バードリサーチニュース

減少するシマアオジを守ろう 広州で国際ワークショップ

バードリサーチニュース2016年11月: 1 【学会情報】
著者:植田睦之
さえずるシマアオジ(撮影:三木敏史)

さえずるシマアオジ(撮影:三木敏史)

 「バイカルでは,1990年までは一番バンディングされる鳥だったのに今は年に数羽しかとれない」「サハリンの南部からはいなくなった」「カンボジアでは,まだ水田や湿地で越冬しているが,食料として捕獲されているようだ」。2016年11月2日から5日まで中国の広州で行なわれたシマアオジ保護の国際ワークショップは,シマアオジの減少を示す深刻な話題ばかりでした。
 以前「野鳥の不思議解明最前線」でも紹介しましたが,シマアオジは世界的に急減しています。そこで,今回のワークショップは,その現状や問題点を明らかにし,保護のためのアクションプランをつくろうと,国際NGO「バードライフ・インターナショナル」が中心となって,繁殖地のロシア,モンゴル,日本,中継地の韓国や中国,越冬地のベトナム,カンボジア,タイ,ミャンマー,そしてドイツの研究者があつまって行なわれました。



分布域の南は壊滅状態

シマアオジの分布と推定される渡り経路。日本は繁殖域の南部に位置する。

シマアオジの分布と推定される渡り経路。日本は繁殖域の南部に位置する。

 日本では,かつてシマアオジは北海道の湿原のシンボルのような鳥でした。しかし現在,繁殖が確認されているのはサロベツ原野のみです。同様にサハリンでも南部からはいなくなってしまい,北部で繁殖するのみということです。ヨーロッパ地域では,分布の西端のスカンジナビア半島などからはいなくなってしまっていて,ロシア西部でも南の繁殖地からはシマアオジはいなくなり,北部に生息するのみということでした。分布の端や日本を含む分布の南部では壊滅状態になってしまったようです。そして,生息している場所でも生息密度は低くなってしまっていて,「増えた」という情報は皆無でした。

 

狩猟は東南アジア諸国でも

 この減少の原因と考えられているのが中国での大量捕獲です。これまでのバンディングの情報から,ヨーロッパなど西で繁殖しているシマアオジも一度東に向かい,中国を経由して東南アジアの越冬地に向かうと考えられています。この渡りのボトルネックになっている中国でシマアオジが大量に捕獲されているために,減少してしまったと考えられているのです。1997年から中国でのシマアオジの捕獲は禁止されています。しかし,数万羽の密猟が警察に摘発されることが,今も続いています。今回のワークショップでは,さらに捕獲は中国だけではなく,東南アジアの越冬地の国々でも,食用や仏教行事の放鳥のために行なわれているようだという情報が集まりました。また,繁殖地のモンゴルでは,過放牧や気候変動により繁殖環境が悪化しているとのことでした。
 暗い話題ばかりの中に,わずかですが明るい話題がありました。香港のロングバレーという里山的な環境の場所で,水田の復活プロジェクトを行なったところ,そこを中継していくシマアオジが増えたということです。広州から帰る途中に,ロングバレーを訪れましたが,実際にシマアオジを見ることができました。

ロングバレーのシマアオジが見られた水田。香港でも農地の高齢化が進んでいて,水田が放棄されていくのを,参加型農業で維持している。収穫されたコメはEco米として販売されている。

ロングバレーのシマアオジが見られた水田。香港でも農家の高齢化が進んでいて,水田が放棄されていくのを,参加型農業で維持している。収穫されたコメはEco米として販売されている。

 

シマアオジ保護のためのアクションプランづくり

シマアオジの保護に必要な研究について議論する参加者。コーディネーターは山階の尾崎さん

シマアオジの保護に必要な研究について議論する参加者。コーディネーターは山階の尾崎さん

 こうした問題を解決するために,ワークショップではシマアオジ保護のためのアクションプランづくりを行ないました。アクションプランはすでに東アジアでは,クロツラヘラサギやヒガシシナアジサシを対象につくられていて,保護の成果が上がってきています。研究,保護,普及啓発の3グループに分かれて,必要な事項の項目出しを行ないました。バードリサーチは日本での経験をいかして,繁殖地や越冬地でのシマアオジの分布や数のモニタリングの手法開発や体制づくりにかかわっていくことになりそうです。将来2016年がシマアオジの保護成功のターニングポイントとして記憶される年になるとよいのですが・・・。

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