シマアオジはユーラシア大陸の広範囲で繁殖している渡り鳥で(図1)、繁殖分布域の全体で個体数が急減していることが心配されています。日本でも以前は北海道の草原で比較的普通に見られ、鳥類繁殖分布調査によると1974-78年に52メッシュ(20km四方)で繁殖が確認されていましたが、2016-2021年にはわずか1メッシュしか記録がありませんでした。
シマアオジは広い繁殖域の全体で減少傾向にあることから、中国南部から東南アジアにかけての越冬地で大規模な狩猟が行われていることが減少の大きな要因ではないかとの指摘がされてきました。越冬地のシマアオジは数千から数万の群れをなしてヨシ原にねぐらをとる習性があり、それをかすみ網で一網打尽にされてしまうのです。中国で1996年に発行された雑誌には「広東省の中部の三水市では1992年10月から毎年シマアオジグルメ祭りが開かれていて、10万人近くの人が集まる。シマアオジはかすみ網を使ってヨシ原で捕獲され、20~30mの網1枚で1,000~2,000羽が捕れ、1シーズンで数十万羽が捕獲されている」という記述があります。中国では2021年2月にシマアオジが保護種の第一類に指定され、現在は狩猟が禁止されていますが、後述のように、こうしたかすみ網猟はいまでもシマアオジが越冬する国々で行われているようです。
さて、ヨーロッパからロシア、日本にかけてのシマアオジ繁殖地では個体数や分布の調査が行われていますが、中国南部から東南アジアにかけての越冬地の状況はほとんど分かっていません。そこで、バードリサーチでは2022~24年度に地球環境基金の助成を受けて、シマアオジの越冬地になっているタイ、ミャンマー、カンボジアで、ねぐらの調査と、現地の野鳥関係者と調査手法や保全対策を検討するワークショップを行いました。
最大のねぐらは4万羽を超えるシマアオジが利用
この調査は、それぞれの国のNGOや研究者が連携して参加するプロジェクトとして実施され、タイではBird Conservation Society of Thailand、ミャンマーではBiodiversity And Nature Conservation Association、カンボジアではNatureLife CambodiaやWildlife Conservation Societyが調査の中心になりました。プロジェクト全体はアジアでの小鳥類のモニタリング体制の構築を目指したもので、シマアオジ調査は2024年秋から25年春の期間にアンケートやeBirdの記録を利用した既存情報の収集、そして個体数の多いねぐらでの現地調査を行っています。
シマアオジがねぐらに利用するのは湿地にあるヨシなどの背の高い草本植物で、日中はねぐらにしている湿地や周辺の水田地帯で採食しているようです。ねぐらの現地調査ではシマアオジを正確にカウントすることが難しいので、シマアオジが飛来する方向ごとに調査員を配置するなど試行錯誤をしているそうです。また、シマアオジのカウントは早朝に行うと、短時間のうちにねぐら立ちが起きるのでカウントがしやすいことが分かりました。
以上のような調査の結果、多数のシマアオジが利用している越冬地を複数見つけることができました。主要なねぐらの位置を図3に示します。なお今回見つかったねぐらは全体の一部であり、この他にも多くのねぐらが存在しているはずです。
モニタリング調査普及のためのワークショップを開催
シマアオジ調査はアジア地域で小鳥類のモニタリングを推進するプロジェクトの一環として実施していてて、シマアオジ以外にもホオアカ、コホオアカ、アオジ、シマノジコ、シロハラホオジロなどを調査対象にしています。これらのホオジロ類は開けた場所を生息地にしているため、森林性の小鳥類に比べて調査がしやすいことが理由です。前シーズンの2022-23年越冬期に各国で試行調査を行い、その後、調査方法の改善点を考えるために上記の三カ国に中国も含めた四カ国で、国別にワークショップを開きました。そして2024年11月に北京で開かれたアジア鳥類学会議ではネパールの専門家にも参加してもらい、シマアオジの越冬域のほぼ全域の国々で野鳥関係者が情報交換を行いました。
ワークショップでは調査手法だけなく越冬地でのシマアオジの脅威についても話し合われ、かすみ網による小鳥類の狩猟や、湿地から水田への転換、餌昆虫を減らす農薬の使用が主要な脅威であることが指摘されました。調査とワークショップを通じて、越冬地の東南アジアでシマアオジの重要性を認識する人が増え、各国の野鳥関係者の間にシマアオジに関するネットワークの構築が進みました。数年後には、さらに多くの情報が得られることを期待しています。

図5.ミャンマーのPopa Mountain Park(Mandalay Region)で撮影されたシマノジコ(左)とコホオアカ(右)(撮影 Ko Pu)。シマアオジが利用する草原は他のホオジロ類の生息地でもある。
参考資料
Biodiversity And Nature Conservation Association (2025) Winter Bunting Count in Myanmar. Biodiversity And Nature Conservation Association. Yangon.
Bird Conservaon Society of Thailand (2025) Land Bird Project and Winter Bunng Count 2024-2025. Bird Conservaon Society of Thailand. Bankok.
Ly Samphors , Phon Kreom , Chhoeurn Socheat, Bou Vorsak (2025) Monitoring and Conservation of LandBird (Bunting Species) in Cambodia 2024-2025 Progress Report. NatureLife Cambodia. Phnom Penh.
高育仁 (1966) 天上人参. 大自然(China Nature). 中国自然科学技術協会. 1: 34-35.