バードリサーチニュース

生態図鑑(要約版)ハチクマ

バードリサーチニュース2015年9月:7 【生態図鑑】
著者:久野公啓(信州ワシタカ類渡り調査研究グループ)

○英名: Oriental Honey-buzzard  
  学名: Pernis ptilorhynchus
○分類: タカ目 タカ科

○羽色

ハチクマのオス  Photo by 久野公啓
ハチクマのオス
Photo by 久野公啓

 体下面の羽色や斑紋は変異が大きく,地色はほぼ純白から褐色,黒褐色まで連続的にさまざまな濃度のものがある.風切羽と尾羽の暗色帯は幅広く顕著なものと,細く淡いものの2種類が混在する.これはハチクマに特有の模様で,同定時の重要な手がかりとなる.頭部の羽毛は密で細かいが,スズメバチの毒針による攻撃を完全に防ぐほどの強度はない.虹彩色はオス成鳥では赤褐色から暗褐色,メス成鳥は黄色,幼鳥は暗灰褐色.オス成鳥では加齢によって虹彩の赤味がしだいに弱まった事例が数個体で確認されている.ろう膜は成鳥では暗灰色,幼鳥では黄色.成鳥でも若齢個体のろう膜にはしばしば黄色部が残る.

○生息環境
 基本的に森林内で生活する.人里近くの人工林から,奥山の自然林までさまざまなタイプの森林を利用し,林地に隣接する田畑,牧草地,養蜂場などで採食することもある.

○繁殖システム
 一夫一妻で繁殖すると考えられるが,つがい相手は必ずしも毎年同じではなく,長野県では7年間に3個体のメスとつがい関係を形成したオスが記録されている.また巣の位置を17km移動させた例も報告されている.

○巣、卵
 基本的に森林内で生活する.人里近くの人工林から,奥山の自然林までさまざまなタイプの森林を利用し,林地に隣接する田畑,牧草地,養蜂場などで採食することもある.

○ハチクマの行動圏
 繁殖期のハチクマの行動圏は広く,長野県内で電波発信機を用いて調査された3個体(♂2,♀1)の活動点の最外郭を結んだ行動圏はそれぞれ203km2,193km2,165km2であった.育雛中,ハチクマが巣から10km以上離れた場所まで蜂の巣を取りに出かけるのはごく日常的なことである.抱卵期の移動スケールはさらに大きく,一度飛び立った個体が1時間以上どこにも着地することなく飛び続けることも珍しくない.まっすぐに飛べば30km,40kmの移動になる.上記の3個体の追跡調査でも,移動距離が大きすぎるために追跡しきれず,行き先を見失ってしまうこともしばしばであった.実際の行動圏は調査結果よりもさらに広かっただろうと考えられる.春秋合わせて2万kmもの渡りを毎年繰り返すハチクマのもつ距離感は,我々とはまったく異なるものなのだろう.

◆その他掲載記事
 ・全長,自然翼長,尾長,嘴峰鳥,体重
 ・鳴き声
 ・分布
 ・抱卵・育雛期間,巣立ち
 ・ディスプレイフライト
 ・渡り
 ・食性と採食行動

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