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必要な時,必要な方法でヒナを守る ~ ヒナの小さい時にはディスプレイで防衛するハシグロオオハム ~

野鳥の不思議解明最前線 No. 122 【野鳥の不思議】
著者:植田睦之
ヒナを育てるカイツブリ。彼らもヒナが小さい時は声で防衛する? 撮影:三木敏史

ヒナを育てるカイツブリ。彼らもヒナが小さい時は声で防衛する? 撮影:三木敏史

 先月の出張は6回19日。今月もたくさん出張があり,2月いっぱいまでは,旅の日々になりそうです。旅の日々は,いろんな人と会えて楽しいですし,趣味のカツ丼コレクションもどんどん増える(先月は7つ増えました)ので言うことないのですが,ちょっと困ることもあります。ネットがつながれば,たいていのことは旅先でもできるのですが,どうしても調査の調整業務に手がまわらなくなってしまうのです。仕事はもちろんどれも大切なのですが,手を抜くもの,力を入れるものを分けないと,うまくまわせません。「任せちゃっても大丈夫かな」という人と一緒にやっている仕事はちょっと手を抜いてしまいます(T田さん,S田さん,S崎さん,H山さん,M上さん・・・皆さん頼りにしてます)。

 ぼくら以上に厳しい世界で生きている鳥たちも,どんな時に,どうやってがんばるかを決めることは重要です。特に繁殖期は自分たちが生き残るだけでなく,ヒナに給餌したり,ヒナの防衛,なわばりの防衛とやることがたくさんあります。
 アメリカのJukkalaさんとPiperさんはハシグロオオハム Gavia immer に侵入者を模したデコイを見せることで,侵入者対して,どのような時期にどのような反応をするかを調べました。その結果,ヒナが小さい時と大きい時,そしてヒナの数によって防衛の方法や頻度が変わることがわかってきました。

 この研究が行なわれたのはアメリカのウィスコンシン州の湿地。ハシグロオオハムの模型(デコイ)を,まだヒナの小さい時期(ふ化後2週間まで)と,大きくなった時期(生後4-11週間)に親鳥に見せ,その反応をしらべました。
 ヒナを防衛する行動には,直接的に追い払う防衛行動と鳴き声やディスプレイによる防衛行動があります。直接的な追い払いは,一番効果がある反面,防衛をしているあいだ,ヒナが置き去りにされてしまうという問題もあります。つまりある侵入者に対処している時に,ほかの侵入者によりヒナが捕食されてしまう可能性があるのです。ハシグロオオハムの親はそれがわかっているのか,ヒナが小さく危険な時には,親鳥はデコイにあまり近寄らず,鳴き声(ヨーデリング)やディスプレイ(ペンギンダンス)によって防衛を行なうことがわかりました。それに対して,ヒナが大きくなって捕食の脅威が小さくなるとヨーデリングやペンギンダンスはあまりしなくなり,デコイに接近しました。つまり,親鳥はヒナの危険度の高い時期に頻繁に防衛し,またそれはその時の状況に適した方法だと言えそうです。
 また,ヒナの数が増えると,ヨーデリングの頻度も高まりました。防衛により多くのヒナを育てられる場合は熱心に防衛するとも言えそうです。
 この研究でしらべたのは,同種に対する防衛行動でしたが,他種に対する場合はどうなのでしょうか? ヨーデリングをしても,ペンギンダンスをしても,他種からみたら「何してんの?」という思われるだけで防衛効果はないような気がします。そんなときは,ヒナから離れるリスクに気を付けながらも直接的な攻撃をするのでしょうか? それともヒナのまわりで,じっとガードするのでしょうか? そのあたりも知りたいですね。

紹介した論文
Jukkala G & Piper W (2015) Common loon parents defend chicks according to both value and vulnerability. J Avian Biology 46: 551-558. doi: 10.1111/jav.00648.