寒冷な森林を中心に広く分布
ヒガラはユーラシア大陸に広く分布する種です。日本でも本土部や佐渡,対馬,屋久島などの本土近くの大きな島の森林に広く繁殖し,越冬期には平地部の林でも見られるようになります(図1)。
全国的に分布するといっても,ヒガラはウグイスのようなどこにでもいる鳥というわけではなく,寒冷な場所を中心に分布する鳥です。それは,全国鳥類繁殖分布調査(植田・植村 2021)の現地調査の地域別の記録率をみると,北海道や東北など北の地域ほど高く(図2),また,関東から関西にかけての現地調査の標高別の優占度では,1000-1500mや1500m以上の調査コースで優占種になっていた(表1)ことからも明らかです。
標高の高い場所で増加
全国鳥類繁殖分布調査の現地調査で記録されたヒガラの個体数は1990年代の3,833羽から2010年代は4,591羽に増加していました(植田・植村 2021)。どんな場所で増加しているのでしょうか? 関東から関西にかけての調査地で各年代の平均的な記録羽数を比較してみると,1990年代から2010年代にかけて増加が顕著だったのは,個体数がもともと多かった1,500m以上の調査地でした(図3)。これまで分布をしていなかった低標高地域(植田 online)や西日本など温暖な地域(植田・植村 2021)といった場所に新たに分布するといった,分布の拡大も起きているのですが,もともとヒガラが多かった「ヒガラにとって好適な環境」で,さらに個体数が増えているようです。多くの種は繁殖期になわばりをもつので,それが制限となって個体数の多い場所でさらに増えることはできません。ヒガラもなわばりを持つのですが,なぜかわかりませんが高密度で生息することが可能です。野外調査では定点から50m以内の個体数をかぞえることが多いのですが,なわばりを持つ種ではその範囲では1羽ないし2羽しか記録されません。しかしヒガラではそれ以上記録されることも普通なのです。こうした生態を持つため,主要な生息地で個体数がさらに増加することができるのだと思われます。
年変動の大きい越冬期の個体数
モニタリングサイト1000の陸生鳥類調査では,繁殖期と越冬期に調査を行なっています。繁殖期は,キビタキの増加や藪に生息する鳥の減少などが明らかにされていますが(植田ほか 2014),越冬期は,シロハラやコゲラの減少傾向が示されているものの,多くの種では記録される個体数の年変動が大きく,増減がはっきりしません(環境省生物多様性センター 2023)。特にヒガラはその変動が大きいような気がしていました。そこで,越冬期の年変動の度合いを近縁の鳥たちと比較してみました。変動係数(標準偏差を平均値で割った値)でみてみると,ヒガラはほかの種よりも大きく,年変動が大きいことがわかります(図4)。
その理由はわかりませんが,貯食が影響していると推測しています。一番変動の大きいヒガラと,2番目に大きいシジュウカラは貯食をしないからです。この2種は貯食しない分,その他の種よりも冬の食物が不安定になり,食物状況の良い年と悪い年で,移動したりしなかったりして,個体数の年変動が生じるのかもしれません。また,標高の高い場所に生息し,冬の食物条件の厳しいヒガラでその傾向が高いというのは,話としてはありそうです。ただ,これを検証するのはなかなか難しいことです。それは食物状況の悪い年は,移動していってしまって個体数が少なくなる面があるのとともに,より悪いところから移動してきて多くなる面もあって,冬の食物が数に与える影響は複雑だからです。そのためモニタリングサイト1000でも冬の食物と個体数はいつも話題になるけれども解決できない「永遠の課題」としてこれまで棚上げになってきました。これからも情報を蓄積していき,種間比較や個体数ではなく変動の大きさなど,個体数以外の切り口で,なんとかその理由を明らかにしたいなと思っています。
引用文献
環境省生物多様性センター (2023) 2022年度重要生態系監視地域モニタリング推進事業(陸生鳥類調査)調査報告書.環境省生物多様性センター,富士吉田.
植田睦之(online)低標高に分布を拡げた鳥.NPOバードリサーチYouTubeチャンネル.