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レッドリスト選定を検討すべき鳥たち 全国鳥類繁殖分布調査で減少がわかった鳥

バードリサーチニュース 2021年1月: 3 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ/全国鳥類繁殖分布調査事務局)

全国鳥類繁殖分布調査は今年度が最終年です。コロナの影響もあり,調査ができなかったコースがあるので,来年度も補足調査をする予定ですが,98%以上の調査が完了し,日本の鳥の現状や,過去と比べて増えた種,減った種が見えてきました。詳細は年次報告報告ビデオをご覧いただけたらと思いますが,今回お話しするのは,減少した種のうち,現在のレッドリストには掲載されていない鳥たちです。1990年代と今回,ほぼ同じ経路で調査をできたコースを対象に,確認コース数を比較すると,アマサギ,ハリオアマツバメ,バンなどが減少傾向にあるもののレッドリストには掲載されていないことがわかりました(表1)。もちろん分布の増減は,個体数の変化とイコールではありませんし,表1に示した個体数の変化は,各コース1回しか調査していないので,精度の低いものですが,少なくともレッドリストの選定について検討した方がよい種と言えます。

 

種により違う1970年代からの変化

図1 サギ類の確認メッシュ数の1970年代からの変遷

 そうした検討をする上で重要なのが,表に示した1990年代からの変化だけでなく,もっと長い期間での変化です。全国鳥類繁殖分布調査は1970年代にも行なわれていますが,現地調査やアンケートといった個別のデータが残っていないため,厳密な比較はできないのですが,それらを合わせた記録メッシュ数の1970年代からの変化を見てみました。
 するとアマサギ,コサギ,ゴイサギの3種は,1970年代から1990年代にかけて確認メッシュ数が増加し,その後,減少していたのに対し(図1),それ以下の種は,1970年代から継続して減少していました。長期間で見ると,今回の上位3種よりほかの種の方が,より危機に瀕しているのかもしれません。

 ただ,上位3種についても「それほど危機に瀕していない」ということではないと思われます。1970年代は農薬や水質汚染,開発の影響によって,世界的に猛禽類や魚食性の鳥が急減した時期だということが知られています(Newton 1998)。日本でも同様の変化がカワウやサギ類で示されています(成末 1992,福田ほか 2002)。したがって,これらの3種は,こうした急減の後に,少し回復したもの,再度減少に転じたのだと思われます。やはり危機に瀕した鳥と言えるでしょう。

 

分布の中心域で減っているオナガ

図2 オナガの地域別の増減。nは記録のあったコース数を示し,関東中部太平洋地域が分布の中心であることがわかる(写真:内田博)。

 次に分布域のうちどこで減っているのかを見てみました。多くの種では,全体的に減っているか,あるいは分布の端の方で減っているという傾向がありました。分布の端は個体数が少ないので,偶然いなくなるようなこともおこりやすいし,その種にとって,環境要件の厳しい場所でしょうから,環境変化や気候変動などの影響も受けやすいのでしょう。そんな中,オナガだけが違うパターンを示していました。分布の端よりも中心部である,関東などでの減少が顕著なのです(図2)。関東などでは,減っているといってもまだ普通に生息しているので,レッドリストに選定するほどなのかはわかりませんが,分布の端から減っている場合は,徐々に減少していくことになりますが,中心部で減っているとすると,気が付いた時には既に急激してしまっていることが心配されます。オナガの変化には注目し続ける必要がありそうです。

 

現在も狩猟対象のゴイサギとバン

図3 ゴイサギとバンの狩猟捕獲数の変化

 減少率が3位のゴイサギと,6位のバンは,レッドリストに掲載されていないどころか,今も狩猟対象の鳥です。そこで,1996年以降の狩猟数について集計してみました。両種とも狩猟数は急激に減少しています。ただ,これは,ほかの狩猟対象種も同様なので,この2種の個体数の減少というよりは,狩猟者の減少を示しているのだと思います。ただ,ゴイサギは100-200羽,バンは200-300羽でここ近年は低い値で底をうってしまっているのが,ほかの狩猟対象とは異なります。県別のデータを見ると,西日本の一部の地域を除けば,ほとんど獲れなくなるまで減ってしまっているようです。減少していることや,こうした狩猟の現状を考えると,狩猟対象種から外すことの検討が必要なように思われます。狩猟対象種がコロコロ変わるのは,間違いが起きたりすることにもつながり,良いことではありませんし,狩猟者との合意を得ていかなければならないことなので,慎重な対応が必要ですが,狩猟対象種を増加している種に入れ替えるなども視野に入れながら,働きかけが必要なように思います。

 全国鳥類繁殖分布調査では,日本で繁殖する全種について,その変化を明らかにすることができました。どのように評価していくかについては,まだ課題も多くありますが,ほかにはない,総合的なデータですので,レッドリストの検討会に対して情報をアップデートして,改訂に役立てていきたいと思います。

 

引用文献
Newton I (1998) Population Limitation in Birds. Academic Press.
成末雅恵 (1992) 埼玉県におけるサギ類の集団繁殖地の変遷.Strix 11: 189-209.
福田道雄・成末雅恵・加藤七枝 (2002) 日本におけるカワウの生息状況の変遷.日本鳥学会誌 51: 4-11.

繁殖分布調査のYouTubeビデオ
 全国の結果:https://youtu.be/n-fswx9PeU4
 レッドリスト:https://youtu.be/U4oHhlySGJ0
 越冬分布:https://youtu.be/SOxUsTFhBqQ