したのでしょう。そして,コロニーへの執着が大きく,コロニー間の遺伝的な交流が少ないので,大きさの違いが定着したのでしょうね。

 

紹介した論文
Yamamoto T, Kohno H, Mizutani A, Yoda K, Matsumoto S, Kawabe R, Watanabe S, Oka N, Sato K, Yamamoto M, Sugawa H, Karino K, Shiomi K, Yonehara Y & Takahashi A (2016) Geographical variation in body size of a pelagic seabird, the streaked shearwater Calonectris leucomelas. J Biogeography  43: 801–808.