バードリサーチニュース

図書紹介:鳥の行動生態学

バードリサーチニュース2016年3月: 4 【図書紹介】
著者:三上かつら

book1鳥の行動生態学

江口和洋 編
京都大学学術出版会
税込 3,456円
ISBN: 9784814000005


 鳥の行動生態学に関する本が出版されました。長年,九州大学で鳥の行動生態を研究してこられた江口和洋さんが編集されたものです。

 本書には鳥の行動についての興味深い話がたくさん掲載されています。たとえば鳥の浮気,子殺し,オスからメスへの給餌行動,托卵する鳥とされる鳥のだましあい,鳥がことばを話すこと。そういった現象について,世界ではいま,どんな風に研究されているのかが紹介されています。鈴木俊貴君などホットな若手研究者からベテラン研究者まで,総勢11名により執筆されています。
 三上(私)はこの本で鳥の知能的行動の章を担当しました。賢い鳥の話です。複雑な動作ができる動物はたくさんいますが,道具を“加工”して使うことができる動物はごく限られています。ヒト,類人猿,そしてカレドニアガラスです。カレドニアガラスたちは,果たして生まれてから誰からも教わらずに道具を作ることができるのでしょうか?ハシボソガラスが車にクルミをひかせて殻を割って中身を食べるのはなかなか賢い行動ですよね。クルミ割りがうまくいくとき,いかないとき,その違いは何でしょうか?ハトも賢いですが,カラスの賢さとはどんな違いがあるのでしょうか?そして本当に道具を加工することができる鳥はカレドニアガラスだけなのでしょうか?その答えを知りたい方は本書をめくってみてください。

 自然科学の分野では,一般向けの面白くわかりやすい書籍が出版されるのがトレンドですが,珍しく,この本は難しい本といえます。専門性が高い,といいかえることもできます。まえがきにはこう書かれています。「本書は,高度な内容を出来るだけわかりやすく解説するように努めているが,総説の体裁をとっているため,研究者や大学院生を基本的な対象としている。」なんとも硬派です。ハードボイルドです。グラフはしっかり,専門用語もたっぷり出てきます。「世界レベルで最先端の研究内容を日本語で読める,ラッキー!」と感じるコアな層向けの本ということなのです。ただ,そういった層の人たちはあまり多くいないので,たくさんは売れないかもしれません。でも,これを読んだ若者や研究者が今後の鳥学分野を牽引してくれる ― そうなるといいな,と思います。

 

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