秋になり,すごしやすい季節になってきましたね。空調いらずのこの時期,バードリサーチでは窓を全開にして仕事してますが,ちょっと困ったことがあります。事務所が鎌倉街道に面しているので,自動車の騒音がうるさいのです。特に声の小さい某K省のSさんやMさんからの電話は,何言っているのか聞こえず,ちょっとイラッとします(「自動車に」ですよ)。
ぼくの仕事にだけではなく,騒音は鳥へも影響を与えます。騒音があるところでは,シジュウカラのさえずりが高くなり,ミソサザイはシンプルで周波数の幅の低い声でさえずるようになることが知られています。また,シジュウカラの繁殖成績が下がったり,ズアオアトリ Fringilla coelebs の採食効率が下がることも知られています。
こうした親鳥への影響だけでなく,騒音が子供の将来にまで影響する可能性を示した論文がBiology Letters誌に載っていたので,紹介したいと思います。
この研究をしたのはMeillèreさんたちです。彼女たちはイエスズメ Passer domesticus 用の巣箱にスピーカーを設置し,63dBの道路騒音と,0.5dBの田舎の のどかな音を再生する実験をしました。そして,そこで育ったイエスズメの9日齢のヒナの大きさやストレスの度合い(ストレスホルモンのコルチコステロンのレベル)そして,テロメアの長さを計測しました。
ほかの要素が騒音の有無で有意な差がなかった中で,騒音とともに育ったイエスズメのヒナのテロメアの長さだけが有意に短いことがわかりました。テロメアというのは,増毛法っぽい響きがありますが,それではありません。染色体の末端部にある構造物で,染色体の保護に役立っています。しかし,その長さは年齢とともに短くなってしまいます。そのため,テロメアの長さは寿命や適応度の指標になると考えられています。つまり幼少期に騒音のあるところで育ったテロメアの短いイエスズメは短命な可能性があるのです。
なぜ,騒音のある巣箱のイエスズメのテロメアが短かったのでしょうか? 現時点ではテロメアの長さ以外に騒音のある巣箱とない巣箱のあいだに差があるものはなく理由はよくわかりません。Meillèreさんたちは,騒音が睡眠-起床のサイクルを乱すなどして,テロメア長に影響が出ているのではないかと考えています。
日本でもスズメが国道の上の標識ポールで繁殖していたり,空港の滑走路の脇でもたくさんの鳥が採食していたりします。鳥は騒音には簡単に慣れてしまうと思っていましたが,気づかないところでじわじわ影響が出ていたりするのかもしれませんね。種による影響の違いやそのメカニズムの解明など,今後の研究に注目したいと思います。